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国語 / 晋語九

還自衛,三卿宴于藍臺,智襄子戲韓康子而侮段規。智伯國聞之,諫曰:「主不備,難必至矣。」曰:「難將由我,我不為難,誰敢興之!」對曰:「異於是。夫郤氏有車轅之難,趙有孟姬之讒,欒有叔祁之愬,范、中行有亟治之難,皆主之所知也。夏書有之曰:『一人三失,怨豈在明?不見是圖。』周書有之曰:『怨不在大,亦不在小。』夫君子能勤小物,故無大患。今主一宴而恥人之君相,又弗備,曰『不敢興難』,無乃不可乎?夫誰不可喜,而誰不可懼?蜹蟻蜂蠆,皆能害人,況君相乎!」弗聽。自是五年,乃有晉陽之難。段規反,首難,而殺智伯于師,遂滅智氏。

新字:還自衛,三卿宴于藍台,智襄子戯韓康子而侮段規。智伯国聞之,諫曰:「主不備,難必至矣。」曰:「難将由我,我不為難,誰敢興之!」対曰:「異於是。夫郤氏有車轅之難,趙有孟姫之讒,欒有叔祁之愬,范、中行有亟治之難,皆主之所知也。夏書有之曰:『一人三失,怨豈在明?不見是図。』周書有之曰:『怨不在大,亦不在小。』夫君子能勤小物,故無大患。今主一宴而恥人之君相,又弗備,曰『不敢興難』,無乃不可乎?夫誰不可喜,而誰不可懼?蜹蟻蜂蠆,皆能害人,況君相乎!」弗聴。自是五年,乃有晋陽之難。段規反,首難,而殺智伯于師,遂滅智氏。

書き下し

衛より還り、三卿藍台(らんだい)に宴す。智襄子、韓康子(かんこうし)に戯れて段規(だんき)を侮る。智伯国(ちはくこく)之を聞き、諫めて曰く、「主備えずんば、難必ず至らん」と。曰く、「難は将に我に由らんとす。我難を為さずんば、誰か敢えて之を興さん」と。対えて曰く、「是に異なり。夫れ郤氏に車轅の難有り、趙に孟姫の讒有り、欒に叔祁の愬(うった)え有り、范・中行に亟治(きょくち)の難有り。皆主の知る所なり。夏書に之れ有りて曰く、『一人三たび失す、怨み豈に明らかなるに在らんや。見えざるに是れ図れ』と。周書に之れ有りて曰く、『怨みは大に在らず、亦小に在らず』と。夫れ君子は能く小物を勤む、故に大患無し。今主一宴して人の君相を恥ずかしめ、又備えずして『敢えて難を興さず』と曰う。乃ち不可なること無からんや。夫れ誰か喜ぶべからざらん、而して誰か懼るべからざらん。蜹蟻蜂蠆(ぜいぎほうたい)も皆能く人を害す。況んや君相をや」と。聴かず。是より五年にして、乃ち晋陽の難有り。段規反し、難を首(はじ)め、智伯を師に殺し、遂に智氏を滅ぼす。

現代語訳

衛から帰る途中、晋の三人の卿(智襄子・韓康子・魏桓子)が藍台で宴を開いた。智襄子(智伯瑤)は韓康子をからかい、その宰相の段規を侮辱した。一族の智伯国がこれを聞いて諫めた。「殿が備えを怠れば、必ず災いが来ます。」智伯は言った。「災いを起こすとすれば、この私からだ。私が起こさなければ、誰が起こせるものか。」智伯国は答えた。「そうではありません。郤氏には、長魚矯を車の轅に縛りつけた恨みから起きた災いがあり、趙氏には孟姫の讒言による災いがあり、欒氏には叔祁の訴えによる災いがあり、范氏と中行氏には亟治の邑をめぐる災いがありました。どれも殿がご存じのことです。夏書にはこうあります。『一人が何度も過ちを犯せば、恨みは目に見えるところにあるとは限らない。まだ形に現れないうちに手を打て』と。周書にはこうあります。『恨みは大きなことから生まれるとは限らず、小さなことから生まれるとも限らない』と。君子は小さな事にも心を配るからこそ、大きな災いがないのです。いま殿は一度の宴で他家の君と宰相を辱め、しかも備えもせずに『誰も災いを起こしはしない』とおっしゃる。それはいけないのではありませんか。誰であれ喜ばせることはできるし、誰であれ恐れさせることもできるのです。ぶよや蟻、蜂やさそりでさえ、人を害することができます。まして一家の君と宰相ならなおさらです。」智伯は聞き入れなかった。それから五年後、晋陽の難が起こった。段規は智伯に背いて真っ先に事を起こし、陣中で智伯を殺し、ついに智氏を滅ぼした。

解説

晋の最強の卿智伯瑤が、宴席で韓康子をからかい、その宰相段規を辱めたとき、一族の智伯国が諫めた章である。智伯は「難を起こすのは自分だ、誰が逆らえる」と言い放つ。智伯国は、郤氏・趙氏・欒氏・范氏・中行氏と、晋の名家が小さな恨みや讒言から滅んだ例を並べ、韋昭はその一つ一つに事件を注している。さらに夏書・周書の言葉を引き、恨みは目に見えるところや大小にかかわらず生じるから、形にならないうちに手を打てと説く。「蜹蟻蜂蠆も皆能く人を害す、況んや君相をや」は、弱く見える相手の恨みを侮るなという結びである。智伯は聞かず、五年後の晋陽の戦いで、辱められた段規が真っ先に背いて智伯を殺した。この諫言は『資治通鑑』にも引かれる。力の強い立場にある者ほど、軽い一言が残す恨みを数えよと教える章である。

この章句が説くこと

国語晋語恨み備え智伯

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