国語 / 魯語下
虢之會,諸侯之大夫尋盟未退。季武子伐莒取鄆,莒人告于會,楚人將以叔孫穆子為戮。晉樂王鮒求貨於穆子,曰:「吾為子請於楚。」穆子不予。梁其踁謂穆子曰:「有貨,以衛身也。出貨而可以免,子何愛焉?」穆子曰:「非女所知也。承君命以會大事,而國有罪,我以貨私免,是我會吾私也。苟如是,則又可以出貨而成私欲乎?雖可以免,吾其若諸侯之事何?夫必將或循之,曰:『諸侯之卿有然者故也。』則我求安身而為諸侯法矣。君子是以患作。作而不衷,將或道之,是昭其不衷也。余非愛貨,惡不衷也。且罪非我之由,為戮何害?」楚人乃赦之。 穆子歸,武子勞之,日中不出。其人曰:「可以出矣。」穆子曰:「吾不難為戮,養吾棟也。夫棟折而榱崩。吾懼壓焉。故曰雖死於外,而庇宗於內,可也。今既免大恥,而不忍小忿,可以為能乎?」乃出見之。
新字:虢之会,諸侯之大夫尋盟未退。季武子伐莒取鄆,莒人告于会,楚人将以叔孫穆子為戮。晋楽王鮒求貨於穆子,曰:「吾為子請於楚。」穆子不予。梁其踁謂穆子曰:「有貨,以衛身也。出貨而可以免,子何愛焉?」穆子曰:「非女所知也。承君命以会大事,而国有罪,我以貨私免,是我会吾私也。苟如是,則又可以出貨而成私欲乎?雖可以免,吾其若諸侯之事何?夫必将或循之,曰:『諸侯之卿有然者故也。』則我求安身而為諸侯法矣。君子是以患作。作而不衷,将或道之,是昭其不衷也。余非愛貨,悪不衷也。且罪非我之由,為戮何害?」楚人乃赦之。 穆子帰,武子労之,日中不出。其人曰:「可以出矣。」穆子曰:「吾不難為戮,養吾棟也。夫棟折而榱崩。吾懼圧焉。故曰雖死於外,而庇宗於内,可也。今既免大恥,而不忍小忿,可以為能乎?」乃出見之。
書き下し
虢の会に、諸侯の大夫盟を尋(あたた)めて未だ退かず。季武子莒を伐ちて鄆(うん)を取る。莒人会に告ぐ。楚人将に叔孫穆子を以て戮と為さんとす。晋の楽王鮒(がくおうふ)、貨を穆子に求めて曰く、「吾子の為に楚に請わん」と。穆子予えず。梁其踁(りょうきけい)穆子に謂いて曰く、「貨有るは、以て身を衛(まも)るなり。貨を出だして免るべくんば、子何ぞ愛(お)しまん」と。穆子曰く、「女の知る所に非ざるなり。君命を承けて以て大事に会し、而して国に罪有るに、我貨を以て私に免れなば、是れ我吾が私を会するなり。苟(いやしく)も是の如くんば、則ち又た貨を出だして私欲を成すべけんや。免るべしと雖も、吾其れ諸侯の事を若何(いかん)せん。夫れ必ず将に之に循う或らんとして、曰わん、『諸侯の卿に然る者有るが故なり』と。則ち我身を安んぜんことを求めて諸侯の法と為らん。君子是を以て作(な)すことを患う。作して衷(ちゅう)ならざれば、将に之に道(よ)る或らん。是れ其の不衷を昭らかにするなり。余は貨を愛しむに非ず。不衷を悪(にく)むなり。且つ罪は我に由るに非ず。戮と為るも何の害かあらん」と。楚人乃ち之を赦す。 穆子帰る。武子之を労(ねぎら)う。日中まで出でず。其の人曰く、「以て出づべし」と。穆子曰く、「吾戮と為るを難しとせざるは、吾が棟を養うなり。夫れ棟折るれば榱(たるき)崩る。吾圧(お)されんことを懼る。故に曰く、外に死すと雖も、宗を内に庇わば可なり、と。今既に大恥を免れて、小忿を忍びずんば、以て能と為すべけんや」と。乃ち出でて之に見ゆ。
現代語訳
虢の会盟で、諸侯の大夫たちが盟約を改めてまだ解散していないうちに、魯の季武子(執政)が莒を攻めて鄆の邑を奪った。莒の人々がこれを会盟の場に訴えたので、楚の人々は魯の代表である叔孫穆子を見せしめに処刑しようとした。晋の楽王鮒(晋の大夫)は穆子に賄賂を求めて言った。「私があなたのために楚にとりなしてあげよう」。穆子は与えなかった。家臣の梁其踁が穆子に言った。「財貨を持つのは、身を守るためです。財貨を出して免れることができるのなら、どうして惜しまれるのですか」。穆子は言った。「お前にはわからぬことだ。私は君命を受けて大事な会に臨んでいる。国に罪があるのに、私が財貨で自分だけ免れたら、私は私事のためにこの会に来たことになる。そんなことが通るなら、財貨さえ出せば私欲を遂げられることになろう。たとえ免れても、諸侯の間の務めをどうするのか。必ずそれにならう者が出て、『諸侯の卿にもそうした者がいたから』と言うだろう。そうなれば、私は身の安全を求めたばかりに、諸侯の悪い前例となってしまう。だから君子は、事を起こすことに心をくだくのだ。起こした事が正しくなければ、それを手本にする者が出て、その正しくなさを世に広めることになる。私は財貨が惜しいのではない。正しくないことが嫌なのだ。それに、罪は私が犯したものではない。処刑されたところで何の恥があろうか」。楚の人々はそこで穆子を許した。 穆子が帰国すると、季武子がねぎらいに訪ねてきたが、穆子は昼になっても出て会おうとしなかった。家の者が言った。「もうお出になってもよいでしょう」。穆子は言った。「私が処刑されることをいとわなかったのは、わが家の棟木である国を養うためだ。棟木が折れれば垂木(たるき)も崩れ落ち、私もその下敷きになってしまう。だから、外で死んでも内で一族を守れるならそれでよい、と言うのだ。いま大きな恥を免れたのに、小さな怒りをこらえられないのでは、有能といえようか」。そこで出て行って季武子に会った。
解説
この章句が説くこと
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『秘本玉くしげ』下 賄賂の損得すべて世中に此筋盛んなるゆゑに、おのづから国政正しくは行はれがたく、又上に損失ある事おびただしく、下にも損害甚多し。たとへば、金千両入べきところをも、役人へ三百両賄すれば五百両にてすむゆゑに、下にも二百両の得あれども、上には五百両だけの所の損あり。或は五百両にてすむべき事も、賄をせざれば七百両も八百両も入りて、其二百両三百両は脇道へぬけ行やうの事も有て、上にも利なく、下には大損ありて、あまつさへ上を恨み奉ること甚し。されば、国政の大害、下民の大害、此賄に過たるはなし。
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