啓発録 / 振氣
氣トハ人ニ負ヌ心立アリテ恥辱ノコトヲ無念ニ思フ處ヨリ起ル意氣張ノ事也振トハ折角自分ト心ヲトヾメテ振立振起シ心ノナマリ油斷セヌ樣ニ致ス義ナリ
新字:気トハ人ニ負ヌ心立アリテ恥辱ノコトヲ無念ニ思フ処ヨリ起ル意気張ノ事也振トハ折角自分ト心ヲトヾメテ振立振起シ心ノナマリ油断セヌ様ニ致ス義ナリ
書き下し
気とは人に負ぬ心立ありて、恥辱のことを無念に思ふ処より起る意気張の事也。振とは折角自分と心をとゞめて、振立、振起し、心のなまり油断せぬ様に致す義なり。
現代語訳
気とは、人に負けまいという心構えがあって、恥辱を無念に思うところから起こる意気張りのことです。振うとは、せっかくの自分の心を留めて奮い立たせ、心が鈍ったり油断したりしないようにする意味です。
解説
第二項「振気」の定義の段です。気を、人に負けない心構えと、恥辱を無念に思う気持ちの二つから起こる意気張りだと説明します。振うことは、持っている気を奮い立たせ、鈍らせないことだと続けます。つまり気は新しく作るものではなく、すでにあるものを保ち、起こし続ける手入れの対象だという見方です。負けず嫌いと恥を知る心は、現代では扱いづらい性質と見られがちですが、左内はそれを士の核に置きました。組織でも、悔しさを持てる人は育ちます。その悔しさを油断で鈍らせない工夫こそが、管理職の仕事でもあります。
この章句が説くこと
気意気張り恥辱油断振起啓発録
関連する章句
-
『正法眼蔵随聞記』巻四示して云く、伝へ聞く実否は知らざれども、故持明院の中納言入道あるとき秘蔵の太刀を盗まれたりけるに、士の中に犯人ありけるを、余の士沙汰し出してまゐらせたりしに、入道の云へらく、此れは我が太刀にあらずひがことなりとてかへされたり、決定その太刀なれども、士の恥辱を思ふてかへされたりと、人皆な是を知りけれども、其の時は無為にしてすぎけり、故に子孫も繁昌せり、俗なほ心ある人はかくの如し、
-
呂氏春秋・離俗④齊の莊公の時、士有り、賓卑聚と曰う、夢に壯子有り、白縞の冠、丹繢の䘩、東布の衣、新たなる素履、墨き劍室、從にして之を叱し、其の面に唾す。惕然として寤むれば、徒に夢なり。終夜坐して自ら快からず。明日、其の友を召して之に告げて曰く、「吾少きより勇を好み、年六十にして挫して辱しめらるる所無し。今夜辱しめらる。吾將に其の形を索めんとす。期して之を得れば則ち可、得ずんば將に之に死せんとす。」毎朝其の友と俱に衢に立ち、三日得ず。卻きて自ら歿す。此を務に當れりと謂うは、則ち未だしきなり。然りと雖も、其の心の辱しめられざるは、以て加う可き有らんや。
-
『秘本玉くしげ』上 恥辱と思わぬ上たとひいかほど困窮はしても、上のはからひだによろしければ、此事は起るものにあらず。然るに近年は、ここにもかしこにも多きによりて、めづらしからぬ事になりて、まづ一旦静まればよき事にして、さのみ跡の吟味もくはしからず、張本人を一両人とらへて定まりのとほり刑に行へば、そのむきにて、跡の上の取計らひをたしなみ改むる事もせず、世間に例多ければ、さのみ恥辱とも思はれぬやうの所もありとぞ。
-
『秘本玉くしげ』上 徒党と強訴たとへば衣服など、昔はもめんならでは用ひざりし程の者も、今はおしなべて衿帯などは絹類をも用ふるやうになり、むかしは藁筵ならでは敷ざりしほどの屋も、今は畳を敷くやうになり、昔は雨中に蓑笠わらんづにてありきし者も、今は傘をさし屐をはくやうになれり。これらに准じて、余の事にも此類多くして物入多き也。百姓町人大勢徒党して強訴濫放することは、昔は治平の世にはおさおさうけ玉はり及ばぬこと也。近世になりても先年はいとまれなる事なりしに、近年は所所にこれ有てめづらしからぬ事になれり。これ武士にあづからず、畢竟百姓町人のことなれば何ほどの事にもあらず、小事なるには似たれ共、小事にあらず、甚大切の事也。いづれも困窮にせまりてせん方なきよりおこるとはいへども、詮ずる所、上を恐れざるより起れり。下民の上をおそれざるは乱の本にて、甚容易ならざる事にて、まづ第一その領主の恥辱これに過たるはなし。
-
『正法眼蔵随聞記』巻三夜話に云く、学道の人は最も貧なるべし、世人を見るに、財ある人はまづ嗔恚耻辱の二つの難定めて来るなり、宝あれば人是を奪ひ取らんと思ふ、我は取られじとする時、嗔恚たちまちに起る、或は是を論じて問答対決に及び、つゐには闘争合戦をいたす、かくの如くのあひだに嗔恚も起り、恥辱も来るなり、貧にして貪ぼらざる時は、先づ此の難を免れて安楽自在なり、證拠眼前なり、教文を待べからず、爾のみならず、古聖先賢是を謗り、諸天仏祖皆な是を恥かしむ、然あるに愚癡なる人は財宝を貯へ、そこばくの嗔恚をいだくこと、恥辱の中の恥辱なり、
-
『正法眼蔵随聞記』巻四いはんや出家人必ずしも此の心あるべし、出家人はもとより身に財宝なければ、智慧功徳を以てたからとす、他の無道心なる、ひがことなんどを直に面てにあらはして、非におとすべからず、方便を以て彼れのはらたつまじき様に云ふべきなり、暴悪なるは其の法久しからずと云ふ、設ひ法を以て呵噴するとも、あらき言葉なるは法も久しからざるなり、小人下器はいさゝかも人のあらき言ばに必ず即ちはらたち、恥辱を思ふなり、大人上器には似るべからず、大人はしかあらず設ひ打たるれども報を思はす、今我国には小人多し、つゝしまずんはあるべからざるなり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る