剣徴 / 果敢敏捷、進退の義
茅元儀云、兵刄相接之上、當果敢敏捷、夫既に兵刄を交に及で遲回逡巡するは、畏縮退怯の私心ぞ、此私心を打破するときは、則果敢敏捷の勇斷勃起す、恰も飢鷹の鳥を擊ち、餒虎の獸を搏するに似たり、此に至て其勢自ら止むること不能、殆んど峻坂に圓石を轉するが如し、孫兵聖云、兵聞拙速、未覩巧之久也、又此之謂也、又曰、慮既定、心乃强、進退無疑、必死に覺悟を決定すれば、畏懼の念頭竭盡して、勇猛剛强の心自ら生ず、於是、進も退も皆節に當り機に會し、我より爲得て獨斷の妙境に在り、焉ぞ疑惑の累有んや、進とは敵に向て進を云、退とは敵を殺して歸るを云、進で敵を打殺して、後へ歸り退より外は無き也、是進退の義也、若し敵强くして、進退けらるると云はゞ、吾より進退するに非ず、甚だ其義を失せり、
新字:茅元儀云、兵刄相接之上、当果敢敏捷、夫既に兵刄を交に及で遅回逡巡するは、畏縮退怯の私心ぞ、此私心を打破するときは、則果敢敏捷の勇断勃起す、恰も飢鷹の鳥を撃ち、餒虎の獣を搏するに似たり、此に至て其勢自ら止むること不能、殆んど峻坂に円石を転するが如し、孫兵聖云、兵聞拙速、未睹巧之久也、又此之謂也、又曰、慮既定、心乃強、進退無疑、必死に覚悟を決定すれば、畏懼の念頭竭尽して、勇猛剛強の心自ら生ず、於是、進も退も皆節に当り機に会し、我より為得て独断の妙境に在り、焉ぞ疑惑の累有んや、進とは敵に向て進を云、退とは敵を殺して帰るを云、進で敵を打殺して、後へ帰り退より外は無き也、是進退の義也、若し敵強くして、進退けらるると云はゞ、吾より進退するに非ず、甚だ其義を失せり、
書き下し
茅元儀云ふ、「兵刃相接するの上は、当に果敢敏捷なるべし」と、夫既に兵刃を交に及で遅回逡巡するは、畏縮退怯の私心ぞ、此私心を打破するときは、則果敢敏捷の勇断勃起す、恰も飢鷹の鳥を撃ち、餒虎の獣を搏するに似たり、此に至て其勢自ら止むること不能、殆んど峻坂に円石を転するが如し、孫兵聖云ふ、「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを覩ざるなり」と、又此之謂也、又曰く、「慮既に定まれば、心乃ち強く、進退疑ひ無し」と、必死に覚悟を決定すれば、畏懼の念頭竭尽して、勇猛剛強の心自ら生ず、是に於て、進も退も皆節に当り機に会し、我より為得て独断の妙境に在り、焉ぞ疑惑の累有んや、進とは敵に向て進を云、退とは敵を殺して帰るを云、進で敵を打殺して、後へ帰り退より外は無き也、是進退の義也、若し敵強くして、進退けらるると云はゞ、吾より進退するに非ず、甚だ其義を失せり、
現代語訳
茅元儀は言います。「武器の刃が触れ合う場では、果敢で敏捷であるべきだ」と。すでに刃を交える段になって、ぐずぐずためらうのは、縮み怯える私心です。この私心を打ち破れば、果敢で敏捷な勇断が勃然と起こります。ちょうど飢えた鷹が鳥を撃ち、飢えた虎が獣に飛びかかるようなものです。ここに至れば、その勢いは自然に止まらず、ほとんど急な坂を丸い石が転がるようです。孫兵聖は「兵は、拙くても速いという話は聞くが、巧みで長引いた例は見たことがない」と言いますが、これもこの意味です。また「思慮がすでに定まれば、心は強くなり、進退に疑いがない」と言います。必死に覚悟を決めれば、恐れの念は尽き、勇猛で剛強な心が自然に生まれます。そうなれば、進むも退くもみな節度に当たり、機に合い、自分からやってのけて独断の妙境にあります。どうして疑いやわずらいがありましょう。進むとは敵に向かって進むことをいい、退くとは敵を殺して帰ることをいいます。進んで敵を討ち取り、後ろへ帰ること、これ以外に進退はありません。これが進退の意味です。もし敵が強くて進退を妨げられると言うなら、自分から進退しているのではなく、その意味を大きく失っています。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『呻吟語』外篇・治道・枉尺直尋政を為すに私に徇ひ、謗を弭め、道に違ひ、譽を干むるを以て第一の恥と為す。人上たる者は自ら應に行ふべき道理有り。合へば則ち行ひ、合はざれば則ち去る。若し委曲遷就し、利を計り害を慮らば、身を奉じて退くに如かず。孟子の謂ふ枉尺直尋は、推し起こし來たる可からず。一寸を枉げて千尺を直くすと雖も、恐らくは亦た未だ可ならざるなり。或るひと曰く、「君親の際に處するに、恐らくは當に枉ぐべき處有らん」と。曰く、「當に枉ぐべくんば則ち之を枉ぐと謂ふを得ず。是れを權以て經を行ふと謂ふ。畢竟是れ直道にして行ふなり」と。
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言志四録・言志録 第八十七条 托孤の任托孤の任に当る者は、孤主の年長ずるに迨びて、則ち当に早く権を君に還して以て自ら退避すべし。乃ち能く君臣両つながら全し。伊尹曰く、「臣寵利を以て成功に居ること罔かれ」と。是れ阿衡実践の言にして、万世大臣の亀鑑なり。
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『慎思録』巻之六左伝に晋の随武子曰く、可を見て進み、難きを知りて退くは、軍の善政なりと。蓋し兵を用ゐるの道は、進退に度有り。度を失へば則ち不可なり。夫れ進むべからずして進み、退くべくして退かざるは、是れ勇者の事、太過と為すべし。我が国俗の貴ぶ所なり。然り而して法の禁ずる所なり。軍に利あらざるに由るなり。進むべくして進まず、退くべからずして退く者は、是れ怯者の事、不及と為すべし。国俗の賤しむ所、是れ亦法の禁ずる所にして、戦ひに利あらず。四者は勇怯同じからずと雖も、然れども兵を用ゐるに害有るは則ち一なり。
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『春秋左氏伝』哀公十一年 鳥は木を択ぶ悼子亡(に)ぐ。衛人夏戊を翦る。孔文子の將に大叔を攻めんとするや、仲尼に訪ふ。仲尼曰く、「胡簋の事は、則ち嘗て之を學べり。甲兵の事は、未だ之を聞かざるなり」と。退きて駕を命じて行かんとして曰く、「鳥は則ち木を擇ぶ。木豈に能く鳥を擇ばんや」と。文子遽かに之を止めて曰く、「圉豈に敢へて其の私を度らんや。衛國の難を訪ふなり」と。將に止まらんとす。魯人幣を以て之を召く。乃ち歸る。季孫田賦を以てせんと欲し、冉有をして諸を仲尼に訪はしむ。仲尼曰く、「丘は識らざるなり」と。三たび發す。卒に曰く、「子は國老為り。子を待ちて行はんとす。若之何ぞ子の言はざるや」と。仲尼對へず。而して冉有に私して曰く、「君子の行ひや、禮に度る。施すは其の厚きを取り、事は其の中を舉げ、斂むるは其の薄きに從ふ。是の如くならば則ち丘を以てするも亦た足れり。若し禮に度らずして、貪冒厭くこと無くんば、則ち田賦を以てすと雖も、將た又足らざらん。且つ子季孫若し行ひて法とせんと欲せば、則ち周公の典在り。若し苟もして行はんと欲せば、又何ぞ訪はん」と。聽かず。
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『呻吟語』内篇・修身・身は道の輿なり身なる者は、道の輿なり。身は道を載せて以て行く。道は身を載せて以て行くに非ざるなり。故に君子は道行はるれば、則ち身之に從ひて以て進む。道行はれざれば、則ち身之に從ひて以て退く。道行はれずして進むを求めて已まざるは、之を譬ふれば大賈の百貨山積して售れざるに、載せて以て歸らずして、又た空輿を以て錢を僱ふがごとし。販夫も之を笑ふ。貪鄙孰れか甚だしからんや。
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『呻吟語』内篇・談道・行かざるを得ざる所に行く君子の事に於けるや、其の行かざるを得ざる所に行き、其の止まらざるを得ざる所に止まる。言に於けるや、其の語らざるを得ざる所に語り、其の默せざるを得ざる所に默す。尤悔庶幾はくは寡からん。

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