講孟余話 / 告子下 第四章
此章利ト仁義ヲ論ス、梁惠王上篇首章ト大ニ同シ、孟子一生ノ定論ナリ、不利ヲ云ハ戰ハ勝ツト雖トモ、兵鈍シ銳挫ケ、力屈シ財竭ク、孫子作戰篇等ニ云フカ如シ、况ヤ戰必シモ勝タサルヲヤ、且秦楚ノ戰ハ両虎相搏カ如シ、兵連リ禍結ヒ、韓魏斉趙是ニ乘セハ、勇々シキ大事ナリト云ニ過サルヘシ、仁義ノ說ハ、先ツ甲兵ヲ興シ士臣ヲ危シ、怨ヲ諸侯ニ構ヘ、土地ノ故ヲ以テ其民ヲ糜爛スルノ不仁タルヲ云テ、其仁心ヲ感発セシメ、又寸壤尺地モ不義ヲ以テ取間敷事ヲ說テ、義心ヲ興起セシムルナルヘシ、古今兵ヲ論スル者、皆利ヲ本トシ、仁義如何ヲ顧ミス、今時ニ至リ其弊極レリ、其實ハ仁義程利ナル物ハナク、又利程不仁不義ニシテ不利ナル者ハナシ、近日魯墨ノ事ニ依テ知ルヘシ
新字:此章利ト仁義ヲ論ス、梁恵王上篇首章ト大ニ同シ、孟子一生ノ定論ナリ、不利ヲ云ハ戦ハ勝ツト雖トモ、兵鈍シ鋭挫ケ、力屈シ財竭ク、孫子作戦篇等ニ云フカ如シ、況ヤ戦必シモ勝タサルヲヤ、且秦楚ノ戦ハ両虎相搏カ如シ、兵連リ禍結ヒ、韓魏斉趙是ニ乗セハ、勇々シキ大事ナリト云ニ過サルヘシ、仁義ノ説ハ、先ツ甲兵ヲ興シ士臣ヲ危シ、怨ヲ諸侯ニ構ヘ、土地ノ故ヲ以テ其民ヲ糜爛スルノ不仁タルヲ云テ、其仁心ヲ感発セシメ、又寸壤尺地モ不義ヲ以テ取間敷事ヲ説テ、義心ヲ興起セシムルナルヘシ、古今兵ヲ論スル者、皆利ヲ本トシ、仁義如何ヲ顧ミス、今時ニ至リ其弊極レリ、其実ハ仁義程利ナル物ハナク、又利程不仁不義ニシテ不利ナル者ハナシ、近日魯墨ノ事ニ依テ知ルヘシ
書き下し
此の章利と仁義とを論ず。梁恵王上篇首章と大いに同じ。孟子一生の定論なり。不利を云ふは戦は勝つと雖も、兵鈍り鋭挫け、力屈し財竭く、孫子作戦篇等に云ふが如し。況んや戦必ずしも勝たざるをや。且つ秦楚の戦は両虎相搏つが如し。兵連なり禍結び、韓魏斉趙是に乗ぜば、勇々しき大事なりと云ふに過ぎざるべし。仁義の説は、先づ甲兵を興し士臣を危くし、怨を諸侯に構へ、土地の故を以て其の民を糜爛するの不仁たるを云ひて、其の仁心を感発せしめ、又寸壌尺地も不義を以て取るまじき事を説きて、義心を興起せしむるなるべし。古今兵を論ずる者、皆利を本とし、仁義如何を顧みず。今時に至り其の弊極まれり。其の実は仁義程利なる物はなく、又利程不仁不義にして不利なる者はなし。近日魯墨の事に依りて知るべし。
現代語訳
この章は利と仁義を論じている。梁恵王上篇首章と大いに同じで、孟子の生涯変わらぬ定論である。(宋牼が戦の)不利を説こうとするのは、戦は勝っても、兵は疲れ鋭さはくじけ、力は尽き財は枯れる、と『孫子』作戦篇などに言うようなことである。まして戦は必ず勝つとは限らない。そのうえ秦と楚の戦は二頭の虎が噛み合うようなもので、戦が長引き災いが重なり、韓・魏・斉・趙がそれにつけこめば大変な事態になる、と言うにすぎないだろう。(孟子の)仁義の説とは、まず兵を起こし家臣を危険にさらし、諸侯に恨みを買い、土地のために民をただれさせることの不仁を説いて、その仁の心を呼び覚まし、また一寸の土地も不義によって取ってはならないことを説いて、義の心を奮い起こさせることであろう。昔から今まで兵を論じる者は、みな利を根本とし、仁義がどうかを顧みない。今の時代になってその弊害は極まった。実は仁義ほど利になるものはなく、また利ほど不仁不義で不利なものはない。近ごろのロシアやアメリカとの一件によって分かるはずである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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国語・晋語七五年、無終子(むしゅうし)嘉父(かほ)、孟楽(もうらく)をして魏荘子に因(よ)りて虎豹の皮を納れ、以て諸戎を和せしめんとす。公曰く、「戎・狄は親無くして得るを好む。之を伐つに若かず」と。魏絳曰く、「師を戎に労して、諸華を失わば、功有りと雖も、猶獣を得て人を失うがごときなり。安(いずく)んぞ之を用いん。且つ夫れ戎・狄は荐(せん)処(しょ)し、貨を貴びて土を易(かろ)んず。之に貨を予えて其の土を獲るは、其の利一なり。辺鄙の耕農儆(いまし)めざるは、其の利二なり。戎・狄晋に事えて、四隣震動せざる莫きは、其の利三なり。君其れ之を図れ」と。公説(よろこ)ぶ。故に魏絳をして諸戎を撫せしむ。是に於いてか遂に伯(は)たり。
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『呻吟語』内篇・修身・利に處して利を讓り、名に處して名を讓る利に處すれば則ち人をして君子を做さしめ、我は小人を做す。名に處すれば則ち人をして小人を做さしめ、我は君子を做す。斯れ惑ひの甚だしきなり。聖賢は利に處して利を讓り、名に處して名を讓る。故に淡然恬然として、世と忤らず。
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孫子・九地篇利に合いて動き、利に合わずして止まる。
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『韓非子』詭使第四十五聖人の治道を為す所以の者は三つ。一に曰く「利」、二に曰く「威」、三に曰く「名」。夫れ利なる者は、民を得る所以なり。威なる者は、令を行ふ所以なり。名なる者は、上下の同じく道とする所なり。
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『呻吟語』内篇・存心・大利も小義に換へず大利も小義に換へず、況んや小利を以て大義を壞るをや。貪る者は以て戒む可し。
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『墨子』經說上平。惔然たり。利。是を得て喜べば、則ち是れ利なり。其の害は、是に非ざるなり。害。是を得て惡めば、則ち是れ害なり。其の利は、是に非ざるなり。治。吾が事、治まれり。人に南北を治むる有り。譽む。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。人をして之を督せしむ。誹る。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。譽むるに文名を以て告ぐるは、彼の實を舉ぐるなり。故。言なる者は、諸れ口能く之を出だして民するものなり。民は畫俿の若きなり。言や言と謂う、猶お名の致すがごときなり。且。前よりするを且と曰い、後よりするを己と曰う。方に然らんとするも亦た且なり。名の若き者は、君なり、若の名を以てする者なり。功は時を待たず、衣裘の若し。功は時を待たず、衣裘の若し。賞。罪は禁に在らず、惟だ害あれば罪無きも殆く姑し。上、下の功に報ゆるなり。
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