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甲陽軍鑑 / 品第十二

翌年正月二日の夜、宗雲夢を見給ふは、大杉の二本有りしを鼠一つ出て食折りたり、其後彼の鼠猪に成りてありと夢をみて、夢は覺めぬ、其如く兩上杉中惡く成るを聞き、宗雲是非共時刻を見合せ、關東へ發向の工夫二六時中隙なし、或時扇谷の上杉家こそ末に成リつらめ、邪臣のいさめを崇敬して、家老の太田道官を誅せらる、其後上杉殿家老悉く身搆をしてさだつ、此時宗雲公出て小田原を乘取、相州過半手に入れ、子息氏繩公代に相州を皆治め給へば、

新字:翌年正月二日の夜、宗雲夢を見給ふは、大杉の二本有りしを鼠一つ出て食折りたり、其後彼の鼠猪に成りてありと夢をみて、夢は覚めぬ、其如く両上杉中悪く成るを聞き、宗雲是非共時刻を見合せ、関東へ発向の工夫二六時中隙なし、或時扇谷の上杉家こそ末に成リつらめ、邪臣のいさめを崇敬して、家老の太田道官を誅せらる、其後上杉殿家老悉く身搆をしてさだつ、此時宗雲公出て小田原を乗取、相州過半手に入れ、子息氏縄公代に相州を皆治め給へば、

書き下し

翌年正月二日の夜、宗雲夢を見給ふは、大杉の二本有りしを鼠一つ出て食折りたり、其後彼の鼠猪に成りてありと夢をみて、夢は覚めぬ、其如く両上杉中悪く成るを聞き、宗雲是非共時刻を見合せ、関東へ発向の工夫二六時中隙なし、或時扇谷の上杉家こそ末に成リつらめ、邪臣のいさめを崇敬して、家老の太田道官を誅せらる、其後上杉殿家老悉く身搆をしてさだつ、此時宗雲公出て小田原を乗取、相州過半手に入れ、子息氏縄公代に相州を皆治め給へば、

現代語訳

翌年正月二日の夜、宗雲が見られた夢は、大杉が二本あったのを鼠が一匹出て食い折った。その後その鼠が猪になった、という夢を見て目が覚めた。その夢のとおり両上杉の仲が悪くなるのを聞いて、宗雲はぜひとも時機を見合わせ、関東へ打って出る工夫に一日中隙がなかった。ある時、扇谷の上杉家こそもはや末になったのであろう、邪臣の諫めを重んじて家老の太田道灌を誅された。その後上杉殿の家老は皆身構えをして騒ぎ立った。この時宗雲公は出て小田原を乗っ取り、相模の過半を手に入れ、子息氏綱公の代に相模をすべて治められた。

解説

宗雲の夢の話と、扇谷上杉が邪臣の言を容れて太田道灌を殺した事件が並べられる。宗雲は両上杉の不和を聞いて昼夜工夫を重ね、家老たちが身構えて浮き足立った瞬間に小田原を取った。攻める側の才覚だけでなく、守る側が自ら家老を斬って隙を作ったことが勝敗を分けている。組織の崩れは外敵より先に内側の判断の誤りから始まる。宗雲はその隙を夢に見るほど待ち続けていたのである。

この章句が説くこと

宗雲好機諫言家老内紛油断

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