講孟余話 / 卷之四上 自題
歲維丙辰、律中姑洗、春服旣成、絕浴沂之心、芳林正華、忘踏靑之樂、閉閣讀書、獨喜晝長、謝客省事、幸脫世囂、下浣之初、念一之夕、父兄親戚、同會一堂、復尋旧業、爰修割記、記歲月日、傳千万年、二十一回猛士自題
新字:歳維丙辰、律中姑洗、春服既成、絶浴沂之心、芳林正華、忘踏青之楽、閉閣読書、独喜昼長、謝客省事、幸脱世囂、下浣之初、念一之夕、父兄親戚、同会一堂、復尋旧業、爰修割記、記歳月日、伝千万年、二十一回猛士自題
書き下し
歳は維れ丙辰、律は姑洗に中る。春服既に成れども、沂に浴するの心を絶ち、芳林正に華さけども、踏青の楽しみを忘る。閣を閉ぢて書を読み、独り昼の長きを喜ぶ。客を謝し事を省き、幸ひに世の囂しきを脱す。下浣の初め、念一の夕、父兄親戚、同じく一堂に会し、復た旧業を尋ね、爰に劄記を修む。歳月日を記して、千万年に伝ふ。二十一回猛士自ら題す。
現代語訳
時は丙辰の年(安政三年)、暦は三月。春の着物はもうできあがったが、(論語の曾皙が語ったように)沂水で水浴びする楽しみは絶ち、香しい林はちょうど花盛りだが、野遊びの楽しみも忘れている。部屋を閉ざして書を読み、ひとり昼の長くなったのを喜ぶ。客を断り用事を省いて、幸い世の騒がしさから逃れている。下旬の初め、二十一日の夕べ、父と兄と親戚が一つの座敷に集まって、ふたたび以前の学業を続け、ここに劄記を書きつぐ。年月日を記して、千年万年の後に伝える。二十一回猛士が自ら題する。
解説
安政三年(一八五六)三月、幽室に閉じこもる松陰が、告子篇の講義を始めるにあたって記した漢文の自題です。『論語』で曾皙が語った、春の衣を着て沂水で水浴びをし、風に吹かれて帰るという楽しみを自分は絶っていると言いながら、筆致は少しも暗くありません。客を断り世の騒がしさを離れて書を読み、昼が長くなったのを喜び、父兄親戚と一堂に会して学びを続ける。閉じ込められた日々を、学ぶための恵まれた時間と受け止める松陰の姿が、短い四字句の連なりから伝わってきます。
この章句が説くこと
幽囚読書家族学び自題
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