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国語 / 魯語上

子叔聲伯如晉謝季文子,郤犫欲予之邑,弗受也。歸,鮑國謂之曰:「子何辭苦成叔之邑,欲信讓耶,抑知其不可乎?」對曰:「吾聞之,不厚其棟,不能任重。重莫如國,棟莫如德。夫苦成叔家欲任兩國而無大德,其不存也,亡無日矣。譬之如疾,余恐易焉。苦成氏有三亡:少德而多寵,位下而欲上政,無大功而欲大祿,皆怨府也。其君驕而多私,勝敵而歸,必立新家。立新家,不因民不能去舊;因民,非多怨民無所始。為怨三府,可謂多矣。其身之不能定,焉能予人之邑!」鮑國曰:「我信不若子,若鮑氏有釁,吾不圖矣。今子圖遠以讓邑,必常立矣。」

新字:子叔声伯如晋謝季文子,郤犫欲予之邑,弗受也。帰,鮑国謂之曰:「子何辞苦成叔之邑,欲信譲耶,抑知其不可乎?」対曰:「吾聞之,不厚其棟,不能任重。重莫如国,棟莫如徳。夫苦成叔家欲任両国而無大徳,其不存也,亡無日矣。譬之如疾,余恐易焉。苦成氏有三亡:少徳而多寵,位下而欲上政,無大功而欲大禄,皆怨府也。其君驕而多私,勝敵而帰,必立新家。立新家,不因民不能去旧;因民,非多怨民無所始。為怨三府,可謂多矣。其身之不能定,焉能予人之邑!」鮑国曰:「我信不若子,若鮑氏有釁,吾不図矣。今子図遠以譲邑,必常立矣。」

書き下し

子叔声伯(ししゅくせいはく)、晋に如(ゆ)きて季文子を謝す。郤犫(げきしゅう)之に邑を予えんと欲す。受けざるなり。帰る。鮑国(ほうこく)之に謂いて曰く、「子何ぞ苦成叔(こせいしゅく)の邑を辞する。譲を信(の)べんと欲するか、抑々其の不可なるを知るか」と。対えて曰く、「吾之を聞く、其の棟を厚くせざれば、重きに任ずる能わず、と。重きは国に如くは莫く、棟は徳に如くは莫し。夫れ苦成叔の家は、両国に任ぜんと欲して大徳無し。其の存せざるや、亡ぶること日無し。之を譬うれば疾の如し。余、易(うつ)らんことを恐る。苦成氏に三亡有り。徳少なくして寵多し。位下にして政を上にせんと欲す。大功無くして大禄を欲す。皆怨みの府なり。其の君は驕りて私多し。敵に勝ちて帰れば、必ず新家を立てん。新家を立つるに、民に因らざれば旧を去る能わず。民に因るには、多怨に非ざれば始むる所無し。怨みの三府と為る、多しと謂うべし。其の身の定まる能わず、焉んぞ能く人に邑を予えん」と。鮑国曰く、「我信に子に若かず。若し鮑氏に釁(すき)有るも、吾図らざりき。今、子は遠きを図りて以て邑を譲る。必ず常に立たん」と。

現代語訳

子叔声伯(魯の大夫、公孫嬰斉)が晋に行き、捕らわれていた季文子(魯の執政)の釈放を願い出た。晋の郤犫(苦成叔、晋の卿)は声伯に領地を与えようとしたが、声伯は受けなかった。帰国すると、鮑国(斉から来て魯に仕えていた大夫)が声伯に言った。「あなたはなぜ苦成叔の領地を辞退したのか。謙譲の美徳を示したかったのか、それとも受けてはならないとわかっていたのか」。声伯は答えた。「私はこう聞いています。棟木が太くなければ重いものは支えられない、と。重いものといえば国に及ぶものはなく、棟木といえば徳に及ぶものはありません。苦成叔の家は、晋と魯の二国のことまで引き受けようとしながら、大きな徳がありません。あの家が滅びるのは、もう日を待つばかりです。たとえるなら病のようなもので、私はそれがうつるのを恐れたのです。苦成氏には滅びの種が三つあります。徳が少ないのに寵愛が多いこと、位が低いのに上の政治を握ろうとすること、大きな功がないのに大きな禄を求めることで、どれも怨みの集まる蔵です。そのうえ晋の君は驕って私情が多い。敵に勝って帰れば、必ず新しい寵臣の家を立てるでしょう。新しい家を立てるには、民の心に乗じなければ古い家を除けません。民の心に乗じるとなれば、怨みの多い家から始めるほかありません。怨みの蔵を三つも抱えているのですから、多すぎるといえましょう。自分の身さえ定まらない者が、どうして他人に領地を与えられましょうか」。鮑国は言った。「私はまことにあなたに及ばない。鮑氏の家にすきがあっても、私は気づかなかった。いまあなたは遠い先まで見通して領地を辞退した。あなたの家はきっといつまでも立ち続けるだろう」。

解説

魯の成公十六年(前575)、晋に捕らえられた季文子の釈放を子叔声伯が求めに行った後日の話である。晋の実力者郤犫は声伯を抱き込もうと領地を与えようとしたが、声伯は断った。その理由を問うた鮑国に、声伯は、国を支える棟木は徳であり、郤犫の家には徳がないのに寵愛・地位への野心・過分の禄という三つの怨みの種があると答えた。しかも晋の厲公は私情の多い君主で、戦勝すれば寵臣を新たに取り立て、そのとき除かれるのは怨みを集めた家だろうと見通した。実際、翌年の前574年、厲公は郤錡・郤犫・郤至の三郤を滅ぼしている。声伯は贈り物の値打ちではなく、贈り主の足元の確かさを見ていたのである。鮑国は、自分は家のすきにさえ気づけなかったと述べて声伯の見通しに感服した。うまい話ほど、差し出す相手の土台を見よという教えである。

この章句が説くこと

国語魯語徳先見辞退

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