講孟余話 / 告子上 第十二章
今有無名之指屈而不信拱把之桐梓、人苟欲生之、皆知所以養之者、雞犬、無名之指、拱把之桐梓、三喩並ニ人ノ惑ヲ破ルニ於テ妙ナリ、大氏心ハ内ニ藏シテ目ニ見ヘス、故ニ俗人多クハ心付カス、雞犬無名之指拱把之桐梓ハ、目ニ見ユル故俗人ト雖トモ心付クナリ、故ニ結末ニ於テ弗思甚也ノ一句ニテ是ヲ收ム、思ヘハ必ス得ル故ナリ、抑俗人或ハ謂ラク、耳目四体ハ他人ノ見ル所ユヘ修飾セスンハアラズ、心ニ至テハ人知ラスシテ己ノミ知ル所トシ、遂ニ忌憚ナキニ至ル、噫愚モ亦甚シ、心程人ノ能ク知ル者ハナシ、耳目四体ハ相見サレハ或ハ知ラス、心ニ至テハ一見セスト云トモ、名ヲ好ミ利ヲ好ミ、德ヲ好ミ勇ヲ好ムノ類一トシテ人目ニ逃ルヽ所ナシ、王莽曹操ノ巨猾ト云トモ、天下万世ノ公論彼カ如シ、誰カ是ヲ隱スコトヲ得ンヤ、是ヲ思ヘハ耳目四体ハ見ル人ノミ知ル、必シモ修飾セスシテ可ナリ、心ニ至テハ天下万世ノ知、畏ルヘキノ至ト云フヘシ、然トモ是亦賴母敷ノ至ト云ヘシ、第十四章
新字:今有無名之指屈而不信拱把之桐梓、人苟欲生之、皆知所以養之者、鶏犬、無名之指、拱把之桐梓、三喩並ニ人ノ惑ヲ破ルニ於テ妙ナリ、大氏心ハ内ニ蔵シテ目ニ見ヘス、故ニ俗人多クハ心付カス、鶏犬無名之指拱把之桐梓ハ、目ニ見ユル故俗人ト雖トモ心付クナリ、故ニ結末ニ於テ弗思甚也ノ一句ニテ是ヲ収ム、思ヘハ必ス得ル故ナリ、抑俗人或ハ謂ラク、耳目四体ハ他人ノ見ル所ユヘ修飾セスンハアラズ、心ニ至テハ人知ラスシテ己ノミ知ル所トシ、遂ニ忌憚ナキニ至ル、噫愚モ亦甚シ、心程人ノ能ク知ル者ハナシ、耳目四体ハ相見サレハ或ハ知ラス、心ニ至テハ一見セスト云トモ、名ヲ好ミ利ヲ好ミ、徳ヲ好ミ勇ヲ好ムノ類一トシテ人目ニ逃ルヽ所ナシ、王莽曹操ノ巨猾ト云トモ、天下万世ノ公論彼カ如シ、誰カ是ヲ隠スコトヲ得ンヤ、是ヲ思ヘハ耳目四体ハ見ル人ノミ知ル、必シモ修飾セスシテ可ナリ、心ニ至テハ天下万世ノ知、畏ルヘキノ至ト云フヘシ、然トモ是亦頼母敷ノ至ト云ヘシ、第十四章
書き下し
今無名の指屈して信びざる有り。拱把の桐梓、人苟も之を生ぜんと欲すれば、皆之を養ふ所以の者を知る。鶏犬・無名の指・拱把の桐梓、三喩並びに人の惑を破るに於て妙なり。大抵心は内に蔵して目に見えず、故に俗人多くは心付かず。鶏犬・無名の指・拱把の桐梓は、目に見ゆる故俗人と雖も心付くなり。故に結末に於て「思はざるの甚だしきなり」の一句にて是を収む。思へば必ず得る故なり。抑々俗人或は謂へらく、耳目四体は他人の見る所ゆゑ修飾せずんばあらず、心に至りては人知らずして己のみ知る所とし、遂に忌憚なきに至る。噫愚も亦甚だし。心程人の能く知る者はなし。耳目四体は相見ざれば或は知らず、心に至りては一見せずと云へども、名を好み利を好み、徳を好み勇を好むの類、一として人目に逃るる所なし。王莽・曹操の巨猾と云へども、天下万世の公論彼が如し。誰か是を隠すことを得んや。是を思へば耳目四体は見る人のみ知る、必ずしも修飾せずして可なり。心に至りては天下万世の知る、畏るべきの至りと云ふべし。然れども是れ亦頼母しきの至りと云ふべし。第十四章。
現代語訳
「いま、薬指が曲がって伸びないとする」。「両手で囲めるほどの桐や梓の木でも、人がもし育てようと思えば、誰でも育て方を知っている」。逃げた鶏や犬、曲がった薬指、小さな桐や梓という三つの喩えは、どれも人の迷いを破るのに見事である。たいてい心は内にしまわれて目に見えないので、世の人の多くは気づかない。鶏や犬、薬指、桐や梓は目に見えるので、世の人でも気づくのである。だから章の結びで「思わないことのはなはだしいものだ」の一句でまとめている。思えば必ず得られるからである。そもそも世の人の中には、耳や目や手足は他人に見られるから飾らずにはいられないが、心は人に知られず自分だけが知るものだと考え、ついには遠慮がなくなる者がいる。ああ、愚かなことはなはだしい。心ほど人によく知られるものはない。耳や目や手足は、会わなければ知られないこともある。だが心は、一度も会わなくても、名誉を好むか利を好むか、徳を好むか勇を好むかといったことが、一つとして人の目を逃れない。王莽や曹操のような大悪人でも、天下万世の公論はあのとおりである。誰がこれを隠しおおせようか。これを思えば、耳や目や手足は見た人だけが知るのだから、必ずしも飾らなくてよい。心こそ天下万世に知られるのだから、最も畏れるべきものというべきである。けれどもこれはまた、最も頼もしいことでもある。第十四章。
解説
この章句が説くこと
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