韓非子 / 喻老第二十一
今日晉滅虢,明日虞必隨之亡。」虞君不聽,受其璧而假之道。晉已取虢,還,反滅虞。此二臣者皆争於腠理者也,而二君不用也。然則叔瞻、宫之奇亦虞、鄭之扁鵲也,而二君不聽,故鄭以破、虞以亡。故曰:「其安易持也,其未兆易謀也。」昔者紂爲象箸而箕子怖,以爲象箸必不加於土鉶,必將犀玉之杯;象箸玉杯必不羮菽藿,必旄、象、豹胎;旄、象、豹胎必不衣短褐而食於茅屋之下,則錦衣九重,廣室高臺。吾畏其卒,故怖其始。居五年,紂爲肉圃,設炮烙,登糟丘,臨酒池,紂遂以亡。故箕子見象箸以知天下之禍,故曰:
新字:今日晋滅虢,明日虞必随之亡。」虞君不聴,受其璧而仮之道。晋已取虢,還,反滅虞。此二臣者皆争於腠理者也,而二君不用也。然則叔瞻、宮之奇亦虞、鄭之扁鵲也,而二君不聴,故鄭以破、虞以亡。故曰:「其安易持也,其未兆易謀也。」昔者紂為象箸而箕子怖,以為象箸必不加於土鉶,必将犀玉之杯;象箸玉杯必不羹菽藿,必旄、象、豹胎;旄、象、豹胎必不衣短褐而食於茅屋之下,則錦衣九重,広室高台。吾畏其卒,故怖其始。居五年,紂為肉圃,設炮烙,登糟丘,臨酒池,紂遂以亡。故箕子見象箸以知天下之禍,故曰:
書き下し
今日晋、虢を滅ぼさば、明日虞必ず之に随ひて亡びん」と。虞君聴かず、其の璧を受けて之に道を仮す。晋已に虢を取り、還りて反りて虞を滅ぼす。此の二臣は皆腠理に争ふ者なり、而るに二君用ゐざるなり。然らば則ち叔瞻・宮之奇も亦虞・鄭の扁鵲なり、而るに二君聴かず、故に鄭は以て破れ、虞は以て亡ぶ。故に曰く、「其の安きは持し易く、其の未だ兆さざるは謀り易し」と。昔者、紂、象箸を為りて箕子怖る。以為へらく、象箸は必ず土鉶に加へず、必ず将に犀玉の杯ならんとす。象箸玉杯は必ず菽藿を羹にせず、必ず旄・象・豹胎ならん。旄・象・豹胎は必ず短褐を衣て茅屋の下に食はず、則ち錦衣九重、広室高台ならん。吾其の卒を畏る、故に其の始めを怖る、と。居ること五年、紂、肉圃を為り、炮烙を設け、糟丘に登り、酒池に臨み、紂遂に以て亡ぶ。故に箕子は象箸を見て以て天下の禍を知る。故に曰く、
現代語訳
今日、晋が虢を滅ぼせば、明日には虞も必ずその後を追って滅びましょう」。虞の君は聞き入れず、宝玉を受け取って道を貸した。晋は虢を取ると、帰り道で引き返して虞を滅ぼした。この(叔瞻と宮之奇の)二人の臣は、どちらも「皮膚のきめ」の段階で争った者であるが、二人の君主は用いなかった。してみれば、叔瞻と宮之奇もまた、鄭と虞にとっての扁鵲であった。しかし二人の君主が聞き入れなかったために、鄭は敗れ、虞は滅んだのである。だから(老子は)「安定しているうちは保ちやすく、兆しが現れないうちは手を打ちやすい」と言うのである。昔、殷の紂王が象牙の箸を作らせると、(叔父の)箕子は恐れた。こう考えたのである。象牙の箸なら、土の器には添えまい。きっと犀の角や玉の杯を使うだろう。象牙の箸と玉の杯なら、豆や豆の葉の汁物はよそうまい。きっと旄牛や象や豹の胎児の肉を盛るだろう。そんな美食なら、粗末な衣を着て茅ぶきの家で食べはすまい。きっと錦の衣を幾重にも着て、広い宮殿と高い楼台で食べるだろう。わたしはその行き着く先が恐ろしい、だからその始まりを恐れるのだ、と。五年たつと、紂は肉を林のように吊るし、炮烙の刑を設け、酒かすの丘に登り、酒の池を見下ろすようになり、ついにそのために滅んだ。だから箕子は象牙の箸を見て天下の禍を察したのである。だから(老子は)言う、(「小を見るを明と曰ふ」と)。
解説
関連する章句
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『斉家論』上殷の紂王、始めて象の箸を為る時、箕子慨歎して、彼象の箸を為り玉はば、必ず玉の杯を為るべし。玉の杯を為らば、必ず遠方珍怪の物を思うてこれを用ひ、輿馬宮室の漸、此れより始まり、振ふべからずといへり。君子の眼違はずして、遂に振はずして亡びたり。天下の主として、象の箸はわづかなれど、高山も微塵よりなるごとく、終には民を暴虐し、殷の天下を亡ぼすに至る。高下ありといへども、家を興し家を亡ぼす理は一なり。奢りは日に長じ安し、恐れ慎むべき事なり。子曰く、礼は其の奢らんよりは寧ろ倹せよと。又約を以て、是を失する者はすくなしと。聖人の意味は、深長にして格別の事なり。しかれども先づ倹約に思ひ付かるることこそ殊勝なれ。
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『韓非子』喻老第二十一小を見るを明と謂う。
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『韓非子』喻老第二十一是を以て物を制せんと欲する者は其の細に於てす。故に曰く、「難きを其の易きに図り、大を其の細に為す」と。千丈の堤も、螻蟻の穴を以て潰え、百尺の室も、突隙の煙を以て焚く。故に曰く、白圭の堤を行くや其の穴を塞ぎ、丈人の火を慎むや其の隙を塗る、是を以て白圭に水難無く、丈人に火患無し。此れ皆易きを慎みて以て難きを避け、細を敬みて以て大を遠ざくる者なり。扁鵲、蔡の桓公に見え、立つこと間有り。扁鵲曰く、「君に疾有り腠理に在り、治せずんば将に恐らくは深からんとす」と。桓侯曰く、「寡人は無し」と。扁鵲出づ。桓侯曰く、「医の好んで病まざるを治して以て功と為す」と。居ること十日、扁鵲復た見えて曰く、「君の病は肌膚に在り、治せずんば将に益々深からんとす」と。桓侯応ぜず。扁鵲出づ。桓侯又悦ばず。居ること十日、扁鵲復た見えて曰く、「君の病は腸胃に在り、治せずんば将に益々深からんとす」と。桓侯又応ぜず。扁鵲出づ。桓侯又悦ばず。居ること十日、扁鵲、桓侯を望みて還り走る。桓侯故に人をして之を問はしむ。扁鵲曰く、「疾の腠理に在るは、湯熨の及ぶ所なり。肌膚に在るは、鍼石の及ぶ所なり。腸胃に在るは、火斉の及ぶ所なり。骨髄に在るは、司命の属する所にして、奈何ともする無きなり。今骨髄に在り、臣是を以て請ふこと無きなり」と。居ること五日、桓侯体痛み、人をして扁鵲を索めしむるも、已に秦に逃れたり。桓侯遂に死す。故に良医の病を治するや、之を腠理に攻む。此れ皆之を小に争ふ者なり。夫れ事の禍福も亦腠理の地有り、故に聖人は蚤く事に従ふ。昔、晋の公子重耳出亡して、鄭に過る。鄭君礼せず。叔瞻諫めて曰く、「此れ賢公子なり。君厚く之を待たば、以て徳を積むべし」と。鄭君聴かず。叔瞻又諫めて曰く、「厚く之を待たずんば、之を殺すに若かず。後患有らしむること無かれ」と。鄭君又聴かず。公子の晋邦に返るに及び、兵を挙げて鄭を伐ち、大いに之を破り、八城を取る。晋の献公、垂棘の璧を以て道を虞に仮りて虢を伐つ。大夫宮之奇諫めて曰く、「不可なり。
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『韓非子』說林上二十二聖人は微を見て以て萌を知り、端をみて以て末を知る。故に象箸を見て怖るるは、天下も足らざるを知ればなり。
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『韓非子』說林上二十二曾従子は善く剣を相する者なり。衛君、呉王を怨む。曾従子曰く、「呉王は剣を好む、臣は剣を相する者なり。臣請ふ呉王の為に剣を相し、抜きて之に示し、因りて君の為に之を刺さん」と。衛君曰く、「子の是を為すや、義に縁るに非ざるなり、利の為なり。呉は強くして富み、衛は弱くして貧し。子必ず往かば、吾恐らくは子、呉王の為に之を我に用ひん」と。乃ち之を逐ふ。紂、象箸を為りて箕子怖る。以為へらく、象箸は必ず羹を土鉶に盛らず、則ち必ず犀王の杯ならん。玉杯象箸は必ず菽藿を盛らず、則ち必ず旄象豹胎ならん。旄象豹胎は必ず短褐を衣て茅茨の下に舎らず、則ち必ず錦衣九重、高台広室ならん、と。
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『塩鉄論』散不足篇古者、汙尊抔飲、蓋し爵觴樽俎無し。其の後に及び、庶人の器用は即ち竹柳陶匏のみ。唯だ瑚璉觴豆にして而る後に雕文彤漆す。今富者は銀口黃耳、金罍玉鐘なり。中なる者は野王の紵器、金錯の蜀杯なり。夫れ一文杯は銅杯十を得るも、賈は賤くして用は殊ならず。箕子の譏りは、始め天子に在り、今匹夫に在り。