韓非子 / 內儲說下六微第三十一
魏王臣二人不善濟陽君,濟陽君因僞令人矯王命而謀攻己。王使人問濟陽君曰:「誰與恨?」對曰:「無敢與恨。雖然,嘗與二人不善,不足以至於此。」王問左右,左右曰:「固然。」王因誅二人者。季辛與爰騫相怨。司馬喜新與季辛惡,因微令人殺爰騫,中山之君以爲季辛也,因誅之。
新字:魏王臣二人不善済陽君,済陽君因偽令人矯王命而謀攻己。王使人問済陽君曰:「誰与恨?」対曰:「無敢与恨。雖然,嘗与二人不善,不足以至於此。」王問左右,左右曰:「固然。」王因誅二人者。季辛与爰騫相怨。司馬喜新与季辛悪,因微令人殺爰騫,中山之君以為季辛也,因誅之。
書き下し
魏王の臣二人済陽君に善からず、済陽君因りて偽りて人をして王命を矯めて己を攻めんと謀らしむ。王人をして済陽君に問はしめて曰く、「誰と恨みあるか。」対へて曰く、「敢て与に恨むこと無し。然りと雖も、嘗て二人と善からず、以て此に至るに足らず。」王左右に問ふ、左右曰く、「固より然り。」王因りて二人の者を誅す。季辛と爰騫と相怨む。司馬喜新たに季辛と悪し、因りて微かに人をして爰騫を殺さしむ、中山の君以て季辛と為すや、因りて之を誅す。
現代語訳
魏王の二人の臣が済陽君と仲が悪かった。済陽君はそこで人に命じ、王の命令を偽って自分を攻める謀略があるかのように仕立てさせた。王が使いを出して済陽君に「誰と恨み合っているのか」と尋ねさせると、済陽君は答えた。「恨み合っている者などおりません。ただ、以前に二人の者と仲違いしたことはありますが、ここまでのことをするほどではありません。」王が側近に尋ねると、側近は「確かにそうです(その二人と仲が悪い)」と言った。王はそこでその二人を誅殺した。中山の季辛と爰騫は互いに恨み合っていた。司馬喜は最近季辛と仲が悪くなったので、ひそかに人をやって爰騫を殺させた。中山の君は季辛の仕業だと思い、季辛を誅殺した。
解説
経三「似類」、つまり紛らわしい状況を作って他人を陥れる手口の説話です。済陽君は自分が狙われたように見せかけ、「仲の悪い二人がいる」と匂わせるだけで、王に政敵を始末させました。司馬喜は、季辛と恨み合っていた爰騫を殺せば、疑いは当然季辛に向かうと読んでいました。どちらも君主は「いかにもありそうな話」に乗せられ、確かめないまま罰しています。韓非は、動機がありそうな者を犯人と決めつけるのは、真犯人に利用される入り口だと警告します。社内の対立を知っている人物が、その対立を隠れみのにして動くことはよくあります。もっともらしい筋書きほど、証拠を確かめる必要があるのです。
関連する章句
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一左右に私かに善からざる者有り、乃ち之が為に王に請ひて曰く、「公子甚だ貧しく、馬甚だ痩す、王何ぞ之に馬食を益さざる。」王許さず。左右因りて微かに夜芻廐を焼かしむ。王以て賤公子と為すや、乃ち之を誅す。魏に老儒有りて済陽君に善からず。客に老儒と私怨有る者有り、因りて老儒を攻めて之を殺し、以て済陽君に徳として曰く、「臣其の君に善からざるが為なり、故に君の為に之を殺せり。」済陽君因りて察せずして之を賞す。一に曰く、済陽君に少庶子有り、知られずして君に愛を入れんと欲する者有り。斉老儒をして薬を馬梨の山に掘らしむ、済陽の少庶子以て功と為さんと欲し、入りて君に見えて曰く、「斉老儒をして薬を馬梨の山に掘らしむ、名は薬を掘るなるも、実は君の国を間するなり。君之を殺さずんば、是れ将に済陽君を以て罪を斉に抵さんとす。臣請ふ之を刺さん。」君曰く、「可なり。」是に於て明日之を城陰に得て之を刺す、済陽君還りて益ます之を親しむ。四。陳需は、魏王の臣なり、荊王に善し、而して荊をして魏を攻めしむ。荊魏を攻む、陳需因りて魏王の為に行きて之を解かんことを請ひ、因りて荊の勢を以て魏に相たり。韓の昭侯の時、黍種嘗て貴きこと甚し。昭侯人をして廩を覆さしむ、吏果して黍種を竊みて之を糶ること甚だ多し。昭奚恤の荊に用ひらるるや、倉廥窌を焼く者有りて其の人を知らず。昭奚恤吏をして茅を販ぐ者を執へて之を問はしむ、果して焼けり。昭僖侯の時、宰人食を上るに羹中に生肝有り、昭侯宰人の次を召して之を誚めて曰く、「若何為れぞ生肝を寡人の羹中に置く。」宰人頓首して死罪に服して曰く、「竊かに尚宰人を去らんと欲するなり。」一に曰く、僖侯浴す、湯中に礫有り。僖侯曰く、「尚浴免ぜらるれば、則ち当に代るべき者有るか。」左右対へて曰く、「有り。」僖侯曰く、「召して来れ。」之を譙めて曰く、「何為れぞ礫を湯中に置く。」対へて曰く、「尚浴免ぜらるれば、則ち臣之に代るを得ん、是を以て礫を湯中に置く。」
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一門者刖跪...因て水を郎門の雷下に捐てて、溺せる者の狀に類す。明日、王出でて之を訶して曰く、「誰か是に溺せる。」刖跪對えて曰く、「...然りと雖も、昨日中大夫夷射此に立てり。」王因て夷射を誅して之を殺せり。
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一大夫何ぞ呉を釈きて越を患へしめざる。」大夫種書を受けて之を読み、太息して歎じて曰く、「之を殺せ、越と呉と命を同じくす。」大成牛趙より申不害に韓に謂ひて曰く、「韓を以て我を趙に重くせよ、請ふ趙を以て子を韓に重くせん、是れ子に両韓有り、我に両趙有るなり。」司馬喜は、中山君の臣なり、而して趙に善し、嘗て中山の謀を以て微かに趙王に告ぐ。呂倉は、魏王の臣なり、而して秦・荊に善し。微かに秦・荊に諷して之をして魏を攻めしめ、因りて行きて和せんことを請ひて以て自ら重くす。宋石は、魏の将なり。衛君は、荊の将なり。両国難を搆へ、二子皆将たり。宋石衛君に書を遺りて曰く、「二軍相当り、両旗相望む、唯だ一戦すること毋かれ、戦へば必ず両存せず。此れ乃ち両主の事なり、子と私怨有ること無し、善き者は相避くるなり。」白圭魏に相たり、暴譴韓に相たり。白圭暴譴に謂ひて曰く、「子韓を以て我を魏に輔けよ、我魏を以て子を韓に待たん、臣長く魏に用ひられ、子長く韓に用ひられん。」三。斉の中大夫に夷射なる者有り、王に御飲し、酔ふこと甚しくして出で、郎門に倚る。門者の刖跪請ひて曰く、「足下之に余瀝を賜ふに意無きか。」夷射叱して曰く、「去れ。刑余の人、何事ぞ乃ち敢て長者に飲を乞ふ。」刖跪走り退く。
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一其の説は老聃の魚を失ふを言ふに在り。是を以て人主久しく語りて、左右懐刷を鬻ぐ。其の患は胥僮の厲公を諫むると、州侯の一言と、燕人の矢に浴するとに在り。権借一。君臣の利異なる、故に人臣忠なる莫し、故に臣の利立ちて主の利滅ぶ。是を以て姦臣は、敵兵を召きて以て内除し、外事を挙げて以て主を眩まし、苟も其の私利を成さば、国の患を顧みず。其の説は衛人の妻夫の禱祝に在り。故に戴歇子弟を議して、三桓昭公を攻む。公叔斉軍を内れて、翟黄韓兵を召く。太宰嚭大夫種に説き、大成牛申不害に教ふ。司馬喜趙王に告げ、呂倉秦・楚を規る。宋石衛君に書を遣り、白圭暴譴に教ふ。利異二。似類の事は、人主の誅を失ふ所以にして、大臣の私を成す所以なり。是を以て門人水を捐てて夷射誅せられ、済陽自ら矯めて二人罪せられ、司馬喜爰騫を殺して季辛誅せられ、鄭袖悪臭を言ひて新人劓られ、費無忌郄宛に教へて令尹誅し、陳需張寿を殺して犀首走る。故に芻廥を焼きて中山罪し、老儒を殺して済陽賞す。似類三。事起りて利する所有れば、其の尸之を主る。害する所有れば、必ず反して之を察す。是を以て明主の論や、国害あれば則ち其の利する者を省み、臣害あれば則ち其の反する者を察す。其の説は楚兵至りて陳需相たり、黍種貴くして廩吏覆さるるに在り。是を以て昭奚恤販茅を執へて、僖侯其の次を譙む。文公髪炙に繞りて、穣侯帝を立てんことを請ふ。有反四。参疑の勢は、乱の由りて生ずる所なり、故に明主之を慎む。
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一王と鄭袖・美女三人坐するに及び、袖因りて先づ御者を誡めて曰く、「王適ま言有らば、必ず亟やかに王の言を聴従せよ。」美女前みて王に近づくこと甚しく、数しば口を掩ふ。王悖然として怒りて曰く、「之を劓れ。」御因りて刀を揄きて美人を劓る。一に曰く、魏王荊王に美人を遺る、荊王甚だ之を悦ぶ。夫人鄭袖王の之を悦愛するを知るや、亦之を悦愛すること、王より甚し。衣服玩好、其の欲する所を択びて之を為す。王曰く、「夫人我の新人を愛するを知るや、其の之を悦愛すること寡人より甚し、此れ孝子の親を養ふ所以、忠臣の君に事ふる所以なり。」夫人王の己を以て妬と為さざるを知るや、因りて新人に為りて曰く、「王甚だ子を悦愛す、然れども子の鼻を悪む。子王に見えば、常に鼻を掩へ、則ち王長く子を幸せん。」是に於て新人之に従ひ、王に見ゆる毎に、常に鼻を掩ふ。王夫人に謂ひて曰く、「新人寡人に見えて常に鼻を掩ふは、何ぞや。」対へて曰く、「知らざるなり。」王強ひて之を問ふ、対へて曰く、「頃ろ嘗て王の臭を聞くを悪むと言へり。」王怒りて曰く、「之を劓れ。」夫人先づ御者を誡めて曰く、「王適ま言有らば、必ず命に従ふべし。」御者因りて刀を揄きて美人を劓る。費無極は、荊の令尹の近き者なり。郄宛新たに令尹に事ふ、令尹甚だ之を愛す。無極因りて令尹に謂ひて曰く、「君宛を愛すること甚し、何ぞ一たび其の家に酒を為さざる。」令尹曰く、「善し。」因りて之をして具を郄宛の家に為さしむ。無極宛に教へて曰く、「令尹甚だ傲りて兵を好む、子必ず謹敬し、先づ亟やかに兵を堂下及び門庭に陳ねよ。」宛因りて之を為す。令尹往きて大いに驚きて曰く、「此れ何ぞや。」無極曰く、「君殆し、之を去れ。事未だ知るべからざるなり。」令尹大いに怒り、兵を挙げて郄宛を誅し、遂に之を殺す。犀首と張寿と怨みを為す、陳需新たに入り、犀首に善からず、因りて人をして微かに張寿を殺さしむ。魏王以て犀首と為すや、乃ち之を誅す。中山に賤公子有り、馬甚だ痩せ、車甚だ弊る。
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一荊王の愛する所の妾に鄭袖という者有り。...王甚だ人の口を掩うを喜ぶなり。...鄭袖曰く、「此れ固より王の臭を惡むを言う。」...王悻然として怒りて曰く、「之を劓れ。」