啓発録 / 去稚心
且又稚心ノ害アル譯ハ稚心ヲ除カヌ時ハ士氣振ハヌモノニテイツマデモ腰拔士ニナリ居リ候モノニテ候故ニ余稚心ヲ去ルヲ以テ士ノ道ニ入ル始ト存候也
新字:且又稚心ノ害アル訳ハ稚心ヲ除カヌ時ハ士気振ハヌモノニテイツマデモ腰抜士ニナリ居リ候モノニテ候故ニ余稚心ヲ去ルヲ以テ士ノ道ニ入ル始ト存候也
書き下し
且又稚心の害ある訳は、稚心を除かぬ時は、士気振はぬものにて、いつまでも腰抜士になり居り候ものにて候故に、余、稚心を去るを以て士の道に入る始と存候也。
現代語訳
そのうえ、稚心に害がある理由は、稚心を除かないときは士気が振るわず、いつまでも腰抜けの武士のままでいるからです。ですから私は、稚心を去ることを、士の道に入る始まりと考えます。
解説
第一項の結びにあたる短い段で、稚心を去ることを士の道の入口だと位置づけています。ここで初めて、次項で扱う士気と結びつけられ、五項目が一本の筋でつながっていることがわかります。腰抜けという強い言葉も、十五歳の少年が自分に向けたものと思うと、重みが変わってきます。「士の道」の士は武士のことで、左内は自分の立場から話を始めています。現代の職場に置き換えると、稚心を去ることは役割への入口をくぐる条件です。どれほど専門性があっても、甘えが残る間は、周りから任される範囲が広がらないという実感に近いものです。
この章句が説くこと
稚心士気士の道入門心構え啓発録
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