国語 / 晋語四
公在狄十二年,狐偃曰:「日,吾來此也,非以狄為榮,可以成事也。吾曰:『奔而易達,困而有資,休以擇利,可以戾也。』今戾久矣,戾久將底。底著滯淫,誰能興之?盍速行乎!吾不適齊、楚,避其遠也。蓄力一紀,可以遠矣。齊侯長矣,而欲親晉。管仲歿矣,多讒在側。謀而無正,衷而思始。夫必追擇前言,求善以終,饜邇逐遠,遠人入服,不為郵矣。會其季年可也,茲可以親。」皆以為然。 乃行,過五鹿,乞食於野人。野人舉塊以與之,公子怒,將鞭之。子犯曰:「天賜也。民以土服,又何求焉!天事必象,十有二年,必獲此土。二三子志之。歲在壽星及鶉尾,其有此土乎!天以命矣,復於壽星,必獲諸侯。天之道也,由是始之。有此,其以戊申乎!所以申土也。」再拜稽首,受而載之。遂適齊。
新字:公在狄十二年,狐偃曰:「日,吾来此也,非以狄為栄,可以成事也。吾曰:『奔而易達,困而有資,休以択利,可以戻也。』今戻久矣,戻久将底。底著滞淫,誰能興之?盍速行乎!吾不適斉、楚,避其遠也。蓄力一紀,可以遠矣。斉侯長矣,而欲親晋。管仲歿矣,多讒在側。謀而無正,衷而思始。夫必追択前言,求善以終,饜邇逐遠,遠人入服,不為郵矣。会其季年可也,茲可以親。」皆以為然。 乃行,過五鹿,乞食於野人。野人舉塊以与之,公子怒,将鞭之。子犯曰:「天賜也。民以土服,又何求焉!天事必象,十有二年,必獲此土。二三子志之。歳在寿星及鶉尾,其有此土乎!天以命矣,復於寿星,必獲諸侯。天之道也,由是始之。有此,其以戊申乎!所以申土也。」再拝稽首,受而載之。遂適斉。
書き下し
公狄に在ること十二年、狐偃(こえん)曰く、「日(さき)に吾此に来たるや、狄を以て栄と為すに非ず、以て事を成すべければなり。吾曰く、『奔りて達し易く、困しみて資有り、休みて以て利を択べば、以て戾(いた)るべし』と。今戾ること久し、戾ること久しければ将に底(とど)まらんとす。底著滞淫(ていちゃくたいいん)せば、誰か能く之を興さん。盍(なん)ぞ速やかに行かざる。吾斉・楚に適(ゆ)かざりしは、其の遠きを避けしなり。力を蓄うること一紀、以て遠くすべし。斉侯長ぜり、而して晋に親しまんと欲す。管仲歿して、讒多く側に在り。謀りて正すこと無く、衷(うち)に始めを思う。夫れ必ず前言を追択し、善を求めて以て終えんとし、邇(ちか)きに饜(あ)きて遠きを逐い、遠人入りて服するを、郵(とが)と為さざらん。其の季年に会うは可なり、茲(ここ)に以て親しむべし」と。皆以て然りと為す。 乃ち行きて、五鹿(ごろく)を過ぎ、食を野人に乞う。野人塊(つちくれ)を挙げて以て之に与う。公子怒りて、将に之を鞭うたんとす。子犯(しはん)曰く、「天の賜なり。民土を以て服す、又何をか求めん。天事は必ず象(しょう)あり、十有二年にして、必ず此の土を獲ん。二三子之を志(しる)せ。歳(さい)寿星及び鶉尾(じゅんび)に在るとき、其れ此の土を有たんか。天以て命ぜり、寿星に復らば、必ず諸侯を獲ん。天の道なり、是に由りて之を始めん。此を有つは、其れ戊申(ぼしん)を以てせんか。土を申(の)ぶる所以なり」と。再拝稽首し、受けて之を載す。遂に斉に適く。
現代語訳
公子重耳(晋の献公の子、のちの文公)が狄(北方の異民族)の地に身を寄せて十二年になった。狐偃(重耳の母方のおじ、字は子犯)が言った。「以前、われらがここへ来たのは、狄の暮らしを楽しむためではなく、ここからなら事を成し遂げられると考えたからです。わたしはあのとき、『逃れるには行き着きやすく、困ったときには頼るものがあり、休みながら利をはかれるから、ここに落ち着くのがよい』と申しました。しかし落ち着いてもう久しくなります。久しく落ち着けば、そのまま止まってしまいます。止まって居ついて廃れ、時が過ぎてしまえば、誰がそれを奮い立たせられましょう。どうして早く出発しないのですか。はじめに斉や楚へ行かなかったのは、遠いのを避けたからです。十二年のあいだ力を蓄えたのですから、もう遠くへも行けます。斉侯(桓公)は年をとり、晋と親しくなりたがっています。管仲が死んで、君のそばには讒言する者が多くいます。はかりごとをしても正してくれる者がなく、心のうちでは覇業を始めたころのことを思い返しているはずです。きっと以前の言葉を振り返って選び、善い者を求めて晩節を全うしようとし、近くの者には飽き足りず遠くの者を求めるでしょう。遠方の人が来て服するのを、とがめはしないはずです。その晩年にめぐり合うのがよいのです。今こそ親しむことができます。」みなそのとおりだと思った。 そこで出発し、衛の五鹿を通りかかって、農夫に食べ物を乞うた。農夫は土くれを持ち上げて差し出した。公子は怒って鞭で打とうとした。子犯が言った。「これは天からの賜りものです。民が土を差し出して服したのです。このうえ何を求めることがありましょう。天の事には必ずしるしがあります。十二年ののちに、必ずこの土地を手に入れるでしょう。皆さん、よく覚えておいてください。歳星(木星)が寿星から鶉尾の宿にめぐるころ、この土地を得るでしょう。天はすでに命じたのです。歳星がふたたび寿星にもどるころには、必ず諸侯の長となるでしょう。これが天の道であり、ここから始まるのです。この土地を得るのは戊申の日でしょうか。戊は土、申は土地を広げることを意味するからです。」公子は再拝して頭を地につけ、土くれを受けて車に載せた。こうして斉へ向かった。
解説
この章句が説くこと
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