導師導古典を学びたいすべての人に

秘本玉くしげ / 下 賄賂は人情

惣じて物を得ることを願ふは、千人万人まぬがれがたき人情のつねにて、本より然るべき理也。それに付ては、物を人のくるるを悅ぶも又人情なる故に、物を人に贈りて志のほどをあらはすも、本より然あるべき道理、古今いづれの國とても皆同じ事也。されば万の事に、その相手の人を悅ばせて其事を成就せんとはかるに、賄賂といふ物をつかふ事のあるも、おのづから然るべきいきほひ也。さて物を得るを悅ぶは本より人情なれば、その賄を受るもさのみ咎ともいひがたし。殊更此事、世中のなべてのならひと成ぬる事なれば、其人を深くとがむべき事にもあらず。然れ共、此賄の筋は甚國政の害となる事故に、古より深くこれをいましむる事なれども、とにかくに止がたきものにして、次第に增長し、近來は殊に甚しき事共あり。

新字:惣じて物を得ることを願ふは、千人万人まぬがれがたき人情のつねにて、本より然るべき理也。それに付ては、物を人のくるるを悦ぶも又人情なる故に、物を人に贈りて志のほどをあらはすも、本より然あるべき道理、古今いづれの国とても皆同じ事也。されば万の事に、その相手の人を悦ばせて其事を成就せんとはかるに、賄賂といふ物をつかふ事のあるも、おのづから然るべきいきほひ也。さて物を得るを悦ぶは本より人情なれば、その賄を受るもさのみ咎ともいひがたし。殊更此事、世中のなべてのならひと成ぬる事なれば、其人を深くとがむべき事にもあらず。然れ共、此賄の筋は甚国政の害となる事故に、古より深くこれをいましむる事なれども、とにかくに止がたきものにして、次第に增長し、近来は殊に甚しき事共あり。

書き下し

惣じて物を得ることを願ふは、千人万人まぬがれがたき人情のつねにて、本より然るべき理也。それに付ては、物を人のくるるを悦ぶも又人情なる故に、物を人に贈りて志のほどをあらはすも、本より然あるべき道理、古今いづれの国とても皆同じ事也。されば万の事に、その相手の人を悦ばせて其事を成就せんとはかるに、賄賂といふ物をつかふ事のあるも、おのづから然るべきいきほひ也。さて物を得るを悦ぶは本より人情なれば、その賄を受るもさのみ咎ともいひがたし。殊更此事、世中のなべてのならひと成ぬる事なれば、其人を深くとがむべき事にもあらず。然れ共、此賄の筋は甚国政の害となる事故に、古より深くこれをいましむる事なれども、とにかくに止がたきものにして、次第に増長し、近来は殊に甚しき事共あり。

現代語訳

総じて物を得ることを願うのは、千人万人が免れがたい人情の常であって、もとよりそうあるべき理である。それについては、人が物をくれるのを喜ぶのもまた人情であるから、物を人に贈って志のほどを表すのも、もとよりそうあるべき道理で、昔も今もどの国でも皆同じ事である。だから万事において、その相手の人を喜ばせてその事を成就させようと図るのに、賄賂というものを使う事があるのも、自然とそうなる勢いである。さて物を得るのを喜ぶのはもとより人情であるから、その賄を受けるのもそれほど咎とも言いがたい。ことにこの事は、世の中の一般の習わしとなってしまっている事であるから、その人を深く咎めるべき事でもない。けれども、この賄の筋ははなはだ国政の害となる事であるから、昔から深くこれを戒める事であるけれども、とにかくやめがたいものであって、次第に増長し、近頃はことにひどい事が多い。

解説

賄賂論の書き出しである。宣長はまず、物を得たいのも贈られて喜ぶのも人情であり、贈り物で志を表すのも道理だと認める。賄を受けた者を深く咎めるべきでもない、とまで言う。儒者のように賄賂を道徳の問題として一刀両断にしないのが宣長らしいところで、人の心の自然から出発する。そのうえで、これが国政の害であることは動かず、昔から戒めてもやまず、近頃はことにひどいと続ける。田沼時代を経た天明期、賄賂が横行していたことは広く知られていた。人情として避けがたいものを、個人の倫理ではなく、どういう仕組みで抑えるか。その問いが次の段以降につながる。

この章句が説くこと

賄賂人情贈り物国政戒め

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る