肝要工夫録 / 仁と国の長久
千代よろづ、たえず誠の、鏡をば、磨けよみがけ、日々に新に。又大國を治むるも、慈悲と武邊と儉約の三つにしくはなかるべし。昔の名大將も、智勇は勝れて、國家を治めたる者多けれども、仁の道に薄くして、臣下萬民に慈悲薄き故に、天心に合はず、久しからずして、其子孫に至り亡びし者、少からず。是れその基本たる仁の薄き故なり。厚く仁心を以て、天下萬民を救ひ玉ふ處の國は、四海治まり、千萬歲の長久なる事、目前の證ある事なり。仁の事は、聖賢厚く敎へ示し給ふ事にて、愚筆に盡すべきにあらず、古人仁をおこなふの敎を、よく〱工夫すべき事なり、取り分け、貝原五常訓を熟覽すべし。
新字:千代よろづ、たえず誠の、鏡をば、磨けよみがけ、日々に新に。又大国を治むるも、慈悲と武辺と倹約の三つにしくはなかるべし。昔の名大将も、智勇は勝れて、国家を治めたる者多けれども、仁の道に薄くして、臣下万民に慈悲薄き故に、天心に合はず、久しからずして、其子孫に至り亡びし者、少からず。是れその基本たる仁の薄き故なり。厚く仁心を以て、天下万民を救ひ玉ふ処の国は、四海治まり、千万歳の長久なる事、目前の証ある事なり。仁の事は、聖賢厚く教へ示し給ふ事にて、愚筆に尽すべきにあらず、古人仁をおこなふの教を、よく〱工夫すべき事なり、取り分け、貝原五常訓を熟覧すべし。
書き下し
千代よろづ、たえず誠の、鏡をば、磨けよみがけ、日々に新に。又大國を治むるも、慈悲と武邊と儉約の三つにしくはなかるべし。昔の名大將も、智勇は勝れて、國家を治めたる者多けれども、仁の道に薄くして、臣下萬民に慈悲薄き故に、天心に合はず、久しからずして、其子孫に至り亡びし者、少からず。是れその基本たる仁の薄き故なり。厚く仁心を以て、天下萬民を救ひ玉ふ處の國は、四海治まり、千萬歲の長久なる事、目前の證ある事なり。仁の事は、聖賢厚く敎へ示し給ふ事にて、愚筆に盡すべきにあらず、古人仁をおこなふの敎を、よく〱工夫すべき事なり、取り分け、貝原五常訓を熟覽すべし。
現代語訳
「千代よろづ、たえず誠の、鏡をば、磨けよみがけ、日々に新に」。(千代万代、絶えず誠の鏡を、磨けよ磨け、日々新たに、という意味の歌です。)また、大国を治めるにも、慈悲と武辺と倹約の三つに及ぶものはありません。昔の名大将も、智勇は優れて国家を治めた者が多かったのですが、仁の道に薄く、臣下や万民に慈悲が薄かったために、天の心に合わず、久しからずしてその子孫の代に滅びた者が少なくありません。これはその基本である仁が薄かったからです。厚い仁心をもって天下万民を救われる国は、四海が治まり、千万歳の長久であることは、目の前に証拠があることです。仁のことは、聖賢が厚く教え示されたことで、拙い筆に尽くせるものではありません。古人の仁を行う教えを、よくよく工夫すべきです。とりわけ、貝原の『五常訓』をよく熟覧しなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『五常訓』巻之一・総論一人に仁義あるは、天に陰陽あるが如し。天に陰陽なければ、造化の理ほろびて、四の時行はれず、万物生ぜずして、天地の道立たず。人に仁義なければ、心の徳ほろび、五倫の道行はれずして、人道立たず。禽獣と何ぞ異ならんや。故に易に曰、天の道を立てて陰と陽といふ。人の道を立てて、仁と義といふ。
-
『五常訓』巻之二・仁之上一樊遅仁を問ふ、子曰く人を愛すと。仁は愛をつかさどる。故に仁を行ふの道は、人を愛するにあり。此人の字は、五倫をさして見るべし。人を愛するは、即人倫を愛する也。人の道は仁を行ふにあり。仁を行ふの道は人を愛するにあり。人を愛せんとならば、まづ心の私を去り、人我のへだて無くして、あはれみの心をおしひろむるにあり。愛人を以て仁を説き給ふ。誠に切実にして、近き教なり。
-
『武士道』第五章 仁・愛不忍の心・仁は徳の王なり武士道は愛敬、寛仁、同情、憐憫を以て、徳の最なるものとし、人の霊魂の賦性の最も高尚なるものなりとす。仁は二様の意義に於て王者の徳なり。即ち高尚なる精神に伴ふ多くの資禀の冠たるのみならず、又た特に王道に契合するが故に徳の王なり。慈悲の王者に於けるは、冠冕よりも貴く、又た権威に勝るとは、吾人はシェイクスピアを俟ちて始めて之を知るものに非らず。ただ宇内諸人と共に、彼より初めて此名言を聞くを得たるのみ。孔孟しばしば、王者の一日も仁勿るべからず、『仁なる者は人なり』なることを明かにせり。孔子曰く、『国君、仁を好めば天下に敵無し』と。又た曰く、『仁は天の尊爵なり、人の安宅なり』と。又た『君、仁なれば仁ならざるは莫く、君、義なれば義ならざるは莫し』とも曰へり。而して孟子の之を説く、更に詳なるものあり。
-
『武士道』第五章 仁・愛不忍の心・最も剛毅なる者は最も柔和なり『最も剛毅なる者は、最も柔和なり。最も愛ある者は、最も勇敢なり』とは、古今東西の通義なり。武士のなさけとは、人心に妙音を伝へて、高尚なる情感を覚醒するの語なりき。武夫の慈悲の質たる、他者の慈悲と其類を殊にするには非らず。されど仁の武士に於けるは、漠然たる感情より発するものに非らずして、其心に正義を忘れざるにあり。又た其仁は、ただに情緒の発現たるのみに非らずして、而も其後へには生殺与奪の権を有し、恩に兼ぬるに威を以てす。経済学者が、需要に有効無効の別ありと云ふが如く、武士の慈悲は即ち有効なるものと称すべくして、之を受くるものに対して、或は利益を生じ、或は損害を来たすの力を有せり。武士は獣力を栄とし、之を用ふるの特権に誇りたりと雖も、又た深く孟子が仁の力を説くに服するものなりき。
-
司馬法・仁本正、意を獲ざれば則ち権(けん)す。権は戦より出で、仁より出でざるなり。是の故に人を殺して人を安んぜば、之を殺すも可なり。其の国を攻むるも、其の民を愛せば、之を攻むるも可なり。
-
『文武訓』文訓上之末一人の文字を見ば、よきことは褒め、さほどなきは、かげにてもそしるべからず。人のつとめて作れる文字を、一言にたやすくそしりおとさんもなさけなし。作れる人、そしりを聞かば、本意なく思ひうらみいかるべし。是をそしるは不仁無礼にて、道理にそむくのみならず、人のうらみを受けて悪しし。又あしき文詩を褒むるも、いつはりにて本意にあらず。只其よしあしを云はざらんには如かじ。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る