講孟余話 / 盡心上 第十二章
佚道トハ道橋河池堤防ノ普請修補ノ類、都テ民利ノ爲ニスルコトヲ云、生道トハ防火防水、猛獸ヲ駈リ、夷狄ヲ攘ヒ、又罪人ヲ誅伐スル類ナリ、是類ノ事ニテ民ヲ使ヒ民ヲ殺ス時ハ、誰カ敢テ上ヲ怨ムコトヲ得ンヤ、是ヲ以テ知ルヘシ、下民愚ナリト云トモ、人君尊シト云トモ、一誠ノ貫通影響ノ如シ、然ラハ則上誠心ナクンハ、稅歛薄ク徭役輕シト云共、民尙上ヲ德トシ上ヲ恩トスルコトヲ知ラス、愼マサルベケンヤ
新字:佚道トハ道橋河池堤防ノ普請修補ノ類、都テ民利ノ為ニスルコトヲ云、生道トハ防火防水、猛獣ヲ駈リ、夷狄ヲ攘ヒ、又罪人ヲ誅伐スル類ナリ、是類ノ事ニテ民ヲ使ヒ民ヲ殺ス時ハ、誰カ敢テ上ヲ怨ムコトヲ得ンヤ、是ヲ以テ知ルヘシ、下民愚ナリト云トモ、人君尊シト云トモ、一誠ノ貫通影響ノ如シ、然ラハ則上誠心ナクンハ、税歛薄ク徭役軽シト云共、民尚上ヲ徳トシ上ヲ恩トスルコトヲ知ラス、慎マサルベケンヤ
書き下し
佚道とは道橋・河池・堤防の普請修補の類、都て民利の為めにすることを云ふ。生道とは防火・防水、猛獣を駆り、夷狄を攘ひ、又罪人を誅伐する類なり。是の類の事にて民を使ひ民を殺す時は、誰か敢へて上を怨むことを得んや。是れを以て知るべし、下民愚なりと云へども、人君尊しと云へども、一誠の貫通影響の如し。然らば則ち上誠心なくんば、税斂薄く徭役軽しと云へども、民尚上を徳とし上を恩とすることを知らず。慎まざるべけんや。
現代語訳
佚道(民を楽にするための道)とは、道路・橋・川・池・堤防の普請や修理のたぐいで、すべて民の利益のためにすることをいう。生道(民を生かすための道)とは、火事や水害を防ぎ、猛獣を追い払い、外敵を退け、また罪人を誅伐するたぐいである。このような事で民を使い、民を死なせることがあっても、誰があえて上を恨むことができようか。これによって知るべきである。下々の民は愚かであるといっても、君主は尊いといっても、一つの誠が通じることは、影が形に従い響きが声に応じるようである。そうであれば、上に誠の心がなければ、税を軽くし労役を軽くしても、民はなお上を徳あるものとも恩あるものとも思わない。慎まずにいられようか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『講孟余話』離婁上 第十二章此の章、中庸全部の意を括りて一章とす。又大学と表裏す。並びに註已に是れを弁ず。而して善に明らかなると、身に誠なると、誠と、誠を思ふとの四項に帰す。善に明らかなるは多く知に於て発明す。書を読み道を思ふ、皆是れに属す。身に誠なるは多く行に於て発明す。仁を行ひ義に由る、皆是れに属す。然れども知は行の本たり、行は知の実たり。二つの者固より相倚りて離れず。誠は知行の自ら誠なるなり。思誠は知行の誠ならんことを思ふなり。此の義、学庸を熟読せば自ら明らかなり。今必ずしも贅せず。上章に云ふ「道は邇きに在り、事は易きに在り」と云ふもの、此の章に於て益々明らかなり。「上に獲らる」の獲は、上第九章「民を得」「心を得」の得の如し。但し彼我の差別あるのみ。「上に獲らる」は我が心を上に獲られ、上の物となるなり。我れ誠敬を尽くし、我れ忠貞を致すと云へども、上の信孚を得ること能はざるは、是れ我が心を上に獲られざるなり。我れ誠敬を尽くせば上其の誠敬を信じ、我れ忠貞を致せば上其の忠貞を信じ、凡そ吾が心を竭くす所、上皆是れを信ずれば、吾が心皆上の心と流通して、吾が心は上の物となり、上の心は又吾が物となる。上下相得るなり。孫子の所謂「衆と相得」の意なり。是れを上に獲らると云ふなり。
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