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不動智神妙録 / 諫言 其四 身を正す

取ると捨つるとは義を以てすると云へり、唯今寵臣たるにより、諸大名より賄を厚くし、欲に義を忘れ候事、努々不可有候、貴殿亂舞を好み、自身の能に奢り、諸大名衆へ押て參られ、能を勸められ候事、偏に病と存じ候なり、上の唱は猿樂の樣に申し候由、また挨拶のよき大名衆をば、御前に於てもつよく御取成しなさるゝ由、重ねて能く能く御思案可然歟、歌に「心こそ心迷はす心なれ心に心心ゆるすな」

新字:取ると捨つるとは義を以てすると云へり、唯今寵臣たるにより、諸大名より賄を厚くし、欲に義を忘れ候事、努々不可有候、貴殿乱舞を好み、自身の能に奢り、諸大名衆へ押て参られ、能を勧められ候事、偏に病と存じ候なり、上の唱は猿楽の様に申し候由、また挨拶のよき大名衆をば、御前に於てもつよく御取成しなさるゝ由、重ねて能く能く御思案可然歟、歌に「心こそ心迷はす心なれ心に心心ゆるすな」

書き下し

取ると捨つるとは義を以てすると云へり、唯今寵臣たるにより、諸大名より賄を厚くし、欲に義を忘れ候事、努々不可有候、貴殿乱舞を好み、自身の能に奢り、諸大名衆へ押て参られ、能を勧められ候事、偏に病と存じ候なり、上の唱は猿楽の様に申し候由、また挨拶のよき大名衆をば、御前に於てもつよく御取成しなさるゝ由、重ねて能く能く御思案可然歟、歌に「心こそ心迷はす心なれ心に心心ゆるすな」

現代語訳

取ることと捨てることは義をもってする、と言います。いま寵臣であるからといって、諸大名から厚く賄賂を受け、欲のために義を忘れることは、決してあってはなりません。あなたが乱舞を好み、自分の能の腕前に奢って、諸大名のところへ押しかけて参られ、能を勧められることは、ひとえに病だと存じます。お上のお謡いは猿楽のようだと申されているとか。また、挨拶のよい大名を、御前でも強くお取りなしなさるとか。重ねてよくよくご思案なさるべきでしょう。歌に、心こそ心迷はす心なれ心に心心ゆるすな、とあります。

解説

書の結びは、賄賂、自分の芸への奢り、愛想のよい大名への肩入れという、極めて具体的な諫言である。権力の近くにいる者が陥りやすい罠を、一つずつ名指ししている。そして最後に、心こそが心を迷わせるのだから、心に心を許すな、という歌で締めくくる。剣の心法から始まった書が、最後は権力者の自己管理の書として閉じる。立場が上がるほど、自分の心への警戒を緩めてはならないという戒めである。

この章句が説くこと

賄賂奢り自己管理権力和歌諫言

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