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講孟余話 / 盡心上 第三十七章

此章、云ク食フ、云ク愛スル、云ク幣、云ク実、層々說テ深キニ進ム、若シ施行ノ次序ヲ云ハヽ、逆ニ說クヘシ、其第一ハ実ナリ、実トハ実事也、賢ヲ招クノ初メ、先ツ実事ナクテハ叶ハヌナリ、燕昭王ノ臺ヲ築キ、劉先主ノ廬ヲ顧ル如キ、是其実ヲ著ハス所ナリ、苟モ実アレハ、恭敬アリ幣アリ、愛ト食フトハ更ニ云フニ足ラス、此義徒ニ人主賢ヲ招クモ云ノミニ非ズ、学者師ヲ求ムルモ同シコト也、学者師ヲ求ムルヲ以テ云ンニ、師ヲ求メサルノ前ニ、先ツ実心定リ実事立テ、然ル後往テ師ヲ求ムヘシ、凢学ヲ爲スノ要、皆爰ニアリ、思フコトアリテ未タ達セス、爲スコトアリテ未タ成ラス、是ニ於テ憤悱シテ学ニ志シ、而シテ師ヲ求ム、是実事アリト云ヘシ、師ヲ求メテ後学ヒ、学ヒテ後行フ、是皆虛事ナリ、孫子曰、勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝ト、兵ト学ト何ヲ以テ異ナランヤ

新字:此章、云ク食フ、云ク愛スル、云ク幣、云ク実、層々説テ深キニ進ム、若シ施行ノ次序ヲ云ハヽ、逆ニ説クヘシ、其第一ハ実ナリ、実トハ実事也、賢ヲ招クノ初メ、先ツ実事ナクテハ叶ハヌナリ、燕昭王ノ台ヲ築キ、劉先主ノ廬ヲ顧ル如キ、是其実ヲ著ハス所ナリ、苟モ実アレハ、恭敬アリ幣アリ、愛ト食フトハ更ニ云フニ足ラス、此義徒ニ人主賢ヲ招クモ云ノミニ非ズ、学者師ヲ求ムルモ同シコト也、学者師ヲ求ムルヲ以テ云ンニ、師ヲ求メサルノ前ニ、先ツ実心定リ実事立テ、然ル後往テ師ヲ求ムヘシ、凢学ヲ為スノ要、皆爰ニアリ、思フコトアリテ未タ達セス、為スコトアリテ未タ成ラス、是ニ於テ憤悱シテ学ニ志シ、而シテ師ヲ求ム、是実事アリト云ヘシ、師ヲ求メテ後学ヒ、学ヒテ後行フ、是皆虚事ナリ、孫子曰、勝兵先勝而後求戦、敗兵先戦而後求勝ト、兵ト学ト何ヲ以テ異ナランヤ

書き下し

此の章、云く食ふ、云く愛する、云く幣、云く実、層々説きて深きに進む。若し施行の次序を云はば、逆に説くべし。其の第一は実なり。実とは実事なり。賢を招くの初め、先づ実事なくては叶はぬなり。燕の昭王の台を築き、劉先主の廬を顧みる如き、是れ其の実を著はす所なり。苟も実あれば、恭敬あり幣あり、愛と食ふとは更に云ふに足らず。此の義徒らに人主の賢を招くを云ふのみに非ず、学者の師を求むるも同じことなり。学者の師を求むるを以て云はんに、師を求めざるの前に、先づ実心定まり実事立ちて、然る後往きて師を求むべし。凡そ学を為すの要、皆爰にあり。思ふことありて未だ達せず、為すことありて未だ成らず、是に於て憤悱して学に志し、而して師を求む、是れ実事ありと云ふべし。師を求めて後学び、学びて後行ふ、是れ皆虚事なり。孫子曰く、「勝兵は先づ勝ちて而る後に戦ひを求め、敗兵は先づ戦ひて而る後に勝ちを求む」と。兵と学と何を以て異ならんや。

現代語訳

この章は、食べさせる、愛する、贈り物、実と、一段ずつ深いところへ進んで説いている。もし実行の順序で言えば、逆に説くべきだ。その第一は「実」である。実とは実際の事柄である。賢者を招くには、まず実際の事柄がなければならない。燕の昭王が黄金台を築き、劉備が諸葛亮の草庵を三度訪ねたようなことは、その実を表したものである。もし実があれば、恭しさも贈り物もあり、愛することや食べさせることは言うまでもない。この意味は、君主が賢者を招くことだけを言うのではない。学ぶ者が師を求めるのも同じことである。学ぶ者が師を求める場合で言えば、師を求める前に、まず本当の心が定まり、実際の事柄が立ってから、行って師を求めるべきだ。およそ学問をする要点はすべてここにある。思うことがあってまだ達せず、することがあってまだ成らない。そこで心をもだえさせて学問を志し、そして師を求める。これが実事があるということだ。師を求めてから学び、学んでから行うというのは、みな空事である。孫子は「勝つ軍はまず勝ってから戦いを求め、負ける軍はまず戦ってから勝ちを求める」と言う。兵法と学問と、何が違おうか。

解説

孟子は、賢者を食べさせるだけで愛さなければ豚を飼うのと同じ、愛しても敬わなければ獣を飼うのと同じ、敬意も形だけの贈り物では真の敬意ではないと説きます。松陰はこの順序を逆にたどり、根本は「実」、つまり実際の行動と本気の心だと読みます。燕の昭王や、三顧の礼の劉備が例です。そしてこれは師を求める学ぶ側にも当てはまり、まず自分のなかに解きたい問いや果たしたい事があってこそ学びは実になると言います。孫子の言葉で締めくくるところも、兵学者松陰らしい一節です。

この章句が説くこと

実事師学問孫子本気

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