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国語 / 楚語下

子西曰:「德其忘怨乎!余善之,夫乃其寧。」子高曰:「不然。吾聞之,唯仁者可好也,可惡也,可高也,可下也。好之不偪,惡之不怨,高之不驕,下之不懼。不仁者則不然。人好之則偪,惡之則怨,高之則驕,下之則懼。驕有欲焉,懼有惡焉,欲惡怨偪,所以生詐謀也。子將若何?若召而下之,將戚而懼;為之上者,將怒而怨。詐謀之心,無所靖矣。有一不義,猶敗國家,今壹五六,而必欲用之,不亦難乎?吾聞國家將敗,必用姦人,而嗜其疾味,其子之謂乎? 「夫誰無疾眚!能者早除之。舊怨滅宗,國之疾眚也,為之關籥蕃籬而遠備閑之,猶恐其至也,是之為日惕。若召而近之,死無日矣。人有言曰:『狼子野心,怨賊之人也。』其又何善乎?若子不我信,盍求若敖氏與子干、子皙之族而近之?安用勝也,其能幾何? 「昔齊騶馬繻以胡公入於具水,邴歜、閻職戕懿公於囿竹,晉長魚矯殺三郤於榭,魯圉人犖殺子般於次,夫是誰之故也,非唯舊怨乎?是皆子之所聞也。人求多聞善敗,以監戒也。今子聞而棄之,猶蒙耳也。吾語子何益,吾知逃也已。」 子西笑曰:「子之尚勝也。」不從,遂使為白公。子高以疾閒居於蔡。及白公之亂,子西、子期死。葉公聞之,曰:「吾怨其棄吾言,而德其治楚國,楚國之能平均以復先王之業者,夫子也。以小怨寘大德,吾不義也,將入殺之。」帥方城之外以入,殺白公而定王室,葬二子之族。

新字:子西曰:「徳其忘怨乎!余善之,夫乃其寧。」子高曰:「不然。吾聞之,唯仁者可好也,可悪也,可高也,可下也。好之不偪,悪之不怨,高之不驕,下之不懼。不仁者則不然。人好之則偪,悪之則怨,高之則驕,下之則懼。驕有欲焉,懼有悪焉,欲悪怨偪,所以生詐謀也。子将若何?若召而下之,将戚而懼;為之上者,将怒而怨。詐謀之心,無所靖矣。有一不義,猶敗国家,今壱五六,而必欲用之,不亦難乎?吾聞国家将敗,必用姦人,而嗜其疾味,其子之謂乎? 「夫誰無疾眚!能者早除之。旧怨滅宗,国之疾眚也,為之関籥蕃籬而遠備閑之,猶恐其至也,是之為日惕。若召而近之,死無日矣。人有言曰:『狼子野心,怨賊之人也。』其又何善乎?若子不我信,盍求若敖氏与子干、子皙之族而近之?安用勝也,其能幾何? 「昔斉騶馬繻以胡公入於具水,邴歜、閻職戕懿公於囿竹,晋長魚矯殺三郤於榭,魯圉人犖殺子般於次,夫是誰之故也,非唯旧怨乎?是皆子之所聞也。人求多聞善敗,以監戒也。今子聞而棄之,猶蒙耳也。吾語子何益,吾知逃也已。」 子西笑曰:「子之尚勝也。」不従,遂使為白公。子高以疾閒居於蔡。及白公之乱,子西、子期死。葉公聞之,曰:「吾怨其棄吾言,而徳其治楚国,楚国之能平均以復先王之業者,夫子也。以小怨寘大徳,吾不義也,将入殺之。」帥方城之外以入,殺白公而定王室,葬二子之族。

書き下し

子西曰く、「徳は其れ怨みを忘れしめんか。余之を善くせば、夫れ乃ち其れ寧(やす)からん」と。子高曰く、「然らず。吾之を聞く、唯仁者のみ好(よみ)すべく、悪(にく)むべく、高くすべく、下すべきなり。之を好すれども偪(せま)らず、之を悪めども怨まず、之を高くすれども驕らず、之を下せども懼れず。不仁者は則ち然らず。人之を好すれば則ち偪り、之を悪めば則ち怨み、之を高くすれば則ち驕り、之を下せば則ち懼る。驕れば欲有り、懼るれば悪有り。欲・悪・怨・偪は、詐謀を生ずる所以なり。子将に若何(いかん)せんとする。若し召して之を下さば、将に戚(うれ)えて懼れんとす。之が上と為さば、将に怒りて怨まんとす。詐謀の心、靖(やす)んずる所無からん。一の不義有るも、猶お国家を敗る。今五六を壹(いつ)にして、必ず之を用いんと欲す。亦難からずや。吾聞く、国家将に敗れんとすれば、必ず姦人を用いて、其の疾味を嗜むと。其れ子の謂いか。 「夫れ誰か疾眚(しっせい)無からん。能者は早く之を除く。旧怨ありて宗を滅ぼされしは、国の疾眚なり。之が為に関籥(かんやく)・蕃籬(はんり)して遠く備えて之を閑(ふせ)ぐも、猶お其の至らんことを恐る。是を之れ日に惕(おそ)ると為す。若し召して之を近づけば、死すること日無からん。人言える有り、曰く、『狼子(ろうし)は野心あり、怨賊の人なり』と。其れ又何をか善くせん。若し子我を信ぜずんば、盍(なん)ぞ若敖氏(じゃくごうし)と子干(しかん)・子皙(しせき)の族とを求めて之を近づけざる。安(いずく)んぞ勝を用いん。其れ能く幾何ぞ。 「昔斉の騶馬繻(すうばじゅ)は胡公を以て具水に入れ、邴歜(へいしょく)・閻職(えんしょく)は懿公(いこう)を囿竹(ゆうちく)に戕(そこな)い、晋の長魚矯(ちょうぎょきょう)は三郤(さんげき)を榭(しゃ)に殺し、魯の圉人(ぎょじん)犖(らく)は子般(しはん)を次(じ)に殺せり。夫れ是れ誰の故ぞや、唯旧怨に非ずや。是れ皆子の聞く所なり。人多く善敗を聞かんことを求むるは、以て監戒せんとなり。今子聞きて之を棄つるは、猶お耳を蒙(おお)うがごとし。吾子に語るも何の益かあらん。吾は逃るるを知るのみ」と。 子西笑いて曰く、「子の勝(まさ)るを尚ぶや」と。従わず、遂に白公と為さしむ。子高疾を以て蔡に閑居す。白公の乱に及び、子西・子期死す。葉公之を聞きて曰く、「吾其の吾が言を棄てしを怨むも、其の楚国を治めしを徳とす。楚国の能く平均にして以て先王の業に復せしは、夫子なり。小怨を以て大徳を寘(お)くは、吾不義なり。将に入りて之を殺さんとす」と。方城の外を帥いて以て入り、白公を殺して王室を定め、二子の族を葬る。

現代語訳

子西は言った。「徳をもって接すれば、恨みも忘れるのではないか。私が彼を厚く遇してやれば、落ち着くだろう」。子高は言った。「そうではありません。私はこう聞いています。仁のある者だけが、好かれても、憎まれても、高い地位に上げられても、低い地位に下げられても大丈夫なのだと。好かれてもつけあがらず、憎まれても恨まず、高くされても驕らず、低くされても怯えない。仁のない者はそうはいきません。好かれればつけあがり、憎まれれば恨み、高くされれば驕り、低くされれば怯えます。驕れば欲が生じ、怯えれば憎しみが生じます。欲と憎しみ、恨みとつけあがりこそが、詐りの謀を生むもとなのです。あなたはどうなさるおつもりですか。呼び寄せて低い地位に置けば、彼は憂えて怯えるでしょう。上の地位に置けば、怒って恨むでしょう。どちらにしても詐謀の心は鎮まりません。不義がたった一つあっても国家を損なうものです。いま五つも六つも不義をあわせ持つ者を、どうしても用いようとなさる。難しいことではありませんか。国家が滅びようとするときには、必ず悪人を用い、毒のある味を好んで口にすると聞きますが、それはあなたのことでしょうか。 「そもそも病や災いのない者などいましょうか。有能な者は早いうちにそれを取り除きます。古い恨みを抱き、一族を滅ぼされた者は、国にとっての病であり災いです。そのために関所の錠や垣根を設け、遠くから備えて防いでも、なおその禍いが及ぶのを恐れるものです。これを日々に警戒するというのです。それを呼び寄せて身近に置けば、死ぬ日も遠くはありません。世に『狼の子は野性の心を持つ、恨みを抱く賊のような人間だ』という言葉があります。いったい彼を厚遇して何の良いことがありましょう。もし私を信じないのなら、なぜ若敖氏(荘王に滅ぼされた闘椒の一族)や子干・子皙(共王の庶子で平王に殺された公子比と公子黒肱)の一族も探し出して近づけないのですか。どうして勝ばかりを用いるのでしょう。長くは保ちますまい。 「昔、斉の騶馬繻は主君の胡公を具水に沈め、邴歜と閻職は懿公を竹やぶで殺し、晋の長魚矯は三郤(郤錡・郤至・郤犨)を高殿で殺し、魯の馬飼いの犖は子般を仮住まいの館で殺しました。これはいったい何が原因だったのでしょう。すべて古い恨みではありませんか。どれもあなたが聞き知っていることです。人が成功と失敗の例を多く聞こうとするのは、それを鑑として戒めるためです。いま、あなたは聞いていながらそれを捨てている。耳をふさいでいるのと同じです。私があなたに言っても何の益があるでしょう。私はただ禍いから逃れることを心得るだけです」 子西は笑って「あなたは議論で勝つのがお好きですな」と言い、聞き入れず、ついに勝を白公(白の邑の長)とした。子高は病と称して蔡(葉公が兼ねて治めていた旧蔡国の地)に引きこもった。やがて白公の乱が起こり、子西と子期(司馬)は殺された。葉公はこれを聞いて言った。「私は子西が私の言葉を退けたことを恨んではいるが、彼が楚の国を治めたことには恩義を感じている。楚が乱れを鎮めて先王の事業を取り戻すことができたのは、あの方のおかげである。小さな恨みのために大きな恩徳を捨て置くのは、私にとって不義である。都に入って白公を討とう」。そして方城(楚の北方の長城)の外の兵を率いて都に入り、白公を殺して王室を安定させ、子西・子期の一族を手厚く葬った。

解説

前の場面に続き、「徳をもって遇すれば恨みも忘れよう」と言う子西に、葉公子高が重ねて諫め、結末までを記す。子高の論は、仁のある者だけが好悪や昇降に動じないのであって、仁のない者は厚遇すればつけあがり、冷遇すれば恨むという点にある。どちらの扱いも詐謀を生むのだから、勝のような人物はそもそも近づけてはならない。斉の胡公・懿公、晋の三郤、魯の子般と、旧怨が君臣を殺した例を並べるのも、歴史を鑑とせよという主張である。子西は笑って退け、勝を白公とした。『春秋左氏伝』哀公十六年に記される白公の乱で、子西と子期は殺され、葉公は兵を率いて乱を平定した。自分の言を退けた相手の一族をも葬ったことに、私怨で大徳を捨てない葉公の人柄が見える。善意で遇せば必ず報われるとは限らないことを、組織の長は知っておくべきである。

この章句が説くこと

国語楚語旧怨仁恩義

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