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肝要工夫録 / 己のための学問・結び

此卷に述ぶる處の數條、みな人たるの道を知て、今日身を修むるの一助ともならむかと、(童蒙の爲にしるすなり。)たとへば、嘉肴ありといへども、食はざれば、其旨きことを知らず。人として學ばざれば、人たるの善道を知らず。鳥獸と同じく生き、犬馬の歲を積むのみにては、人と生れたるの詮なき事なれば、始の條にいふ如く、己が爲にするの學問をすべし。學問といふは、氣質を變化して、君子となるの術なれば、道理をさとす假名本を見ても、今日の行にたくらべて、身を修ることを、專ら勵む時は、即ちそれが實學といふ者なり。程子朱子の實學を我朝にて、能く深切に後世に諭せし書は、貝原篤信の初學知要、自娛集、愼思錄など、いかにも、深切の書にて、身を修むるの肝要の敎なれば、常に熟覽して、日々行狀の鑑とすべし。

新字:此巻に述ぶる処の数条、みな人たるの道を知て、今日身を修むるの一助ともならむかと、(童蒙の為にしるすなり。)たとへば、嘉肴ありといへども、食はざれば、其旨きことを知らず。人として学ばざれば、人たるの善道を知らず。鳥獣と同じく生き、犬馬の歳を積むのみにては、人と生れたるの詮なき事なれば、始の条にいふ如く、己が為にするの学問をすべし。学問といふは、気質を変化して、君子となるの術なれば、道理をさとす仮名本を見ても、今日の行にたくらべて、身を修ることを、専ら励む時は、即ちそれが実学といふ者なり。程子朱子の実学を我朝にて、能く深切に後世に諭せし書は、貝原篤信の初学知要、自娯集、慎思録など、いかにも、深切の書にて、身を修むるの肝要の教なれば、常に熟覧して、日々行状の鑑とすべし。

書き下し

此卷に述ぶる處の數條、みな人たるの道を知て、今日身を修むるの一助ともならむかと、(童蒙の爲にしるすなり。)たとへば、嘉肴ありといへども、食はざれば、其旨きことを知らず。人として學ばざれば、人たるの善道を知らず。鳥獸と同じく生き、犬馬の歲を積むのみにては、人と生れたるの詮なき事なれば、始の條にいふ如く、己が爲にするの學問をすべし。學問といふは、氣質を變化して、君子となるの術なれば、道理をさとす假名本を見ても、今日の行にたくらべて、身を修ることを、專ら勵む時は、即ちそれが實學といふ者なり。程子朱子の實學を我朝にて、能く深切に後世に諭せし書は、貝原篤信の初學知要、自娛集、愼思錄など、いかにも、深切の書にて、身を修むるの肝要の敎なれば、常に熟覽して、日々行狀の鑑とすべし。

現代語訳

この巻に述べた数条は、みな人たる道を知って、今日身を修める助けにもなればと思い、(童蒙のために記したものです。)たとえば、美味い肴があっても、食べなければその旨さを知りません。人として学ばなければ、人たる善道を知りません。鳥獣と同じように生き、犬馬のように歳を重ねるだけでは、人と生まれた甲斐がありませんから、初めの条でいったように、己のためにする学問をすべきです。学問とは、気質を変化させて君子となる術ですから、道理を諭す仮名本を見ても、今日の行いに引き比べて、身を修めることを専ら励むときは、すなわちそれが実学というものです。程子や朱子の実学を、わが国で最も親切に後世に諭した書は、貝原篤信の『初学知要』『自娯集』『慎思録』などで、いかにも親切な書で、身を修める肝要な教えですから、常に熟覧して、日々の行状の鑑としなさい。

解説

結びの前半で、書の目的を、童蒙のために人たる道を示し、身を修める助けとすることだと確認します。美味い肴も食べなければ味が分からないという比喩で、学びは実際に行うことで初めて分かると述べ、冒頭の己のための学問に戻ります。気質を変化させて君子となる術という定義は、学びの目的が人格の変化にあるという考え方です。貝原益軒の書を推薦する点は、当時の読者に具体的な次の一冊を示す配慮です。管理職は、学びを行いに引き比べる習慣が、自分を育てる実学になるでしょう。

この章句が説くこと

実学己のための学気質変化君子貝原益軒童蒙

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