講孟余話 / 萬章上 第九章
百里奚ノ智、不可諫而不諫、知穆公之可與有行、並ニ人ヲ知ルナリ、知虞公之將亡、預シメ成敗ヲ知ルナリ、是等ノ處ニ於テ、古人智ノ字ノ正解ヲ知ルヘシ、萬章上篇凡ソ九章、首章ヨリ四章ニ至ルマテ、皆舜ヲ論ス、五章六章、舜禹益伊尹周公ヲ論ス、七章伊尹ヲ論ス、八章孔子ヲ論ス百里奚ヲ論ス、時世ヲ以テ次序ヲナス、條理自ラ明白ナリ、乙卯十二月十五日、餘特恩脫獄歸家、而禁令頗嚴、足不出戸庭、席不延故舊、掃室靜處、獨與書親、家嚴家兄惜余在獄所著講孟劄記未備、欲必成其編、因又把孟子講之、繼成割記、外叔久保翁亦見枉焉、本月十七夜爲初、矩方誌
新字:百里奚ノ智、不可諫而不諫、知穆公之可与有行、並ニ人ヲ知ルナリ、知虞公之将亡、預シメ成敗ヲ知ルナリ、是等ノ処ニ於テ、古人智ノ字ノ正解ヲ知ルヘシ、万章上篇凡ソ九章、首章ヨリ四章ニ至ルマテ、皆舜ヲ論ス、五章六章、舜禹益伊尹周公ヲ論ス、七章伊尹ヲ論ス、八章孔子ヲ論ス百里奚ヲ論ス、時世ヲ以テ次序ヲナス、条理自ラ明白ナリ、乙卯十二月十五日、余特恩脱獄帰家、而禁令頗厳、足不出戸庭、席不延故旧、掃室静処、独与書親、家厳家兄惜余在獄所著講孟劄記未備、欲必成其編、因又把孟子講之、継成割記、外叔久保翁亦見枉焉、本月十七夜為初、矩方誌
書き下し
百里奚の智、「諫むべからずして諫めず」、「穆公の与に行ふこと有るべきを知る」、並びに人を知るなり。「虞公の将に亡びんとするを知る」、預め成敗を知るなり。是等の処に於て、古人の智の字の正解を知るべし。萬章上篇凡そ九章、首章より四章に至るまで、皆舜を論ず。五章・六章、舜・禹・益・伊尹・周公を論ず。七章伊尹を論ず。八章孔子を論ず。(末章)百里奚を論ず。時世を以て次序をなす、条理自ら明白なり。乙卯十二月十五日、余特恩もて獄を脱して家に帰る。而れども禁令頗る厳にして、足戸庭を出でず、席故旧を延かず、室を掃ひ静かに処り、独り書と親しむ。家厳・家兄、余が獄に在りて著す所の講孟劄記の未だ備はらざるを惜しみ、必ず其の編を成さしめんと欲す。因りて又孟子を把りて之を講じ、継いで劄記を成す。外叔久保翁も亦枉げらる。本月十七夜を初めと為す。矩方誌す。
現代語訳
百里奚の智とは、「諫めても無駄な虞公を諫めなかった」こと、「秦の穆公がともに事を行える君主だと見抜いた」ことで、どちらも人を見抜くことである。「虞公がまもなく滅びると知っていた」のは、あらかじめ成否を見通すことである。こうしたところで、古人の言う「智」の字の正しい意味を知るべきである。萬章上篇はおよそ九章で、首章から第四章まではみな舜を論じ、第五章・第六章は舜・禹・益・伊尹・周公を論じ、第七章は伊尹、第八章は孔子、末章は百里奚を論じる。時代の順に並べていて、筋道がおのずから明らかである。乙卯(安政二年)十二月十五日、私は特別のお許しで獄を出て家に帰った。しかし禁令はたいへん厳しく、庭から外へ出ることもできず、旧友を招くこともできない。部屋を掃き清めて静かに暮らし、ひとり書物に親しんでいる。父と兄は、私が獄中で書いた『講孟劄記』がまだ完成していないのを惜しみ、ぜひ仕上げさせようと望んだ。そこでまた孟子を取り上げて講じ、劄記の続きを作ることにした。母方の叔父の久保翁もわざわざ来てくださる。今月十七日の夜を始めとする。矩方しるす。
解説
この章句が説くこと
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