国語 / 晋語二
二十六年,獻公卒。里克將殺奚齊,先告荀息曰:「三公子之徒將殺孺子,子將如何?」荀息曰:「死吾君而殺其孤,吾有死而已,吾蔑從之矣!」里克曰:「子死,孺子立,不亦可乎?子死,孺子廢,焉用死?」荀息曰:「昔君問臣事君於我,我對以忠貞。君曰:『何謂也?』我對曰:『可以利公室,力有所能,無不為,忠也。葬死者,養生者,死人復生不悔,生人不媿,貞也。』吾言既往矣,豈能欲行吾言而又愛吾身乎?雖死,焉避之?」 里克告丕鄭曰:「三公子之徒將殺孺子,子將何如?」丕鄭曰:「荀息謂何?」對曰:「荀息曰:『死之。』」丕鄭曰:「子勉之。夫二國士之所圖,無不遂也。我為子行之。子帥七輿大夫以待我。我使狄以動之,援秦以搖之。立其薄者可以得重賂,厚者可使無入。國,誰之國也!」里克曰:「不可。克聞之,夫義者,利之足也;貪者,怨之本也。廢義則利不立,厚貪則怨生。夫孺子豈獲罪於民?將以驪姬之惑蠱君而誣國人,讒群公子而奪之利,使君迷亂,信而亡之,殺無罪以為諸侯笑,使百姓莫不有藏惡於其心中,恐其如壅大川,潰而不可救禦也。是故將殺奚齊而立公子之在外者,以定民弭憂,於諸侯且為援,庶幾曰諸侯義而撫之,百姓欣而奉之,國可以固。今殺君而賴其富,貪且反義。貪則民怨,反義則富不為賴。賴富而民怨,亂國而身殆,懼為諸侯載,不可常也。」丕鄭許諾。於是殺奚齊、卓子及驪姬,而請君于秦。
新字:二十六年,献公卒。里克将殺奚斉,先告荀息曰:「三公子之徒将殺孺子,子将如何?」荀息曰:「死吾君而殺其孤,吾有死而已,吾蔑従之矣!」里克曰:「子死,孺子立,不亦可乎?子死,孺子廃,焉用死?」荀息曰:「昔君問臣事君於我,我対以忠貞。君曰:『何謂也?』我対曰:『可以利公室,力有所能,無不為,忠也。葬死者,養生者,死人復生不悔,生人不愧,貞也。』吾言既往矣,豈能欲行吾言而又愛吾身乎?雖死,焉避之?」 里克告丕鄭曰:「三公子之徒将殺孺子,子将何如?」丕鄭曰:「荀息謂何?」対曰:「荀息曰:『死之。』」丕鄭曰:「子勉之。夫二国士之所図,無不遂也。我為子行之。子帥七輿大夫以待我。我使狄以動之,援秦以揺之。立其薄者可以得重賂,厚者可使無入。国,誰之国也!」里克曰:「不可。克聞之,夫義者,利之足也;貪者,怨之本也。廃義則利不立,厚貪則怨生。夫孺子豈獲罪於民?将以驪姫之惑蠱君而誣国人,讒群公子而奪之利,使君迷乱,信而亡之,殺無罪以為諸侯笑,使百姓莫不有蔵悪於其心中,恐其如壅大川,潰而不可救禦也。是故将殺奚斉而立公子之在外者,以定民弭憂,於諸侯且為援,庶幾曰諸侯義而撫之,百姓欣而奉之,国可以固。今殺君而頼其富,貪且反義。貪則民怨,反義則富不為頼。頼富而民怨,乱国而身殆,懼為諸侯載,不可常也。」丕鄭許諾。於是殺奚斉、卓子及驪姫,而請君于秦。
書き下し
二十六年、献公卒す。里克将に奚斉を殺さんとし、先ず荀息(じゅんそく)に告げて曰く、「三公子の徒将に孺子(じゅし)を殺さんとす、子将に如何(いかん)せんとする」と。荀息曰く、「吾が君を死なしめて其の孤を殺さば、吾死有るのみ、吾之に従うこと蔑(な)からん」と。里克曰く、「子死して、孺子立たば、亦可ならずや。子死して、孺子廃せられば、焉(いずく)んぞ死を用いん」と。荀息曰く、「昔君臣の君に事うることを我に問う。我対うるに忠貞を以てす。君曰く、『何の謂いぞや』と。我対えて曰く、『以て公室を利すべく、力の能くする所有らば、為さざる無きは、忠なり。死者を葬り、生者を養い、死人復た生くとも悔いず、生人媿(は)じざるは、貞なり』と。吾が言既に往けり、豈に能く吾が言を行わんと欲して又吾が身を愛しまんや。死すと雖も、焉んぞ之を避けん」と。 里克丕鄭に告げて曰く、「三公子の徒将に孺子を殺さんとす、子将に何如せんとする」と。丕鄭曰く、「荀息何とか謂える」と。対えて曰く、「荀息曰く、『之に死せん』と」。丕鄭曰く、「子之を勉めよ。夫れ二国士の図る所、遂げざる無きなり。我子の為に之を行わん。子七輿(しちよ)大夫を帥(ひき)いて以て我を待て。我狄をして以て之を動かさしめ、秦を援きて以て之を揺るがさん。其の薄き者を立てば以て重賂を得べく、厚き者は入ること無からしむべし。国は、誰の国ぞや」と。里克曰く、「不可なり。克之を聞く、夫れ義は利の足なり。貪は怨みの本なり。義を廃すれば則ち利立たず、貪を厚くすれば則ち怨み生ず。夫れ孺子豈に罪を民に獲んや。将に驪姫の惑わしを以て君を蠱(まど)わして国人を誣(し)い、群公子を讒して之が利を奪い、君をして迷乱し、信じて之を亡(に)がれしめ、無罪を殺して以て諸侯の笑いと為し、百姓をして其の心中に悪を蔵せざる莫からしむ。其の大川を壅(ふさ)ぐが如く、潰(つい)えて救い禦(ふせ)ぐべからざらんことを恐るるなり。是の故に将に奚斉を殺して公子の外に在る者を立て、以て民を定め憂いを弭(や)め、諸侯に於いて且つ援けと為さんとす。庶幾(こいねが)わくは諸侯義として之を撫し、百姓欣びて之を奉じ、国以て固かるべしと曰わん。今君を殺して其の富を頼らば、貪にして且つ義に反す。貪なれば則ち民怨み、義に反すれば則ち富頼りと為らず。富を頼りて民怨み、国を乱して身殆(あや)うし。諸侯に載せられんことを懼る、常とすべからざるなり」と。丕鄭許諾す。是に於いて奚斉・卓子(たくし)及び驪姫を殺して、君を秦に請う。
現代語訳
献公の二十六年、献公が亡くなった。里克は奚斉(驪姫の子で新君)を殺そうとし、まず荀息(奚斉の守り役)に告げた。「三公子(申生・重耳・夷吾)の一党が、若君を殺そうとしている。あなたはどうするつもりか」。荀息は言った。「わが君が亡くなったばかりなのに、その遺児を殺すというのなら、私は死ぬだけです。決してそれに従いはしません」。里克は言った。「あなたが死んで若君が位を保てるなら、それもよかろう。だが、あなたが死んでも若君が廃されるなら、死んで何になる」。荀息は言った。「かつて先君が私に、臣下が君に仕える道を尋ねられたことがあります。私は忠と貞でお答えしました。君が『どういう意味か』と問われたので、私はこう答えました。『公室の利益になることなら、力の及ぶかぎり何でもする、これが忠です。亡き君を葬り、遺された君を養い、たとえ亡き君がよみがえっても悔いることがなく、生きている者に対して恥じることがない、これが貞です』と。私の言葉はもう口から出てしまいました。自分の言葉を実行しようとしながら、わが身を惜しむことなどできましょうか。死ぬことになっても、どうして避けましょう」。 里克は丕鄭に告げた。「三公子の一党が若君を殺そうとしている。あなたはどうするつもりか」。丕鄭は言った。「荀息は何と言いましたか」。里克は答えた。「荀息は『若君のために死ぬ』と言った」。丕鄭は言った。「あなたは進めなさい。二人の国士(里克と荀息)が企てることで、成し遂げられないものはありません。私があなたのために動きましょう。あなたは七輿大夫(申生の下軍の大夫たち)を率いて、私の合図を待ってください。私は狄を動かして晋を揺さぶり、秦の助けを引き込んで動揺させます。われらに恩の薄い公子を立てれば重い見返りを得られますし、手ごわい公子は入国させずにおくこともできます。国は、誰の国だというのです」。里克は言った。「それはいけない。私はこう聞いている。義は利を支える足であり、貪りは怨みの根である。義を捨てれば利は立たず、貪りを重ねれば怨みが生じると。あの若君がみずから民に罪を得たわけではない。驪姫の惑わしによって君は心を乱され、国人を欺き、公子たちを讒言してその立場を奪い、君を迷わせて讒言を信じさせ公子たちを亡命させ、罪のない太子を殺して諸侯の笑いものとなり、民の誰もが胸の内に憎しみを抱くようになった。それが大河をせき止めたように、決壊すれば食い止められなくなることを恐れるのだ。だから奚斉を殺して国外にいる公子を立て、民を落ち着かせて憂いを止め、諸侯の支えも得ようとしているのだ。そうすれば諸侯はそれを義として晋を安んじ、民は喜んで新君を奉じ、国は固まるだろうと願うのだ。いま君を殺してその富を当てにするなら、貪りであり、しかも義に背く。貪れば民が怨み、義に背けば富も頼りにならない。富を当てにして民に怨まれれば、国を乱して身を危うくする。諸侯の記録に悪例として書き留められるのが恐ろしい。そんなやり方が長く通るはずがない」。丕鄭は承知した。こうして里克らは奚斉と卓子(驪姫の妹の子)と驪姫を殺し、秦に新しい君を立ててくれるよう願い出た。
解説
この章句が説くこと
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