国語 / 晋語八
叔魚生,其母視之,曰:「是虎目而豕喙,鳶肩而牛腹,谿壑可盈,是不可饜也,必以賄死。」遂不視。楊食我生,叔向之母聞之,往,及堂,聞其號也,乃還,曰:「其聲,豺狼之聲,終滅羊舌氏之宗者,必是子也。」
新字:叔魚生,其母視之,曰:「是虎目而豕喙,鳶肩而牛腹,谿壑可盈,是不可饜也,必以賄死。」遂不視。楊食我生,叔向之母聞之,往,及堂,聞其号也,乃還,曰:「其声,豺狼之声,終滅羊舌氏之宗者,必是子也。」
書き下し
叔魚(しゅくぎょ)生まる。其の母之を視て、曰く、「是れ虎目にして豕喙(しかい)、鳶肩(えんけん)にして牛腹なり。谿壑(けいがく)は盈(み)たすべきも、是れ饜(あ)かしむべからざるなり。必ず賄(まいない)を以て死せん」と。遂に視ず。楊食我(ようしょくが)生まる。叔向の母之を聞きて、往く。堂に及びて、其の号(な)くを聞くや、乃ち還りて、曰く、「其の声は、豺狼(さいろう)の声なり。終に羊舌氏の宗を滅ぼす者は、必ず是の子ならん」と。
現代語訳
叔魚(羊舌鮒、叔向の弟)が生まれたとき、母はその子を見て言った。「この子は虎の目に豚の口、鳶のような肩に牛の腹をしている。深い谷は満たすことができても、この子の欲を満たすことはできない。きっと賄賂がもとで死ぬだろう。」そうして二度と顔を見なかった。楊食我(叔向の子)が生まれたとき、叔向の母はそれを聞いて見に行った。広間まで来たところで、赤子の泣き声を聞くと、そのまま引き返して言った。「あの声は山犬や狼の声だ。羊舌氏の一族を最後に滅ぼすのは、きっとこの子であろう。」
解説
晋の名門羊舌氏の母、つまり叔向・叔魚兄弟の母が、生まれたばかりの子や孫の相を見て、その末路を言い当てたという章である。叔魚については、虎の目、豚の口、鳶の肩、牛の腹という貪欲の相を見て、谷は満たせてもこの子の欲は満たせない、必ず賄賂で死ぬと言い、以後は顔を見なかった。叔向の子楊食我については、泣き声を聞いただけで豺狼の声だとして、羊舌氏を滅ぼすのはこの子だと予言した。『春秋左氏伝』によれば、叔魚は昭公十四年、裁判で賄賂を受けて不公平な裁きをし、訴えた邢侯に殺された。楊食我は昭公二十八年、祁氏の乱に連座して殺され、羊舌氏は滅んだ。人相の話というより、身近な者の気質を見抜いた母の眼として読むのがよい。欲の深さは、立場や富がどれほど増えても満たされることがなくという戒めがここにある。
この章句が説くこと
国語晋語貪欲賄羊舌氏
関連する章句
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『春秋左氏伝』昭公二十八年 狼子野心夏、六月、晉、祁盈及び楊食我を殺す。食我は祁盈の黨なり、而して亂を助く、故に之を殺す。遂に祁氏・羊舌氏を滅ぼす。初め、叔向、申公巫臣氏に娶らんと欲す。其の母其の黨に娶らしめんと欲す。叔向曰く、「吾が母は多くして庶は鮮し。吾舅氏に懲りたり」と。其の母曰く、「子靈の妻は、三夫・一君・一子を殺して、一國・兩卿を亡ぼせり。懲りること無かる可けんや。吾之を聞く、甚だ美なるものには必ず甚だ惡有りと。是れ鄭の穆少妃姚子の子、子貉(しかく)の妹なり。子貉早く死して後無し。而して天美を是に鍾(あつ)む。將に必ず是を以って大いに敗るる有らんとす。昔、有仍氏女を生む。黰黑(しんこく)にして甚だ美なり。光以って鑑とす可し。名づけて玄妻と曰ふ。樂正后夔之を取り、伯封を生む。實に豕心有り、貪惏(たんらん)にして饜くこと無く、忿纇(ふんらい)にして期無し。之を封豕と謂ふ。有窮の后羿之を滅ぼす。夔是を以って祀られず。且つ三代の亡ぶる、共子の廢せらるる、皆是の物なり。女何を以って為さんや。夫れ尤物有らば、以って人を移すに足る。苟くも德義に非ずんば、則ち必ず禍有らん」と。叔向懼れて、敢へて取らず。平公強ひて之を取らしむ。伯石を生む。伯石始めて生まるるや、子容の母走りて諸を姑に謁げて曰く、「長叔姒男を生めり」と。姑之を視んとし、堂に及びて、其の聲を聞きて還りて曰く、「是れ豺狼の聲なり。狼子は野心あり。是に非ずんば、羊舌氏を喪ぼす莫からん」と。遂に視ず。
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『春秋左氏伝』襄公二十一年 深山大沢、竜蛇を生む初め、叔向の母、叔虎の母の美なるを妒みて使はしめず。其の子皆其の母を諫む。其の母曰く、「深山大澤、實に龍蛇を生ず。彼は美なり。余其の龍蛇を生みて以って女(なんぢ)に禍せんことを懼る。女は敝族なり。國に大寵多く、不仁の人之を間せば、亦た難からずや。余何をか愛まん」と。往きて寢を視しむ。叔虎を生む。美にして勇力有り。欒懷子之を嬖す。故に羊舌氏の族難に及ぶ。欒盈周を過ぐ。周の西鄙之を掠む。行人に辭して曰く、「天子の陪臣盈、罪を王の守臣に得て、將に罪を逃れんとす。罪を郊甸に重ぬれば、伏竄する所無し。敢へて其の死を布く。昔陪臣書、能く力を王室に輸し、王惠を施せり。其の子黶、其の父の勞を保任すること能はず。大君若し書の力を棄てずんば、亡臣猶ほ逃るる所有らん。若し書の力を棄てて、黶の罪を思はば、臣は戮餘なり。將に歸りて尉氏に死せんとし、敢へて還らず。敢へて四體を布く、惟だ大君焉に命ぜよ」と。王曰く、「尤めて之に效はば、其れ又甚だし」と。司徒をして欒氏を掠むる者を禁じ、取る所を歸さしむ。候をして諸を轘轅より出さしむ。
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国語・晋語九士景伯(しけいはく)楚に如(ゆ)く。叔魚(しゅくぎょ)贊理(さんり)たり。邢侯(けいこう)と雍子(ようし)と田を争う。雍子其の女を叔魚に納れて以て直を求む。獄を断ずるの日に及び、叔魚邢侯を抑(ま)ぐ。邢侯叔魚と雍子とを朝に殺す。韓宣子之を患う。叔向曰く、「三姦罪を同じうす。請う、其の生ける者を殺して其の死せる者を戮(りく)せん」と。宣子曰く、「若何(いかん)」と。対えて曰く、「鮒(ふ)や獄を鬻(ひさ)ぎ、雍子之を賈(か)うに其の子を以てし、邢侯其の官に非ずして之を干(おか)す。夫れ回(よこしま)を以て国の中を鬻ぐと、親を絶ちて以て直を買うと、司寇に非ずして擅(ほしいまま)に殺すと、其の罪一なり」と。邢侯之を聞きて逃る。遂に邢侯氏を施(とら)え、叔魚と雍子とを市に尸(さら)す。
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国語・晋語九智宣子(ちせんし)将に瑤(よう)を以て後と為さんとす。智果(ちか)曰く、「宵(しょう)に如かざるなり」と。宣子曰く、「宵や佷(こん)なり」と。対えて曰く、「宵の佷は面に在り、瑤の佷は心に在り。心の佷は国を敗り、面の佷は害あらず。瑤の人に賢(まさ)る者は五、其の逮(およ)ばざる者は一なり。美鬢(びびん)長大なるは則ち賢り、射御足力なるは則ち賢り、伎芸畢(ことごと)く給(た)るは則ち賢り、巧文辯恵なるは則ち賢り、彊毅果敢なるは則ち賢る。是くの如くにして甚だ不仁なり。其の五賢を以て人を陵(しの)ぎ、而して不仁を以て之を行わば、其れ誰か能く之を待たん。若し果たして瑤を立てば、智宗必ず滅びん」と。聴かず。智果族を太史に別ちて輔氏(ほし)と為る。智氏の亡ぶるに及ぶや、唯だ輔果のみ在り。
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