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肝要工夫録 / 貧富は天命

何事も、足ることを知り、一生に、堪忍づよき、人はあんらく。總じて、人の貧富貴賤あるは、天命にして、人力を以て變ぜらるゝ者にあらず。たとへば、己が一身五體のうちにも、貧富貴賤はあるぞかし。腹はつねに衣に包まれ、飮食に滿ち、手足は常に役使せられ、首は上もなく尊けれども、常に裸暮しなり。然りとて、首が別に寒さにもあらず、手足が別に辛勞なるにもあらず。人々今日の貧富も亦た此のごとくなれば、唯だその天命に安んじ、足ることを知り、職分を大切に勤むるときは、富貴は自然と天にあることとなり。(足ることを知り、天命に安んぜむと思はゞ、北門の詩などを翫味して、古人の操を知つて學ぶべき事なり。)

新字:何事も、足ることを知り、一生に、堪忍づよき、人はあんらく。総じて、人の貧富貴賤あるは、天命にして、人力を以て変ぜらるゝ者にあらず。たとへば、己が一身五体のうちにも、貧富貴賤はあるぞかし。腹はつねに衣に包まれ、飲食に満ち、手足は常に役使せられ、首は上もなく尊けれども、常に裸暮しなり。然りとて、首が別に寒さにもあらず、手足が別に辛労なるにもあらず。人々今日の貧富も亦た此のごとくなれば、唯だその天命に安んじ、足ることを知り、職分を大切に勤むるときは、富貴は自然と天にあることとなり。(足ることを知り、天命に安んぜむと思はゞ、北門の詩などを翫味して、古人の操を知つて学ぶべき事なり。)

書き下し

何事も、足ることを知り、一生に、堪忍づよき、人はあんらく。總じて、人の貧富貴賤あるは、天命にして、人力を以て變ぜらるゝ者にあらず。たとへば、己が一身五體のうちにも、貧富貴賤はあるぞかし。腹はつねに衣に包まれ、飮食に滿ち、手足は常に役使せられ、首は上もなく尊けれども、常に裸暮しなり。然りとて、首が別に寒さにもあらず、手足が別に辛勞なるにもあらず。人々今日の貧富も亦た此のごとくなれば、唯だその天命に安んじ、足ることを知り、職分を大切に勤むるときは、富貴は自然と天にあることとなり。(足ることを知り、天命に安んぜむと思はゞ、北門の詩などを翫味して、古人の操を知つて學ぶべき事なり。)

現代語訳

「何事も、足ることを知り、一生に、堪忍づよき、人はあんらく」。総じて、人に貧富貴賤があるのは天命で、人力で変えられるものではありません。たとえば、自分の一身五体のうちにも、貧富貴賤はあるものです。腹は常に衣に包まれ、飲食に満ち、手足は常に使役され、首は上もなく尊いのに、常に裸暮らしです。だからといって、首が特に寒いわけでもなく、手足が特に辛労なわけでもありません。人々の今日の貧富もこのようなものですから、ただその天命に安んじ、足ることを知り、職分を大切に勤めるときは、富貴は自然と天にあることになります。(足ることを知り、天命に安んじようと思うなら、『詩経』の北門の詩などを味わい、古人の操を知って学ぶべきです。)

解説

貧富貴賤を天命とし、それを体の各部位の役割にたとえる条です。首は尊いが裸であり、腹は包まれ、手足は働く、それぞれに役割があり優劣ではないという比喩は、組織における職分の考え方に通じます。現代では、身分は固定という前提は取れませんが、役割ごとに価値があり、比べても意味がないという発想は有益です。管理職は、各人の職分を尊重し、他の役割と比べて優劣を言わない姿勢を持つと、組織の納得感が高まります。身分制の肯定ではなく役割論として読みましょう。

この章句が説くこと

貧富貴賤天命職分足るを知る身体の比喩堪忍

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