韓非子 / 大體第二十九
古之全大體者:望天地,觀江海,因山谷,日月所照,四時所行,雲布風動;
新字:古之全大体者:望天地,観江海,因山谷,日月所照,四時所行,雲布風動;
書き下し
古の大体を全くする者は、天地を望み、江海を観、山谷に因り、日月の照らす所、四時の行く所、雲布き風動くがごとし。
現代語訳
昔、大いなる全体(大体)を保ち全うした者は、天地を望み見、大河や海を観察し、山や谷の地勢に従い、日月が照らし、四季がめぐり、雲が広がり風が動くように(自然のままに治めた)。
解説
大体篇は、韓非の中でもとくに道家の色合いが濃い篇です。「大体」とは、国を治める大いなる全体、根本の道理のことです。冒頭で韓非は、天地・江海・山谷・日月・四時・雲や風という自然の働きを並べ、古の君主はこれらを手本にして治めたと述べます。自然は好き嫌いで動かず、決まった理に従って万物を育てます。君主もそのように、私的な感情ではなく道と法に従って治めよ、というのがこの篇の趣旨で、次の単位で「禍福は道法より生じて愛悪より出でず」と展開されます。組織の運営も、トップの気分ではなく、季節がめぐるように予測できる規則で動いていれば、人々は安心して力を尽くせます。
関連する章句
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『韓非子』大體第二十九故に大人は形を天地に寄せて万物備はり、心を山海に歴て国家富む。上に忿怒の毒無く、下に伏怨の患ひ無く、上下交々樸にして、道を以て舎と為す。故に長利積み、大功立ち、名前に成り、徳後に垂る、治の至りなり。
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『韓非子』大體第二十九成理を守り、自然に因る。禍福は道法に生じて、愛悪より出でず。栄辱の責は己に在りて、人に在らず。故に至安の世は、法は朝露の如く、純樸散ぜず、心に怨みを結ぶ無く、口に煩言無し。故に車馬は遠路に疲弊せず、旌旗は大沢に乱れず、万民は命を寇戎に失はず、雄駿は寿を旗幢に創らず、豪傑は名を図書に著さず、功を盤盂に録さず、記年の牒空虚なり。故に曰く、利は簡より長きは莫く、福は安より久しきは莫し。匠石をして千歳の寿を以て鈎を操り、規矩を視、縄墨を挙げて、太山を正さしめ、賁・育をして干将を帯びて万民を斉へしめば、巧を尽くし、寿を極むと雖も、太山正されず、民斉ふること能はず。故に曰く、古の天下を牧する者は、匠石をして巧を極めて以て太山の体を敗らしめず、賁・育をして威を尽くして以て万民の性を傷らしめず。道に因りて法を全くし、君子楽しみて大姦止む。澹然として間静、天命に因り、大体を持す。故に人をして法を離るるの罪無く、魚をして水を失ふの禍ひ無からしむ。
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『管子』版法解凡そ人君なる者は、萬民を覆載して之を兼ね有ち、萬族を燭臨して之を事使す。是の故に天地日月四時を以て主と為し質と為して以て天下を治む。天は覆いて外無きなり、其の德在らざる所無し。地は載せて弃つる無きなり、安固にして動かず、故に生殖せざるは莫し。聖人之に法り、以て萬民を覆載す、故に其の職姓を得ざるは莫し。其の職姓を得れば、則ち用を為さざるは莫し。故に曰く、「天に法りて德を合わせ、地に象りて親しむ無し」と。日月の明は私無し、故に光を得ざるは莫し。聖人之に法り、以て萬民を燭らす、故に能く審察すれば、則ち遺善無く、隱姦無し。遺善無く隱姦無ければ、則ち刑賞信必なり。刑賞信必なれば、則ち善勸められて姦止む。故に曰く、「日月に㕘す」と。四時の行は、信必にして著明なり。聖人之に法り、以て萬民に事う、故に時功を失わず。故に曰く、「四時に伍す」と。
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『淮南子』兵略訓古の道を得たる者は、靜にして天地に法り、動きて日月に順い、喜怒して四時に合し、叫呼して雷霆に比し、音氣 八風に戾らず、詘伸 五度を獲ず。下は介鱗に至り、上は毛羽に及ぶまで、條 修まり葉 貫き、萬物百族、本より末に至るまで、序有らざる莫し。是の故に小に入りて逼らず、大に處りて窕ならず。金石に浸り、草木を潤し、宇中六合、豪の末を振るうまで、順比せざる莫し。道の浸洽するや、滒淖纖微、在らざる所無し。是を以て勝權 多きなり。
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『淮南子』原道訓夫れ峭法刻誅なる者は、霸王の業に非ざるなり。箠策繁く用うる者は、遠きを致すの術に非ざるなり。離朱の明は、箴末を百歩の外に察するも、淵中の魚を見る能わず。師曠の聰は、八風の調を合するも、十里の外を聽く能わず。故に一人の能に任ずるは、三畝の宅を治むるに足らざるなり。道理の數を脩め、天地の自然に因らば、則ち六合も均するに足らず。是の故に禹の瀆を決するや、水に因りて以て師と為し、神農の穀を播くや、苗に因りて以て教えと為す。夫れ萍は根を水に樹て、木は根を土に樹て、鳥は虛を排して飛び、獸は實を蹠みて走り、蛟龍は水に居り、虎豹は山に處るは、天地の性なり。兩木相い摩して然え、金火相い守りて流れ、員なる者は常に轉じ、窾なる者は浮くを主るは、自然の勢なり。是の故に春風至れば則ち甘雨降り、萬物を生育し、羽ある者は嫗伏し、毛ある者は孕育し、草木榮華し、鳥獸卵胎するも、其の為す者を見る莫くして、功既に成る。秋風霜を下せば、倒生挫傷し、鷹鵰搏鷙し、昆蟲蟄藏し、草木根に註ぎ、魚鱉淵に湊るも、其の為す者を見る莫くして、滅して形無し。木に處る者は榛巢し、水に居る者は窟穴し、禽獸に芄有り、人民に室有り、陸處は牛馬に宜しく、舟行は水多きに宜しく、匈奴は穢裘を出だし、於越は葛絺を生ず。各ミ急とする所を生じて以て燥溼に備え、各ミ處る所に因りて以て寒暑を禦ぎ、並びに其の宜しきを得て、物は其の所に便なり。此に由りて之を觀れば、萬物は固より以て自然なり、聖人又た何をか事とせんや。
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『呻吟語』外篇・治道・大體を立てざる故なり政に從ふに自ら個の大體有り。大體既に立たば、則ち小節は抵牾すと雖も、當に別に張弛を作して、以て吾が大體の未だ備はらざる所を輔くべし。便ち弦を改め轍を易ふ可からず。譬へば民を待つに恩有るを貴ぶは、此れ大體なり。即ひ頑暴にして化せざる者有らば、之を重刑するも、民を待つの大體は變ぜず。士を待つに禮有るは、此れ大體なり。即ひ淫肆にして檢せざる者有らば、之を嚴治するも、士を待つの大體は變ぜず。彼の始めの寬なるは、既に士民の惡を養ひ、終はりの猛なるは、概ね士民の善に及ぶ。政に非ざるなり、大體を立てざる故なり。