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肝要工夫録 / 勇気とは

勇はいさむと訓じて、何事も決斷よく、物事をしとげ、少しも臆する氣なく、外は溫和謙遜にして、かりそめにも、人の無禮を咎めず、內に勇剛を專にして、血氣麁忽の振舞なく、いかにも柔に見ゆるといへども、心操の大丈夫なること、鐵石の如くなるを、勇氣の者といふ。武士は、とりわけ勇氣なくては叶はぬ事にて、諺にも、唐土の虎は毛を惜み、日本の武士は名を惜むといへるは本朝の武士の勇氣を、よく〱言ひ取りたる言葉なり。名を惜むは、恥ある士の心にて、義勇ともに名を惜む中に備はることなれば、名利などいへる意味とは大に違ふ事なり。故に勉めて武勇を勵むべき事、肝要なり。しかれども、あしく勇に勵むときは、血氣の勇にして、俠者といふ者なり。

新字:勇はいさむと訓じて、何事も決断よく、物事をしとげ、少しも臆する気なく、外は温和謙遜にして、かりそめにも、人の無礼を咎めず、内に勇剛を専にして、血気麁忽の振舞なく、いかにも柔に見ゆるといへども、心操の大丈夫なること、鉄石の如くなるを、勇気の者といふ。武士は、とりわけ勇気なくては叶はぬ事にて、諺にも、唐土の虎は毛を惜み、日本の武士は名を惜むといへるは本朝の武士の勇気を、よく〱言ひ取りたる言葉なり。名を惜むは、恥ある士の心にて、義勇ともに名を惜む中に備はることなれば、名利などいへる意味とは大に違ふ事なり。故に勉めて武勇を励むべき事、肝要なり。しかれども、あしく勇に励むときは、血気の勇にして、侠者といふ者なり。

書き下し

勇はいさむと訓じて、何事も決斷よく、物事をしとげ、少しも臆する氣なく、外は溫和謙遜にして、かりそめにも、人の無禮を咎めず、內に勇剛を專にして、血氣麁忽の振舞なく、いかにも柔に見ゆるといへども、心操の大丈夫なること、鐵石の如くなるを、勇氣の者といふ。武士は、とりわけ勇氣なくては叶はぬ事にて、諺にも、唐土の虎は毛を惜み、日本の武士は名を惜むといへるは本朝の武士の勇氣を、よく〱言ひ取りたる言葉なり。名を惜むは、恥ある士の心にて、義勇ともに名を惜む中に備はることなれば、名利などいへる意味とは大に違ふ事なり。故に勉めて武勇を勵むべき事、肝要なり。しかれども、あしく勇に勵むときは、血氣の勇にして、俠者といふ者なり。

現代語訳

勇は「いさむ」と訓じ、何事も決断よく、物事をやり遂げ、少しも臆する気がなく、外は温和で謙遜し、かりそめにも人の無礼を咎めず、内に勇剛を専らにして、血気の粗忽な振る舞いがなく、いかにも柔らかに見えても、心の操が大丈夫なこと鉄石のようなものを、勇気の者といいます。武士はとりわけ勇気がなくてはかなわないもので、ことわざにも「唐土の虎は毛を惜しみ、日本の武士は名を惜しむ」というのは、日本の武士の勇気をよく言い取った言葉です。名を惜しむのは、恥を知る士の心で、義勇ともに名を惜しむことの中に備わるものですから、名利などという意味とは大いに違います。ですから、努めて武勇に励むことが肝要です。しかし、悪く勇に励むときは、血気の勇となり、侠者というものになります。

解説

勇気を、外は温和謙遜、内は鉄石のように剛いものと定義する条です。無礼を咎めず、血気の振る舞いをしない柔らかな外見こそ、本当の勇気の姿だという逆説が要です。名を惜しむことを義勇の根と位置づけ、名利とは別だと区別します。現代の管理職にとって、勇気とは大声や強硬さではなく、静かな決断力と、信用や名誉を守る姿勢です。声を荒らげず、必要なときに決断し、やり遂げる人こそ部下の信頼を集めるでしょう。血気の勇との違いを意識することが大切です。

この章句が説くこと

勇気血気名を惜しむ義勇決断謙遜

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