韓非子 / 外儲說左上第三十二
信名,則羣臣守職,善惡不踰,百事不怠;信事,則不失天時,百姓不踰;信義,則近親觀勉而遠者歸之矣。」吳起出,遇故人而止之食。故人曰:「諾,今返而御。」吳子曰:「待公而食。」故人至暮不來,起不食待之。明日早,令人求故人。故人來,方與之食。魏文侯與虞人期獵。明日,會天疾風,左右止文侯,不聽,曰:「不可以風疾之故而失信,吾不爲也。」遂自驅車往,犯風而罷虞人。曾子之妻之市,其子隨之而泣。其母曰:「女還,顧反爲女殺彘。」適市來,曾子欲捕彘殺之。妻止之曰:「特與嬰兒戲耳。」
新字:信名,則羣臣守職,善悪不踰,百事不怠;信事,則不失天時,百姓不踰;信義,則近親観勉而遠者帰之矣。」呉起出,遇故人而止之食。故人曰:「諾,今返而御。」呉子曰:「待公而食。」故人至暮不来,起不食待之。明日早,令人求故人。故人来,方与之食。魏文侯与虞人期猟。明日,会天疾風,左右止文侯,不聴,曰:「不可以風疾之故而失信,吾不為也。」遂自駆車往,犯風而罷虞人。曽子之妻之市,其子随之而泣。其母曰:「女還,顧反為女殺彘。」適市来,曽子欲捕彘殺之。妻止之曰:「特与嬰児戯耳。」
書き下し
名に信なれば、則ち群臣職を守り、善悪踰えず、百事怠らず。事に信なれば、則ち天の時を失はず、百姓踰えず。義に信なれば、則ち近親勧勉して遠き者之に帰す。」呉起出でて、故人に遇ひて之を止めて食せしむ。故人曰く、「諾、今返りて御せん。」呉子曰く、「公を待ちて食せん。」故人暮に至るも来らず、起食せずして之を待つ。明日早く、人をして故人を求めしむ。故人来り、方に之と食す。魏の文侯虞人と猟を期す。明日、会ま天疾風す、左右文侯を止む、聴かず、曰く、「風疾きの故を以て信を失ふべからず、吾為さざるなり。」遂に自ら車を駆りて往き、風を犯して虞人を罷む。曾子の妻市に之く、其の子之に随ひて泣く。其の母曰く、「女還れ、顧反して女の為に彘を殺さん。」適ま市より来る、曾子彘を捕へて之を殺さんと欲す。妻之を止めて曰く、「特だ嬰児と戯るるのみ。」
現代語訳
名目に信があれば、群臣は職分を守り、善悪の区別が乱れず、あらゆる仕事が怠られません。事業に信があれば、天の時(農事の季節)を失わず、民は分を越えません。道義に信があれば、身近な者は励み努め、遠くの者も慕って集まってきます。」呉起が外出して旧友に出会い、引き止めて食事に誘った。旧友は「わかった。今ちょっと戻ってから行こう」と言った。呉起は「あなたを待って食事をしよう」と言った。旧友は日暮れになっても来なかったが、呉起は食事をせずに待ち続けた。翌朝早く、人をやって旧友を探させ、旧友が来てはじめて一緒に食事をした。魏の文侯は山林の役人(虞人)と狩りの約束をしていた。翌日、ちょうど激しい風が吹いた。側近は文侯を止めたが、文侯は聞き入れずに言った。「風が強いからといって約束を破るわけにはいかない。私はそんなことはしない。」そして自ら車を駆って出かけ、風を冒して虞人に会い、狩りの中止を告げた。曾子の妻が市場に行こうとすると、子どもが後をついてきて泣いた。母は言った。「お前は家に帰っていなさい。戻ったらお前のために豚をつぶしてあげるから。」妻が市場から帰ってくると、曾子が豚を捕まえて殺そうとしていた。妻は止めて言った。「子どもをあやすための冗談を言っただけです。」
解説
関連する章句
-
『韓非子』外儲說左上第三十二賞罰信ならざれば則ち禁令行はれず、説は文公の原を攻むると箕鄭の餓を救ふとに在り。是を以て呉起故人を須ちて食し、文侯虞人に会して猟す。故に明主信を表すこと、曾子の彘を殺すが如きなり。患は厲王の警鼓を撃つと李悝の両和を謾くとに在り。一。宓子賤単父を治む。有若之を見て曰く、「子何ぞ臞せたるや。」宓子曰く、「君賤の不肖を知らず、単父を治めしむ、官事急にして、心之を憂ふ、故に臞せたり。」有若曰く、「昔者舜五絃を鼓し、南風の詩を歌ひて天下治まる。今単父の細を以て、之を治めて憂ふ、天下を治むるは将に奈何せんとするや。故に術有りて之を御すれば、身廟堂の上に坐し、処女子の色有るも、治に害無し。術無くして之を御すれば、身瘁臞すと雖も、猶ほ未だ益有らず。楚王田鳩に謂ひて曰く、「墨子は、顕学なり。其の身体は則ち可なり、其の言多くして弁ならざるは、何ぞや。」曰く、「昔秦伯其の女を晋の公子に嫁がしむ、晋をして之が為に装を飾らしめ、文衣の媵七十人を従へしむ。晋に至る、晋人其の妾を愛して公女を賤しむ。此れ善く妾を嫁がしむと謂ふべくして、未だ善く女を嫁がしむと謂ふべからざるなり。
-
『韓非子』外儲說左上第三十二曾子曰く、「嬰兒は(「に」の字削る)戲るべきに非ざるなり。...今子之を欺かば、是れ子に欺くを教うるなり。母子を欺き、子にして其の母を信ぜざるは、教えを成す所以に非ざるなり。」遂に彘を烹る。
-
『韓非子』外儲說左上第三十二孔子曰く、「人君為る者は猶ほ盂のごときなり、民は猶ほ水のごときなり。盂方なれば水方に、盂圜なれば水圜なり。」鄒君長纓を服することを好み、左右皆長纓を服す、纓甚だ貴し。鄒君之を患ひ、左右に問ふ、左右曰く、「君服することを好めば、百姓亦多く服す、是を以て貴し。」君因りて先づ自ら其の纓を断ちて出づ、国中皆長纓を服せず。君下令して百姓の為に服度を為して以て之を禁ずること能はず、纓を断ちて出でて以て民に先んじて示す、是れ先づ戮して以て民に蒞むなり。叔向猟を賦す、功多き者は多きを受け、功少き者は少きを受く。韓の昭侯申子に謂ひて曰く、「法度甚だ行ひ易からざるなり。」申子曰く、「法は、功を見て賞を与へ、能に因りて官を受く。今君法度を設けて左右の請を聴く、此れ行ひ難き所以なり。」昭侯曰く、「吾今より以来法を行ふを知れり、寡人奚ぞ聴かん。」一日、申子其の従兄を官に仕へしめんことを請ふ。昭侯曰く、「子に学ぶ所に非ざるなり。子の謁を聴きて、子の道を敗らんか、亡た子の謁を用ひんか。」申子舎を辟けて罪を請ふ。六。晋の文公原を攻む、十日の糧を裹み、遂に大夫と十日を期す。原に至りて十日にして原下らず、金を撃ちて退き、兵を罷めて去る。士に原中より出づる者有り、曰く、「原三日にして即ち下らん。」群臣左右諫めて曰く、「夫れ原の食竭き力尽く、君姑く之を待て。」公曰く、「吾士と十日を期す、去らずんば、是れ吾が信を亡ふなり。原を得て信を失ふは、吾為さざるなり。」遂に兵を罷めて去る。原人聞きて曰く、「君の彼の如く其れ信なる有り、帰する無かるべけんや。」乃ち公に降る。衛人聞きて曰く、「君の彼の如く其れ信なる有り、従ふ無かるべけんや。」乃ち公に降る。孔子聞きて之を記して曰く、「原を攻めて衛を得たる者は、信なり。」文公箕鄭に問ひて曰く、「餓を救ふこと奈何。」対へて曰く、「信なり。」公曰く、「安んぞ信ならん。」曰く、「名に信に、事に信に、義に信なり。
-
『韓非子』說林下二十三已にして文侯の以て己を構するを知り、乃ち皆魏に朝す。斉、魯を伐ち、讒鼎を索む。魯其の鴈を以て往く。斉人曰く、「鴈なり」と。魯人曰く、「真なり」と。斉曰く、「楽正子春をして来らしめよ、吾将に子に聴かんとす」と。魯君、楽正子春に請ふ。楽正子春曰く、「胡ぞ其の真を以て往かざるや」と。君曰く、「我之を愛す」と。答へて曰く、「臣も亦臣の信を愛す」と。韓咎立ちて君と為るも、未だ定まらざるなり。弟周に在り、周之を重んぜんと欲して、韓咎の立たざるを恐るるなり。綦毋恢曰く、「車百乗を以て之を送るに若かず。立つを得ば、因りて戒めと為すと曰ひ、立たずんば、則ち来りて賊を效すと曰はん」と。靖郭君将に薛に城かんとす。客多く以て諫むる者あり。靖郭君、謁者に謂ひて曰く、「客の為に通ずる毋かれ」と。斉人に見えんことを請ふ者有りて曰く、「臣請ふ三言のみ。三言を過ぎば、臣請ふ烹られん」と。靖郭君因りて之に見ゆ。客趨り進みて曰く、「海大魚」と。因りて反り走る。靖郭君曰く、「請ふ其の説を聞かん」と。客曰く、「臣敢へて死を以て戯れを為さず」と。靖郭君曰く、「願はくは寡人の為に之を言へ」と。答へて曰く、「君、大魚を聞くか。網も止むること能はず、繳も絓くること能はざるなり。
-
『韓非子』外儲說左上第三十二故に人の事を行ひ施予するに、之を利するを以て心と為せば、則ち越人も和し易し。之を害するを以て心と為せば、則ち父子も離れて且つ怨む。文公宋を伐つ、乃ち先づ宣言して曰く、「吾聞く宋君無道にして、長老を蔑侮し、財を分つこと中らず、教令信ならずと、余来りて民の為に之を誅す。」越呉を伐つ、乃ち先づ宣言して曰く、「我聞く呉王如皇の台を築き、深池を掘り、百姓を罷苦せしめ、財貨を煎靡し、以て民力を尽くすと、余来りて民の為に之を誅す。」蔡女桓公の妻と為る、桓公之と舟に乗る、夫人舟を蕩かす、桓公大いに懼れ、之を禁ずるも止まず、怒りて之を出す。乃ち且に復た之を召さんとするに、因りて復た更に之を嫁がしむ。桓公大いに怒り、将に蔡を伐たんとす。仲父諫めて曰く、「夫れ寝席の戯れを以て、以て人の国を伐つに足らず、功業冀ふべからざるなり、請ふ此を以て稽と為すこと無かれ。」桓公聴かず。仲父曰く、「必ず已むを得ずんば、楚の菁茅天子に貢がざること三年なり、君兵を挙げて天子の為に楚を伐つに如かず。楚伏せば、因りて還りて蔡を襲ひ、曰へ、余天子の為に楚を伐つ、而るに蔡兵を以て聴従せず、と、遂に之を滅ぼせ。此れ名に義にして実に利あり、故に必ず天子の為に誅するの名有りて、讎に報ゆるの実有り。」呉起魏の将と為りて中山を攻む。軍人に疽を病む者有り、呉起跪きて自ら其の膿を吮ふ。傷者の母立ちどころに泣く、人問ひて曰く、「将軍若の子に於て是の如し、尚ほ何為れぞ泣く。」
-
『韓非子』內儲說上七術第三十吳起...乃ち一車の轅を北門の外に倚せて、之に令して曰く、「能く此れを南門の外に徙す者あらば、之に上田上宅を賜わん。」...之を徙す者有るに及んで、遂に之に賜うこと令の如し。