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肝要工夫録 / 独りを慎む

古語に不愧屋漏則心安而體舒とありて、家の片隅などの人見ざるくらき所にてをこなひなす事、又こゝろに獨り思ふ事にても、みづから顧みて、少しも心に恥づる事なく、たとへ多くの人前に出すとも、恥づることなきやうにあれば、いつも心安樂に身體ものび〱として、是程快然たるはなきことなり。人が見聞せざるとて、たゞ私欲の爲に手前勝手のをこなひをなし、道に背くことは、小人の常にして、其不善を揜ひて、言葉に取かざりなどいひ、其快からざることをするは愚なる事なり。是等の仕業は揜ひても、其肺肝までも見ゆるごとくにて、殊に天道はなほ明らかに知り玉ふ事なり。古語に天の聞くこと雷のごとく、天のみること電のごとしといふて、人は知るまひ見まひと思ふても、天の見聞し玉ふことすみやかなれば、不善を行ふ者には、目前に天より禍を降し玉ふことなり。歌道に、

新字:古語に不愧屋漏則心安而体舒とありて、家の片隅などの人見ざるくらき所にてをこなひなす事、又こゝろに独り思ふ事にても、みづから顧みて、少しも心に恥づる事なく、たとへ多くの人前に出すとも、恥づることなきやうにあれば、いつも心安楽に身体ものび〱として、是程快然たるはなきことなり。人が見聞せざるとて、たゞ私欲の為に手前勝手のをこなひをなし、道に背くことは、小人の常にして、其不善を揜ひて、言葉に取かざりなどいひ、其快からざることをするは愚なる事なり。是等の仕業は揜ひても、其肺肝までも見ゆるごとくにて、殊に天道はなほ明らかに知り玉ふ事なり。古語に天の聞くこと雷のごとく、天のみること電のごとしといふて、人は知るまひ見まひと思ふても、天の見聞し玉ふことすみやかなれば、不善を行ふ者には、目前に天より禍を降し玉ふことなり。歌道に、

書き下し

古語に不愧屋漏則心安而體舒とありて、家の片隅などの人見ざるくらき所にてをこなひなす事、又こゝろに獨り思ふ事にても、みづから顧みて、少しも心に恥づる事なく、たとへ多くの人前に出すとも、恥づることなきやうにあれば、いつも心安樂に身體ものび〱として、是程快然たるはなきことなり。人が見聞せざるとて、たゞ私欲の爲に手前勝手のをこなひをなし、道に背くことは、小人の常にして、其不善を揜ひて、言葉に取かざりなどいひ、其快からざることをするは愚なる事なり。是等の仕業は揜ひても、其肺肝までも見ゆるごとくにて、殊に天道はなほ明らかに知り玉ふ事なり。古語に天の聞くこと雷のごとく、天のみること電のごとしといふて、人は知るまひ見まひと思ふても、天の見聞し玉ふことすみやかなれば、不善を行ふ者には、目前に天より禍を降し玉ふことなり。歌道に、

現代語訳

古語に「屋漏に愧じざれば、則ち心安くして体舒ぶ」とあり、家の片隅などの人が見ない暗い所での行い、また心の中で一人思うことでも、自ら顧みて少しも心に恥じることがなく、たとえ大勢の人の前に出しても恥じることがないようであれば、いつも心は安楽で身体ものびのびとして、これほど快いことはありません。人が見聞きしないからといって、ただ私欲のために手前勝手な行いをし、道に背くのは小人の常で、その不善を覆い隠して、言葉で飾るなどして、その快くないことをするのは愚かなことです。こうした行いは隠しても、その肺肝まで見えるようなもので、まして天道はなお明らかにご存じです。古語に「天の聞くことは雷のごとく、天の見ることは電のごとし」といい、人は知るまい見るまいと思っても、天の見聞きは速やかですから、不善を行う者には、目の前で天から禍を降されます。歌道に、

解説

人の見ていない所でも恥じない行いをする、慎独の教えです。屋漏、つまり家の奥の暗がりでも恥じなければ、心身が伸び伸びするという言葉に、隠れた行いが自分の心の安らぎに直結するという視点があります。現代の管理職にとって、誰も見ていない場面の判断、たとえば数字の扱い、経費、部下への陰での言動は、最も信頼を左右する部分です。隠しても肺肝まで見えるという表現は、取り繕いは見抜かれるという戒めでもあります。大勢の前に出せるかを、行動の最終点検にするとよいでしょう。

この章句が説くこと

慎独屋漏天道隠れた行い心の安楽取り繕い

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