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学問のすゝめ / 十五編・事物を疑いて取捨を断ずること・信の世界に偽詐多く疑いの世界に真理多し

信の世界に偽詐多く、疑いの世界に真理多し。試みに見よ、世間の愚民、人の言を信じ、人の書を信じ、小説を信じ、風聞を信じ、神仏を信じ、卜筮を信じ、父母の大病に按摩の説を信じて草根木皮を用い、娘の縁談に家相見の指図を信じて良夫を失い、熱病に医師を招かずして念仏を申すは阿弥陀如来を信ずるがためなり。三七日の断食に落命するは不動明王を信ずるがゆえなり。この人民の仲間に行なわるる真理の多寡を問わば、これに答えて多しと言うべからず。真理少なければ偽詐多からざるを得ず。けだしこの人民は事物を信ずといえども、その信は偽を信ずる者なり。ゆえにいわく、「信の世界に偽詐多し」と。

書き下し

信の世界に偽詐多く、疑いの世界に真理多し。試みに見よ、世間の愚民、人の言を信じ、人の書を信じ、小説を信じ、風聞を信じ、神仏を信じ、卜筮を信じ、父母の大病に按摩の説を信じて草根木皮を用い、娘の縁談に家相見の指図を信じて良夫を失い、熱病に医師を招かずして念仏を申すは阿弥陀如来を信ずるがためなり。三七日の断食に落命するは不動明王を信ずるがゆえなり。この人民の仲間に行なわるる真理の多寡を問わば、これに答えて多しと言うべからず。真理少なければ偽詐多からざるを得ず。けだしこの人民は事物を信ずといえども、その信は偽を信ずる者なり。ゆえにいわく、「信の世界に偽詐多し」と。

現代語訳

信じる世界には偽りが多く、疑う世界には真理が多い。試しに見なさい。世間の愚かな民は、人の言葉を信じ、人の書を信じ、小説を信じ、風評を信じ、神仏を信じ、占いを信じ、父母の大病に按摩の説を信じて草の根や木の皮を用い、娘の縁談に家相見の指図を信じて良い夫を失い、熱病に医師を招かずに念仏を唱えるのは阿弥陀如来を信じるからです。三七日の断食で命を落とすのは不動明王を信じるからです。この人民の仲間で行われている真理の多寡を問えば、これに答えて多いとは言えません。真理が少なければ偽りが多くならざるを得ません。思うにこの人民は事物を信じるといっても、その信は偽りを信じる者です。ですから言います。信じる世界には偽りが多い、と。

解説

十五編が対句で始まります。信の世界に偽りが多く、疑いの世界に真理が多い。そして信じることの実害が列挙されます。按摩の説を信じて薬草を用い、家相見を信じて良縁を逃し、念仏に頼って医者を呼ばず、断食で命を落とす。どれも信じたからこそ起きた不幸です。信じる態度そのものが偽りを呼び込むという見立てで、疑うことの擁護が始まります。
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この章句が説くこと

信疑偽り迷信実害

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