国語 / 晋語六
鄢之役,荊壓晉軍,軍吏患之,將謀。范匄自公族趨過之,曰:「夷灶堙井,非退而何?」范文子執戈逐之,曰:「國之存亡,天命也,童子何知焉?且不及而言,姦也,必為戮。」苗賁皇曰:「善逃難哉!」既退荊師於鄢,將穀,范文子立於戎馬之前,曰:「君幼弱,諸臣不佞,吾何福以及此!吾聞之,『天道無親,唯德是授。』吾庸知天之不授晉且以勸楚乎,君與二三臣其戒之!夫德,福之基也,無德而福隆,猶無基而厚墉也,其壞也無日矣。」
新字:鄢之役,荊圧晋軍,軍吏患之,将謀。范匄自公族趨過之,曰:「夷灶堙井,非退而何?」范文子執戈逐之,曰:「国之存亡,天命也,童子何知焉?且不及而言,姦也,必為戮。」苗賁皇曰:「善逃難哉!」既退荊師於鄢,将穀,范文子立於戎馬之前,曰:「君幼弱,諸臣不佞,吾何福以及此!吾聞之,『天道無親,唯徳是授。』吾庸知天之不授晋且以勧楚乎,君与二三臣其戒之!夫徳,福之基也,無徳而福隆,猶無基而厚墉也,其壊也無日矣。」
書き下し
鄢の役、荊晋の軍を圧す。軍吏之を患え、将に謀らんとす。范匄(はんかい)公族より趨(はし)りて之を過ぎて曰く、「灶(かまど)を夷(たいら)げ井を堙(ふさ)がば、退くに非ずして何ぞ」と。范文子戈を執りて之を逐いて曰く、「国の存亡は天命なり、童子何をか知らん。且つ及ばずして言うは姦なり、必ず戮せられん」と。苗賁皇曰く、「善く難を逃るるかな」と。既に荊の師を鄢に退け、将に穀(こく)せんとす。范文子戎馬の前に立ちて曰く、「君は幼弱にして、諸臣は不佞(ふねい)なり、吾何の福ありて以て此に及ぶや。吾之を聞く、『天道は親無し、唯だ徳に是れ授く』と。吾庸(なん)ぞ天の晋に授けて且つ以て楚を勧めざるを知らんや。君と二三臣と其れ之を戒めよ。夫れ徳は福の基なり。徳無くして福隆(さか)んなるは、猶お基無くして墉(かき)を厚くするがごとし、其の壊るるや日無からん」と。
現代語訳
鄢陵の戦いで、荊(楚)の軍が早朝、晋の陣に迫って陣を敷いた。晋の軍吏たちはこれを憂え、対策を相談しようとした。そこへ范匄(范文子の子)が、公族大夫の列から小走りに出てきて、その前を通りながら言った。「かまどを平らにし井戸を埋めて、陣中に陣を敷けばよい。そうすれば楚は退くしかないではないか。」范文子は戈を執って息子を追い払い、言った。「国の存亡は天命である。子どもに何が分かるか。それに、口を出すべき立場にないのに口を出すのは、よこしまなことだ。必ず罰せられるぞ。」苗賁皇は言った。「(范文子は)うまく災いを避けるものだ。」やがて楚軍を鄢陵から退けると、晋軍は楚の陣に入ってその糧を食そうとした。范文子は君の戦車の馬の前に立って言った。「わが君は年若くか弱く、臣下たちには才がない。われらに何の福があって、このような勝利に至ったのだろう。わたしはこう聞いている。『天の道にはえこひいきがなく、ただ徳のある者に福を授ける』と。天が晋に勝ちを授けたのは、かえって楚を励まして徳を修めさせるためではないと、どうして分かろうか。君と諸卿は、どうか戒められよ。徳は福の土台である。徳がないのに福ばかり盛んなのは、土台もないのに垣を厚く築くようなもので、崩れるのに日を待たないだろう。」
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『春秋左氏伝』昭公二十六年 晏子、彗星を禳わず天道は諂(うたが)はず、其の命を貳(たが)へず。之を若何ぞ禳はん。且つ天の彗有るや、以って穢れを除くなり。君に穢德無くんば、又何ぞ禳はん。若し德の穢れならば、之を禳ふとも何ぞ損せん。詩に曰く、『惟れ此の文王、小心翼翼たり。昭らかに上帝に事へ、聿(ここ)に多福を懷(きた)す。厥の德回(たが)はず、以って方國を受く』と。君に違德無くんば、方國將に至らんとす。何ぞ彗を患へん。詩に曰く、『我監みる所無し、夏后及び商。亂を用ってするの故に、民卒に流亡す』と。若し德回亂せば、民將に流亡せんとす。祝史の為す、能く補ふ無きなり」と。公說(よろこ)び、乃ち止む。齊侯、晏子と路寢に坐す。公歎じて曰く、「美なるかな室。其れ誰か此を有たんか」と。晏子曰く、「敢へて問ふ、何の謂ぞや」と。公曰く、「吾以為へらく德に在りと」と。對へて曰く、「君の言の如くんば、其れ陳氏か。陳氏大德無しと雖も、民に施す有り。豆・區・釜・鍾の數、其の之を公に取るや薄く、其の之を民に施すや厚し。公は斂を厚くし、陳氏は施しを厚くす。民之に歸せり。詩に曰く、『女(なんぢ)に與ふる德無しと雖も、
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『慎思録』巻之二人の善を作し不善を作す、苟も人報ゆること能はざれば、則ち天之に報ゆ。聖人謂ふ、積善の家には必ず余慶有り。積不善の家には必ず余殃有り、と。聖人の此の言、信ずべくして疑ふべからず。人の道徳有るや、天の君子に優厚する所以なり。此れ人の得難き所にして、之を得る者、古来寡し。何となれば則ち天の靳惜する所なればなり。富貴福禄は、天の常人に厚く賜ふ所なり。此れ人の得易き所にして、之を得る者、古来多し。何となれば則ち是れ天の靳惜せざる所なればなり。然らば則ち古来学びて得ること有る者は、其の福豊厚にして尊栄なりと謂ふべし。何ぞ之を官禄の崇高に比すべけんや。衆人は、其の志懾し。只だ富貴の栄幸為るを知りて、徳義の最も尊貴すべくして、富貴に超越するを知らず。是を以て徳を好まずして、富貴を貪るのみ。
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論語・衛霊公篇子曰く、由、徳を知る者は鮮なし。
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論語・憲問篇南宮适、孔子に問いて曰く、「羿は射を善くし、奡は舟を盪かす。倶に其の死を得ざりき。禹・稷は躬ら稼して天下を有てり。」夫子答えず。南宮适出づ。子曰く、「君子なるかな若き人。徳を尚ぶかな若き人。」
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論語・為政篇子曰く、政を為すに徳を以てすれば、譬えば北辰其の所に居て衆星之に共(むか)うが如し。
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論語・為政篇子曰く、之を道びくに政を以てし、之を斉(ととの)うるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を道びくに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば、恥有り且つ格(いた)る。
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