国語 / 越語上
國之父兄請曰:「昔者夫差恥吾君於諸侯之國,今越國亦節矣,請報之。」句踐辭曰:「昔者之戰也,非二三子之罪也,寡人之罪也。如寡人者,安與知恥?請姑無庸戰。」父兄又請曰:「越四封之內,親吾君也,猶父母也。子而思報父母之仇,臣而思報君之讎,其有敢不盡力者乎?請復戰。」句踐既許之,乃致其眾而誓之曰:「寡人聞古之賢君,不患其眾之不足也,而患其志行之少恥也。今夫差衣水犀之甲者億有三千,不患其志行之少恥也,而患其眾之不足也。今寡人將助天滅之。吾不欲匹夫之勇也,欲其旅進旅退。進則思賞,退則思刑,如此則有常賞。進不用命,退則無恥,如此則有常刑。」果行,國人皆勸,父勉其子,兄勉其弟,婦勉其夫,曰:「孰是君也,而可無死乎?」是故敗吳於囿,又敗之於沒,又郊敗之。 夫差行成,曰:「寡人之師徒,不足以辱君矣。請以金玉、子女賂君之辱。」句踐對曰:「昔天以越予吳,而吳不受命;今天以吳予越,越可以無聽天之命,而聽君之令乎!吾請達王甬句東,吾與君為二君乎。」夫差對曰:「寡人禮先壹飯矣,君若不忘周室,而為弊邑宸宇,亦寡人之願也。君若曰:『吾將殘汝社稷,滅汝宗廟。』寡人請死,余何面目以視於天下乎!」越君其次也,遂滅吳。
新字:国之父兄請曰:「昔者夫差恥吾君於諸侯之国,今越国亦節矣,請報之。」句践辞曰:「昔者之戦也,非二三子之罪也,寡人之罪也。如寡人者,安与知恥?請姑無庸戦。」父兄又請曰:「越四封之内,親吾君也,猶父母也。子而思報父母之仇,臣而思報君之讎,其有敢不尽力者乎?請復戦。」句践既許之,乃致其衆而誓之曰:「寡人聞古之賢君,不患其衆之不足也,而患其志行之少恥也。今夫差衣水犀之甲者億有三千,不患其志行之少恥也,而患其衆之不足也。今寡人将助天滅之。吾不欲匹夫之勇也,欲其旅進旅退。進則思賞,退則思刑,如此則有常賞。進不用命,退則無恥,如此則有常刑。」果行,国人皆勧,父勉其子,兄勉其弟,婦勉其夫,曰:「孰是君也,而可無死乎?」是故敗呉於囿,又敗之於没,又郊敗之。 夫差行成,曰:「寡人之師徒,不足以辱君矣。請以金玉、子女賂君之辱。」句践対曰:「昔天以越予呉,而呉不受命;今天以呉予越,越可以無聴天之命,而聴君之令乎!吾請達王甬句東,吾与君為二君乎。」夫差対曰:「寡人礼先壱飯矣,君若不忘周室,而為弊邑宸宇,亦寡人之願也。君若曰:『吾将残汝社稷,滅汝宗廟。』寡人請死,余何面目以視於天下乎!」越君其次也,遂滅呉。
書き下し
国の父兄請いて曰く、「昔者夫差吾が君を諸侯の国に恥ずかしむ。今越国も亦節あり。請う之に報いん」と。句践辞して曰く、「昔者の戦いや、二三子の罪に非ざるなり、寡人の罪なり。寡人の如き者、安(いずく)んぞ恥を知るに与(あずか)らん。請う姑(しばら)く戦うを庸うること無かれ」と。父兄又請いて曰く、「越の四封の内、吾が君に親しむこと、猶お父母のごとし。子にして父母の仇に報いんことを思い、臣にして君の讎に報いんことを思う。其れ敢えて力を尽くさざる者有らんや。請う復た戦わん」と。句践既に之を許し、乃ち其の衆を致して之に誓いて曰く、「寡人聞く、古の賢君は、其の衆の足らざるを患えずして、其の志行の恥少なきを患うと。今夫差は水犀(すいさい)の甲を衣る者億有三千、其の志行の恥少なきを患えずして、其の衆の足らざるを患う。今寡人将に天を助けて之を滅ぼさんとす。吾匹夫の勇を欲せざるなり。其の旅進旅退を欲す。進みては則ち賞を思い、退きては則ち刑を思う。此の如くなれば則ち常賞有り。進みて命を用いず、退きて則ち恥無し。此の如くなれば則ち常刑有り」と。果たして行くに、国人皆勧(はげ)み、父は其の子を勉め、兄は其の弟を勉め、婦は其の夫を勉めて曰く、「孰(たれ)か是の君にして、死すること無かるべけんや」と。是の故に呉を囿(ゆう)に敗り、又之を没に敗り、又郊に之を敗る。 夫差成を行いて曰く、「寡人の師徒は、以て君を辱むるに足らず。請う金玉・子女を以て君の辱めに賂わん」と。句践対えて曰く、「昔天越を以て呉に予(あた)うるも、呉命を受けず。今天呉を以て越に予う。越以て天の命を聴かずして、君の令を聴くべけんや。吾請う王を甬句東に達(いた)さん。吾君と二君と為らんか」と。夫差対えて曰く、「寡人礼において一飯に先んず。君若し周室を忘れずして、弊邑の宸宇と為らば、亦寡人の願いなり。君若し『吾将に汝の社稷を残い、汝の宗廟を滅ぼさんとす』と曰わば、寡人請う死せん。余何の面目ありて以て天下に視(しめ)さんや」と。越君其れ次(やど)る。遂に呉を滅ぼす。
現代語訳
国の長老たちが願い出た。「かつて夫差はわが君を諸侯の前で辱めました。いまや越の国も節度が整いました。どうか仇を討たせてください」。句践は辞退して言った。「かつての戦に敗れたのは、諸君の罪ではない。わたしの罪である。わたしのような者に、恥を知る資格などあろうか。どうか、いましばらく戦うことはやめてほしい」。長老たちはまた願い出た。「越の四方の国境の内の者はみな、わが君を父母のように慕っております。子が父母の仇を討とうと思い、臣が君の仇を討とうと思うとき、力を尽くさない者などおりましょうか。どうかもう一度戦わせてください」。句践はついに願いを許し、民衆を集めて誓った。「わたしはこう聞いている。昔の賢君は、兵の数が足りないことを憂えず、兵たちの心構えに恥を知る気持ちが乏しいことを憂えたと。いま夫差には水犀の革の鎧を着た兵が十万三千人もいるが、夫差は兵の心構えに恥を知る気持ちが乏しいことを憂えず、兵の数が足りないことばかりを憂えている。いまわたしは天を助けて呉を滅ぼそうと思う。わたしは一人の男の手柄を狙う蛮勇を望まない。全軍がそろって進み、そろって退くことを望む。進むときには賞を思い、退くときには刑を思え。そのようであれば定まった賞がある。進んで命令に従わず、退いて恥を知らないなら、定まった刑がある」。いよいよ出陣すると、国じゅうの人々がみな奮い立ち、父はその子を、兄はその弟を、妻はその夫を励まして、「これほどのお方のためなら、死を惜しんでなどいられようか」と言い合った。こうして越は呉を囿で破り、さらに没で破り、さらに呉の都の郊外で破った。 夫差は和睦を申し入れて言った。「わたしの軍はもはや君のお手をわずらわすほどのものではない。どうか金や玉、それに男女をもって、君のご足労のお詫びとさせてほしい」。句践は答えた。「昔、天は越を呉に与えたが、呉は天の命を受けなかった。いま天は呉を越に与えた。越が天の命に背いて、君の言うことを聞けようか。わたしは王を甬句東にお送りしよう。わたしと君とで、二人の君として並び立とうではないか」。夫差は答えた。「わたしは礼の上では、君より一食分ほど年上である。君がもし周の王室との縁を忘れず、わが小国の屋根となって覆い守ってくれるなら、それはわたしの願いでもある。だが、もし君が『おまえの社稷を損ない、おまえの宗廟を滅ぼす』と言うのなら、わたしは死なせてもらいたい。どの面を下げて天下に顔をさらせようか」。越王はそのまま呉の地に宿営し、ついに呉を滅ぼした。
解説
この章句が説くこと
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『武士道』第八章 名譽・新井白石と小蛇の創史上、哀事多し。されど未だ人類の母エバが、騒立つ胸、戦く指に、粗き針取りて、憂に沈める良人の摘み与ふる無花果の葉を綴るの光景の如く哀しきはあらず。神明に背く覿面の罪果は、人間に固着して離るべからず。裁縫の技の如何に精妙を極むとも、未だ羞恥を包むに足るべき蔽膝を縫ふ能はず。新井白石の年少うして苦学するや、富人某といふものあり、其志の超凡なるを見、之に孫女を妻はし、且つ給するに勤学の資を以てせんと乞ひしに、白石之を辞し、『昔、霊潭に小蛇棲めり。人あり小刀を抜き、其腮に微傷を負はしむるや、たちまち丈余の大蛇と化して斃れ、頭上に尺余の創痕を有したりと云ふ。富人の欲する所は、即ち小蛇を傷くることなり。されど後来、我れ家を興し、名を成さんには、其創ことに大なるものあらん。
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