韓非子 / 詭使第四十五
非此三者,雖有不急矣。今利非無有也,而民不化上;威非不存也,而下不聽從;官非無法也,而治不當名。三者非不存也,而世一治一亂者,何也?夫上之所貴與其所以爲治相反也。夫立名號,所以爲尊也;今有賤名輕實者,世謂之「高」。設爵位,所以爲賤貴基也;而簡上不求見者,世謂之「賢」。威利,所以行令也;而無利輕威者,世謂之「重」。法令,
新字:非此三者,雖有不急矣。今利非無有也,而民不化上;威非不存也,而下不聴従;官非無法也,而治不当名。三者非不存也,而世一治一乱者,何也?夫上之所貴与其所以為治相反也。夫立名号,所以為尊也;今有賤名軽実者,世謂之「高」。設爵位,所以為賤貴基也;而簡上不求見者,世謂之「賢」。威利,所以行令也;而無利軽威者,世謂之「重」。法令,
書き下し
此の三者に非ずんば、有りと雖も急ならず。今利無有に非ざるなり、而るに民上に化せず。威存せざるに非ざるなり、而るに下聴従せず。官法無きに非ざるなり、而るに治名に当たらず。三者存せざるに非ざるなり、而るに世一たび治まり一たび乱るるは、何ぞや。夫れ上の貴ぶ所と其の治を為す所以とが相反すればなり。夫れ名号を立つるは、尊と為す所以なり。今名を賤しみ実を軽んずる者有り、世之を「高」と謂ふ。爵位を設くるは、賤貴の基と為す所以なり。而るに上を簡りて見ゆるを求めざる者、世之を「賢」と謂ふ。威利は、令を行ふ所以なり。而るに利無く威を軽んずる者、世之を「重」と謂ふ。法令は、
現代語訳
この三つでなければ、他のものがあっても急務ではない。今、利がないわけではないのに、民は上に感化されない。威が存在しないわけではないのに、下は聞き従わない。官に法がないわけではないのに、政治は名目どおりにならない。三つが存在しないわけではないのに、世が治まったり乱れたりするのはなぜか。上が尊ぶものと、治めるための手段とが食い違っているからである。名号を立てるのは、尊さを示すためである。ところが今、名を賤しみ実利を軽んじる者がいると、世はこれを「高潔」と言う。爵位を設けるのは、貴賤の基準とするためである。ところが上を侮って目通りを求めない者を、世は「賢者」と言う。威と利は命令を行わせるためのものである。ところが利を求めず威を軽んじる者を、世は「重厚」と言う。法令は、
解説
関連する章句
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『韓非子』詭使第四十五聖人の治道を為す所以の者は三つ。一に曰く「利」、二に曰く「威」、三に曰く「名」。夫れ利なる者は、民を得る所以なり。威なる者は、令を行ふ所以なり。名なる者は、上下の同じく道とする所なり。
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『韓非子』詭使第四十五官爵は、民を勧むる所以なり。而るに名義を好みて仕に進まざる者、世之を「烈士」と謂ふ。刑罰は、威を擅にする所以なり。而るに法を軽んじて刑戮死亡の罪を避けざる者、世之を「勇夫」と謂ふ。民の名に急なるや、其の利を求むるより甚だし。此くの如くんば、則ち士の饑餓乏絶する者、焉んぞ巌居苦身して以て名を天下に争ふこと無きを得んや。故に世の治まらざる所以の者は、下の罪に非ず、上其の道を失へばなり。常に其の乱るる所以を貴びて、其の治まる所以を賤しむ、是の故に下の欲する所は、常に上の治を為す所以と相詭ふなり。今下にして其の上に聴くは、上の急とする所なり。而るに惇慤純信にして、心を用ひ言を怯るれば、則ち之を「窶」と謂ふ。法を守ること固く、令を聴くこと審らかなれば、則ち之を「愚」と謂ふ。上を敬ひ罪を畏るれば、則ち之を「怯」と謂ふ。言時節あり、行中適すれば、則ち之を「不肖」と謂ふ。二心私学無く、吏に聴き教へに従ふ者は、則ち之を「陋」と謂ふ。致し難き之を「正」と謂ひ、予へ難き之を「廉」と謂ひ、禁じ難き之を「斉」と謂ひ、令有れども聴従せざる之を「勇」と謂ひ、上に利無き之を「愿」と謂ひ、少欲・寛恵・行徳之を「仁」と謂ひ、重厚自尊之を「長者」と謂ひ、私学群を成す之を「師徒」と謂ひ、閑静安居之を「有思」と謂ひ、仁を損ひ利を逐ふ之を「疾」と謂ひ、険躁佻反覆する之を「智」と謂ひ、先づ人の為にして後に自ら為し、名号を類し、言ひて天下を汎愛する之を「聖」と謂ひ、大本を言ひ、称して用ふべからず、行ひて世に乖く者之を「大人」と謂ひ、爵禄を賤しみ、上に撓まざる者之を「傑」と謂ふ。下漸く行ふこと此くの如くんば、入りては則ち民を乱し、出でては則ち便ならざるなり。上宜しく其の欲を禁じ、其の迹を滅すべし、而るに止めず、又従ひて之を尊ぶ、是れ下に上を乱すを教へて以て治を為すなり。凡そ上の治むる所以の者は、刑罰なり。今私に義を行ふ者有りて尊ばる。社稷の立つ所以の者は、安静なり。而るに躁険讒諛なる者任ぜらる。
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『韓非子』詭使第四十五上度量を握るは、生殺の柄を擅にする所以なり、今度を守り量を奉ずるの士、忠を以て上に嬰れんと欲して見ゆるを得ず、而して巧言利辞にして姦軌を行ひ以て世に倖偸する者は数々御せらる。法に拠りて直言し、名刑相当たり、縄墨に循ひ、姦人を誅するは、上の為に治むる所以なり、而るに愈々疏遠にして、諂施順意従欲して以て世を危ふくする者は近習す。租税を悉くし、民力を専らにするは、難に備へ倉府を充たす所以なり、而るに士卒の事を逃れて伏匿し、有威の門に附託して以て傜賦を避けて上の得ざる者は万を数ふ。夫れ善田利宅を陳ぬるは、士卒を戦はしむる所以なり、而るに頭を断ち腹を裂き、骨を平原野に播く者は、宅の身を容るる無く、身死して田奪はれ、而して女妹色有り、大臣左右の功無き者は、宅を択びて受け、田を択びて食む。賞利一に上より出づるは、善く下を制する所以なり、而るに戦介の士は職を得ず、而して間居の士は尊顕なり。上此れを以て教へと為せば、名安んぞ卑しき無きを得ん、位安んぞ危ふき無きを得ん。夫れ名を卑しくし位を危ふくする者は、必ず下の法令に従はず、二心有りて私学を務め世に反逆する者なり、而るに其の行を禁ぜず、其の群を破りて以て其の党を散ぜず、又従ひて之を尊ぶは、事を用ふる者の過ちなり。上の廉恥を立つる所以の者は、下を厲ます所以なり、今士大夫は汚泥醜辱を羞ぢずして宦へ、女妹私義の門は次を待たずして宦ふ。賞賜は、重と為す所以なり、而るに戦闘有功の士は貧賤にして、便辟優徒は級を超ゆ。名号誠信は、威を通ずる所以なり、而るに主揜障せられ、近習女謁並び行はれ、百官の主爵人を遷す、事を用ふる者の過ちなり。大臣官人、下と先づ謀りて比周し、法に行はずと雖も、威利下に在れば、則ち主卑しくして大臣重し。夫れ法令を立つる者は、
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『韓非子』詭使第四十五四封の内の聴従する所以の者は、信と徳となり、而るに陂知傾覆する者使はる。令の行はるる所以、威の立つ所以の者は、恭倹にして上に聴くなり、而るに巌居して世を非る者顕はる。倉廪の実つる所以の者は、耕農の本務なり、而るに綦組・錦繍・刻画の末作を為す者富む。名の成る所以、城池の広まる所以の者は、戦士なり、今死士の孤は飢餓して道に乞ひ、而して優笑酒徒の属は車に乗り絲を衣る。賞禄は、
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『韓非子』八經第四十八民制を以て上を畏るるに、上勢を以て下に卑し、故に下肆很觸して君を輕んずるの俗を榮とす、則ち主威分かる。民法を以て上を犯すを難しとするに、上法を以て慈仁に撓む、故に下愛施を明らかにして賕納の政を務む、是を以て法令隳る。私行を尊びて以て主威を貳にし、賕納を行ひて以て法を疑はしむ、之を聽けば則ち治を亂し、聽かざれば則ち主を謗る、故に君位に輕く法官に亂る、此れを之れ無常の國と謂ふ。明主の道は、臣行義を以て榮を成すを得ず、家利を以て功と爲すを得ず。功名の生ずる所は、必ず官法に出づ。法の外なる所は、難行有りと雖も、以て顯はさず、故に民以て名を私する無し。法度を設けて以て民を齊しくし、賞罰を信にして以て民能を盡くし、誹譽を明らかにして以て勸沮す。名號・賞罰・法令の三隅なり。故に大臣行有れば則ち君を尊び、百姓功有れば則ち上を利す、此れを之れ有道の國と謂ふなり。
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『韓非子』詭使第四十五私なる者は、法を乱す所以なり。而るに士に二心私学有り、巌居窞路、託伏深慮し、大なる者は世を非り、細なる者は下を惑はす、上禁ぜず、又従ひて之を尊ぶに名を以てし、之を化するに実を以てす、是れ功無くして顕はれ、労無くして富むなり。此くの如くんば、則ち士の二心私学有る者、焉んぞ深く慮り、知詐と法令を誹謗するとに勉めて、以て世と相反する者を求索すること無きを得んや。凡そ上を乱し世に反する者は、常に士の二心私学有る者なり。故に本言に曰く、「治むる所以の者は、法なり。乱るる所以の者は、私なり。法立てば、則ち私を為すを得る莫し。」故に曰く、私に道る者は乱れ、法に道る者は治まる。上其の道無ければ、則ち智者に私詞有り、賢者に私意有り。上に私恵有れば、下に私欲有り、聖智群を成し、言を造り辞を作り、非法を以て上に措く。上禁塞せず、又従ひて之を尊ぶ、是れ下に上に聴かず法に従はざるを教ふるなり。是を以て賢者は名を顕して居り、姦人は賞に頼りて富む。賢者名を顕して居り、姦人賞に頼りて富む、是を以て上下に勝たざるなり。