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智囊 / 集哲・叔向母

初,叔向欲娶於申公巫臣氏,其母欲娶其黨。叔向曰:「吾母多而庶鮮,吾懲舅氏矣。」其母曰:「子靈之妻夏姬也殺三夫、一君、一子,而亡一國兩卿矣,可無懲乎?吾聞之,甚美必有甚惡。昔有仍氏生女,發黑而美,光可以鑒,名曰玄妻。樂正後夔取之,生伯封,實有豕心,貪惏無厭,忿顈無期,謂之封豕。有窮後羿滅之,夔是以不祀。今三代之亡,共子之廢,皆是物也,汝何以為哉?夫有尤物,足以移人,苟非德義,則必有禍。」叔向懼,不敢取。平公強使取之,生伯石。伯石始生,叔向之母視之,及堂,聞其聲而還,曰:「是豺狼之聲也!狼子野心,非是,莫喪羊舌氏矣。」遂弗視。

新字:初,叔向欲娶於申公巫臣氏,其母欲娶其党。叔向曰:「吾母多而庶鮮,吾懲舅氏矣。」其母曰:「子霊之妻夏姫也殺三夫、一君、一子,而亡一国両卿矣,可無懲乎?吾聞之,甚美必有甚悪。昔有仍氏生女,発黒而美,光可以鑒,名曰玄妻。楽正後夔取之,生伯封,実有豕心,貪惏無厭,忿顈無期,謂之封豕。有窮後羿滅之,夔是以不祀。今三代之亡,共子之廃,皆是物也,汝何以為哉?夫有尤物,足以移人,苟非徳義,則必有禍。」叔向懼,不敢取。平公強使取之,生伯石。伯石始生,叔向之母視之,及堂,聞其声而還,曰:「是豺狼之声也!狼子野心,非是,莫喪羊舌氏矣。」遂弗視。

書き下し

初め、叔向申公巫臣氏に娶らんと欲す。其の母は其の党に娶らしめんと欲す。叔向曰く、「吾が母多くして庶鮮なし、吾れ舅氏に懲りたり」と。其の母曰く、「子霊の妻夏姫は三夫、一君、一子を殺し、而して一国両卿を亡ぼす。懲りざるべけんや。吾れ之を聞く、甚だ美なる者は必ず甚だ悪なる有りと。昔、有仍氏女を生む。髪黒くして美しく、光は以て鑑みるべし。名づけて玄妻と曰う。楽正の後夔取りて、伯封を生む。実に豕の心有り、貪惏して厭くこと無く、忿顈して期無し。之を封豕と謂う。有窮の后羿之を滅ぼし、夔は是を以て祀られず。今三代の亡び、共子の廃せられしは、皆な是の物なり。汝何を以て為さんや。夫れ尤物有らば、以て人を移すに足る。苟くも徳義に非ずんば、則ち必ず禍有り」と。叔向懼れ、敢えて取らず。平公強いて取らしめ、伯石を生む。伯石始めて生まるるや、叔向の母之を視んと、堂に及び、其の声を聞きて還りて曰く、「是れ豺狼の声なり。狼子は野心あり、是に非ざれば、羊舌氏を喪ぼす莫けん」と。遂に視ず。

現代語訳

当初、叔向は申公巫臣の一族の娘を妻に迎えようとした。叔向の母は、自分の一族から娶らせようとした。叔向は言った。「母方の親族の女は多いのに、子は少ない。私は母方の親族に懲りました」。母は言った。「子霊の妻の夏姫は三人の夫と一人の君主、一人の子を死なせ、一つの国と二人の卿を滅ぼしました。懲りないでよいはずがありません。私は聞いています。非常に美しい者には必ず非常に悪いところがあると。昔、有仍氏が娘を生みました。髪は黒く美しく、光は鏡になるほどでした。玄妻と名づけられました。楽正の後夔が娶って伯封を生みました。伯封は実に豚の心を持ち、貪って満足することがなく、怒りに限りがありませんでした。封豕と呼ばれました。有窮の后羿に滅ぼされ、夔の家はこれで祀られなくなりました。今、三代の滅亡も、共子の廃嫡も、すべてこうした女のためです。あなたはどうするつもりですか。そもそも並外れて美しい者がいれば、人の心を動かすに足ります。徳義が伴わなければ、必ず禍があります」。叔向は恐れ、あえて娶らなかった。平公が無理に娶らせ、伯石が生まれた。伯石が生まれたとき、叔向の母は見ようとして、堂まで行ったが、その声を聞いて引き返し、言った。「これは豺狼の声です。狼の子は野心を持つ。この子でなければ、羊舌氏を滅ぼす者はいないでしょう」。そして結局見なかった。

解説

この話は、外見の魅力だけで人を選ぶ危うさと、声や気配から本質を見抜く洞察を伝えます。叔向の母は、夏姫や玄妻という前例を引き、甚だ美しい者には甚だ悪い面があるという一般則を示して、息子の縁談を止めました。続いて生まれた伯石の声を聞いただけで、家を滅ぼす性格を予言しています。もっとも、容貌や声だけで人を決めつける態度は、現代の人事では偏見になりかねません。この話から取るべきは、魅力が強い人ほど、徳や誠実さの裏付けを確かめる慎重さです。採用や登用で一目惚れのような評価をしたときは、過去の行動や周囲の評判を、先例と並べて点検することが重要です。

この章句が説くこと

甚美必有甚悪尤物移人豺狼之声人材登用リスク先例

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