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甲陽軍鑑 / 品第十二

扨てその樣成る家にて諸侍存するは件の者町人·百姓なれ共、利發者にて仕出でたりとて、殊の外浦山敷く思ふにより、古來の本侍ども大小·老若ともに十人の內九人は奢りおほへいになり、諸傍輩への時宜作法をも取り失ひ、寄合ての雜談にも五ツかたれば四ツは賣買慾德のことばかりいふて、行義眞なる樣にてばしなり、分別有る樣にて無分別なり、きやしやなる樣にて意地きたなし、次第に其家の諸奉公人樣子あしうなる儀、偏へに地下人·町人のはびこる故ぞかし、

新字:扨てその様成る家にて諸侍存するは件の者町人·百姓なれ共、利発者にて仕出でたりとて、殊の外浦山敷く思ふにより、古来の本侍ども大小·老若ともに十人の内九人は奢りおほへいになり、諸傍輩への時宜作法をも取り失ひ、寄合ての雑談にも五ツかたれば四ツは売買慾徳のことばかりいふて、行義真なる様にてばしなり、分別有る様にて無分別なり、きやしやなる様にて意地きたなし、次第に其家の諸奉公人様子あしうなる儀、偏へに地下人·町人のはびこる故ぞかし、

書き下し

扨てその様成る家にて諸侍存するは件の者町人·百姓なれ共、利発者にて仕出でたりとて、殊の外浦山敷く思ふにより、古来の本侍ども大小·老若ともに十人の内九人は奢りおほへいになり、諸傍輩への時宜作法をも取り失ひ、寄合ての雑談にも五ツかたれば四ツは売買慾徳のことばかりいふて、行義真なる様にてばしなり、分別有る様にて無分別なり、きやしやなる様にて意地きたなし、次第に其家の諸奉公人様子あしうなる儀、偏へに地下人·町人のはびこる故ぞかし、

現代語訳

さてそのような家で諸侍が思うのは、「あの者は町人・百姓であるけれども、利発者で身を起こした」と、殊のほか羨ましく思うので、古来の本侍どもも大小・老若ともに十人のうち九人は驕って横柄になり、諸傍輩への時宜作法をも取り失い、寄り合っての雑談でも五つ語れば四つは売買や損得のことばかり言って、行儀は真面目なようで端であり、分別があるようで無分別であり、華奢なようで意地汚い。次第にその家の諸奉公人の様子が悪くなるのは、ひとえに地下人・町人がはびこるからである。

解説

金で出世した者を見て、古くからの侍までが羨み、驕り、作法を失っていく。寄り合えば話題の八割は売買と損得になり、真面目そうで中身がなく、分別がありそうで無分別、上品そうで意地汚いという三つの対句で家中の変質が描かれる。高坂は身分を問題にしているようでいて、実は評価の軸が変わったことを嘆いている。組織の会話の中身は、その組織が何を報いているかの鏡である。

この章句が説くこと

家風欲行儀驕り評価傍輩

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