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韓非子 / 八經第四十八

故明主審公私之分,審利害之地,姦乃無所乘。亂之所生六也:主母,后姬,子姓,弟兄,大臣,顯賢。任吏責臣,主母不放;禮施異等,后姬不疑;分勢不貳,庶適不爭;權籍不失,兄弟不侵;下不一門,大臣不擁;禁賞必行,顯賢不亂。臣有二因,謂外内也。外曰畏,内曰愛。所畏之求得,所愛之言聽,此亂臣之所因也。外國之置諸吏者,結誅親暱重帑,則外不籍矣;爵禄循功,請者俱罪,則内不因矣。外不籍,内不因,則姦宄塞矣。官襲節而進,以至大任,智也。其位至而任大者,以三節持之:曰質,曰鎮,曰固。親戚妻子,質也;爵禄厚而必,鎮也;參伍責怒,固也。賢者止於質,貪饕化於鎮,姦邪窮於固。忍不制則下上,小不除則大誅,而名實當則徑之。生害事,死傷名,則行飲食;不然,而與其讎,此謂除陰姦也。翳曰詭,詭曰易。見功而賞,見罪而罰,而詭乃止。是非不泄,說諫不通,而易乃不用。父兄賢良播出曰遊禍,其患鄰敵多資。僇辱之人近習曰狎賊,其患發忿疑辱之心生。藏怒持罪而不發曰增亂,其患徼幸妄舉之人起。大臣兩重提衡而不踦曰卷禍,其患家隆劫殺之難作。脱易不自神曰彈威,其患賊夫酖毒之亂起。此五患者,人主之不知,則有劫殺之事。

新字:故明主審公私之分,審利害之地,姦乃無所乗。乱之所生六也:主母,后姫,子姓,弟兄,大臣,顕賢。任吏責臣,主母不放;礼施異等,后姫不疑;分勢不貳,庶適不争;権籍不失,兄弟不侵;下不一門,大臣不擁;禁賞必行,顕賢不乱。臣有二因,謂外内也。外曰畏,内曰愛。所畏之求得,所愛之言聴,此乱臣之所因也。外国之置諸吏者,結誅親暱重帑,則外不籍矣;爵禄循功,請者倶罪,則内不因矣。外不籍,内不因,則姦宄塞矣。官襲節而進,以至大任,智也。其位至而任大者,以三節持之:曰質,曰鎮,曰固。親戚妻子,質也;爵禄厚而必,鎮也;参伍責怒,固也。賢者止於質,貪饕化於鎮,姦邪窮於固。忍不制則下上,小不除則大誅,而名実当則径之。生害事,死傷名,則行飲食;不然,而与其讎,此謂除陰姦也。翳曰詭,詭曰易。見功而賞,見罪而罰,而詭乃止。是非不泄,説諫不通,而易乃不用。父兄賢良播出曰遊禍,其患鄰敵多資。僇辱之人近習曰狎賊,其患発忿疑辱之心生。蔵怒持罪而不発曰增乱,其患徼幸妄舉之人起。大臣両重提衡而不踦曰巻禍,其患家隆劫殺之難作。脱易不自神曰弾威,其患賊夫酖毒之乱起。此五患者,人主之不知,則有劫殺之事。

書き下し

故に明主は公私の分を審らかにし、利害の地を審らかにすれば、姦乃ち乘ずる所無し。亂の生ずる所は六なり。主母、后姬、子姓、弟兄、大臣、顯賢なり。吏に任じ臣を責むれば、主母放ならず。禮施等を異にすれば、后姬疑はず。勢を分かちて貳ならざれば、庶適爭はず。權籍を失はざれば、兄弟侵さず。下一門ならざれば、大臣擁せず。禁賞必ず行はるれば、顯賢亂れず。臣に二因有り、外内を謂ふなり。外を畏と曰ひ、内を愛と曰ふ。畏るる所の求め得られ、愛する所の言聽かるるは、此れ亂臣の因る所なり。外國の諸吏を置く者は、誅を結び親暱を重帑にすれば、則ち外籍らず。爵禄功に循ひ、請ふ者俱に罪せらるれば、則ち内因らず。外籍らず、内因らざれば、則ち姦宄塞がる。官節を襲ねて進み、以て大任に至るは、智なり。其の位至りて任大なる者は、三節を以て之を持す。曰く質、曰く鎮、曰く固。親戚妻子は、質なり。爵禄厚くして必なるは、鎮なり。參伍して責め怒るは、固なり。賢者は質に止まり、貪饕は鎮に化し、姦邪は固に窮す。忍びて制せざれば則ち下上り、小除かざれば則ち大いに誅す、而して名實當らば則ち之を徑す。生きては事を害し、死しては名を傷つくれば、則ち飲食を行ふ。然らずんば、而ち其の讎に與ふ、此れを陰姦を除くと謂ふなり。翳ふを詭と曰ひ、詭を易と曰ふ。功を見て賞し、罪を見て罰すれば、詭乃ち止む。是非泄れず、說諫通ぜざれば、易乃ち用ひられず。父兄賢良播出するを遊禍と曰ふ、其の患は鄰敵資多し。僇辱の人近習するを狎賊と曰ふ、其の患は忿を發し辱を疑ふの心生ず。怒を藏し罪を持して發せざるを增亂と曰ふ、其の患は徼幸妄舉の人起こる。大臣兩重衡を提げて踦ならざるを卷禍と曰ふ、其の患は家隆にして劫殺の難作る。脱易にして自ら神ならざるを彈威と曰ふ、其の患は賊夫酖毒の亂起こる。此の五患は、人主之を知らざれば、則ち劫殺の事有り。

現代語訳

だから明主が公と私の区別を明らかにし、利害の置きどころを見きわめれば、悪人がつけ込む余地はない。乱の生じるもとは六つある。君主の母、后や側室、子孫、兄弟、大臣、名声のある賢者である。役人に職務を任せて臣下の責任を問えば、君主の母は勝手なことをしない。礼遇や下賜に等級の差をつければ、后や側室は疑いを起こさない。権勢を分けても二つの中心を作らなければ、庶子と嫡子は争わない。権力の拠りどころを失わなければ、兄弟は侵してこない。臣下が一つの門に集まらなければ、大臣は君主を囲い込まない。禁令と賞が必ず行われれば、名声のある賢者も乱を起こさない。臣下には頼るものが二つある。外と内である。外は畏れられるもの、すなわち外国であり、内は愛されるもの、すなわち君主の寵愛する人である。畏れられる外国の求めが通り、愛される者の言葉が聞き入れられることこそ、乱臣の頼りとするところである。外国の後ろ盾で官に就いた者には罰を連座させ、その親しい者の妻子や財産にまで及ぼせば、臣下は外国の力を借りなくなる。爵位と俸禄を功績に従わせ、口利きを頼んだ者も頼まれた者もともに罰すれば、臣下は内の寵愛に頼らなくなる。外の力を借りず、内に頼らなければ、悪事は塞がれる。官職を一段ずつ進んで大任に至るのは智恵ある者である。地位が高く任務の大きい者は、三つのたがで抑える。人質、重し、固めである。親族や妻子は人質である。手厚く確実な爵位と俸禄は重しである。照らし合わせて責任を問うことは固めである。賢者は人質で思いとどまり、貪欲な者は重しで心を改め、邪な者は固めで行き詰まる。見逃して抑えなければ下の者が上を凌ぎ、小さいうちに除かなければ大きな処罰が必要になるが、罪状と事実が合えばただちに処断する。生かしておけば事を害し、殺せば君主の名を傷つける者には、飲食に毒を盛って始末する。それができなければ、その仇に引き渡す。これを隠れた悪人を除くという。真相を覆い隠すことを「詭」といい、詭は君主を軽んじて事を変える「易」を生む。功績を見て賞し、罪を見て罰すれば、詭はやむ。是非の判断が外に漏れず、取り次ぎの説得が通らなければ、易は用いられない。君主の父兄や賢良が国外に散って出ていくのを「遊禍」といい、その害は隣の敵国に多くの助けを与えることである。辱めを受けた者を近くに仕えさせるのを「狎賊」といい、その害は恨みを晴らそうとし辱めを疑う心が生じることである。怒りを心に秘め、罪を知りながら処断しないのを「増乱」といい、その害は僥倖を狙って妄動する者が現れることである。二人の大臣がともに重んじられ、天秤のように釣り合って偏らないのを「巻禍」といい、その害は臣下の家が隆盛して君主を脅かし殺す難が起こることである。軽率で自らを測り知れなく保たないのを「弾威」といい、その害は刺客や毒殺の乱が起こることである。この五つの害を君主が知らなければ、脅かされ殺される事態が起こる。

解説

八経篇の第三「起乱」の本体で、乱の源となる六者(主母・后姫・子姓・弟兄・大臣・顕賢)と、その抑え方、臣下を縛る「質・鎮・固」、見落とすと命取りになる五つの害を列挙した一段です。毒殺や仇への引き渡しまで書き込む冷酷さは、戦国の宮廷政治の実態を映しています。とはいえ骨格は、権力の中心を二つにしない、口利きを罰する、重用する人には確実な報酬と照合による責任追及をセットにする、という普遍的な統治の原則です。今の組織でも、二人の実力者が拮抗したまま放置される状態や、処分すべき問題を先送りする状態が、派閥争いや不満の爆発を招くことはよくあります。

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