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肝要工夫録 / 仮名の書で実学

されども、文字の力なく、漢文の解し難き者には、此先生の著す處の八訓の類を(八訓といふは、童子訓・初學訓・五常訓・大和俗訓・家道訓・文武訓・樂訓・養生訓の類なり。此等は、假名書にして、誰々にも解しやすく、至つて深切なる敎なり。)常にかたはらに置きて、朝暮熟覽して、今日の鑑とし、其身を慈み守る時は、是が眞の實學にて、漢文はよまずとも、志の厚き學者といふべき者なり。(併學問といふは、假名本にて、濟むことと心得、素讀などに怠るべからず。爰にいふ處は、年輩に至り、今素讀などする餘力なき者の爲にいふ事なり。童子には、いかにも素讀を勵すべし)猶ほ其上に餘力あらば、この先生の著述數多ありて、皆深切なる敎なるゆへ、追々に熟覽すべき事、是また肝要の工夫なるゆへ、文化十三子年孟春、追ふて爰にしるすのみ。

新字:されども、文字の力なく、漢文の解し難き者には、此先生の著す処の八訓の類を(八訓といふは、童子訓・初学訓・五常訓・大和俗訓・家道訓・文武訓・楽訓・養生訓の類なり。此等は、仮名書にして、誰々にも解しやすく、至つて深切なる教なり。)常にかたはらに置きて、朝暮熟覧して、今日の鑑とし、其身を慈み守る時は、是が真の実学にて、漢文はよまずとも、志の厚き学者といふべき者なり。(併学問といふは、仮名本にて、済むことと心得、素読などに怠るべからず。爰にいふ処は、年輩に至り、今素読などする余力なき者の為にいふ事なり。童子には、いかにも素読を励すべし)猶ほ其上に余力あらば、この先生の著述数多ありて、皆深切なる教なるゆへ、追々に熟覧すべき事、是また肝要の工夫なるゆへ、文化十三子年孟春、追ふて爰にしるすのみ。

書き下し

されども、文字の力なく、漢文の解し難き者には、此先生の著す處の八訓の類を(八訓といふは、童子訓・初學訓・五常訓・大和俗訓・家道訓・文武訓・樂訓・養生訓の類なり。此等は、假名書にして、誰々にも解しやすく、至つて深切なる敎なり。)常にかたはらに置きて、朝暮熟覽して、今日の鑑とし、其身を慈み守る時は、是が眞の實學にて、漢文はよまずとも、志の厚き學者といふべき者なり。(併學問といふは、假名本にて、濟むことと心得、素讀などに怠るべからず。爰にいふ處は、年輩に至り、今素讀などする餘力なき者の爲にいふ事なり。童子には、いかにも素讀を勵すべし)猶ほ其上に餘力あらば、この先生の著述數多ありて、皆深切なる敎なるゆへ、追々に熟覽すべき事、是また肝要の工夫なるゆへ、文化十三子年孟春、追ふて爰にしるすのみ。

現代語訳

しかし、文字の力がなく、漢文の解し難い者には、この先生が著した八訓の類を(八訓とは、『童子訓』『初学訓』『五常訓』『大和俗訓』『家道訓』『文武訓』『楽訓』『養生訓』の類です。これらは仮名書きで、誰にも解りやすく、至って親切な教えです。)常にそばに置いて、朝夕熟覧し、今日の鑑として、その身を慈しみ守るときは、これこそ真の実学で、漢文は読まなくても、志の厚い学者というべきです。(ただし、学問とは仮名本で済むと心得て、素読などを怠ってはいけません。ここにいうのは、年輩に至って今は素読などをする余力のない者のために言うことです。童子には、いかにも素読を励ませなさい。)なおその上に余力があれば、この先生の著述は数多くあり、みな親切な教えですから、追い追い熟覧すべきです。これもまた肝要の工夫ですから、文化十三子年孟春に、追って、ここに記すのみです。

解説

漢文が読めない人にも、貝原益軒の仮名書きの八訓を常に手元に置けば、それが真の実学だと勧める結びです。ただし、学問は仮名本で済むと心得て素読を怠るなとも釘を刺し、年輩の人向けの方便であり、子どもには素読を励ませと区別します。巻末に文化十三年の年記があります。現代の組織にも、専門知識の有無にかかわらず、平易な書を繰り返し読んで行いに移すことが学びになるという示唆があります。管理職は、入門書を軽んじず、基礎を怠らない姿勢を示すとよいでしょう。

この章句が説くこと

仮名書き貝原八訓素読実学熟覧志

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