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韓非子 / 飾邪第十九

財匱而民望,則民不盡力矣。故用賞過者失民,用刑過者民不畏。有賞不足以勸,有刑不足以禁,則國雖大,必危。故曰:小知不可使謀事,小忠不可使主法。荆恭王與晉厲公戰於鄢陵,荆師敗,恭王傷。酣戰,而司馬子反渴而求飲,其友竪穀陽奉巵酒而進之。子反曰:「去之,此酒也。」竪穀陽曰:「非也。」子反受而飲之。子反爲人嗜酒,甘之,不能絶之於口,醉而卧。恭王欲復戰而謀事,使人召子反,子反辭以心疾。恭王駕而往視之,入幄中,聞酒臭而還,曰:「今日之戰,寡人目親傷。所恃者司馬,司馬又如此,是亡荆國之社稷而不恤吾衆也。

新字:財匱而民望,則民不尽力矣。故用賞過者失民,用刑過者民不畏。有賞不足以勧,有刑不足以禁,則国雖大,必危。故曰:小知不可使謀事,小忠不可使主法。荆恭王与晋厲公戦於鄢陵,荆師敗,恭王傷。酣戦,而司馬子反渇而求飲,其友竪穀陽奉巵酒而進之。子反曰:「去之,此酒也。」竪穀陽曰:「非也。」子反受而飲之。子反為人嗜酒,甘之,不能絶之於口,酔而臥。恭王欲復戦而謀事,使人召子反,子反辞以心疾。恭王駕而往視之,入幄中,聞酒臭而還,曰:「今日之戦,寡人目親傷。所恃者司馬,司馬又如此,是亡荆国之社稷而不恤吾衆也。

書き下し

財匱しくして民望めば、則ち民力を尽くさず。故に賞を用ゐること過ぐる者は民を失ひ、刑を用ゐること過ぐる者は民畏れず。賞有るも以て勧むるに足らず、刑有るも以て禁ずるに足らざれば、則ち国大なりと雖も、必ず危し。故に曰く、小知は事を謀らしむべからず、小忠は法を主らしむべからずと。荊の恭王、晋の厲公と鄢陵に戦ひ、荊の師敗れ、恭王傷つく。酣戦して、司馬子反渇して飲を求む。其の友豎穀陽、巵酒を奉じて之に進む。子反曰く、「之を去れ、此れ酒なり」と。豎穀陽曰く、「非なり」と。子反受けて之を飲む。子反の人と為り酒を嗜み、之を甘しとして、之を口に絶つこと能はず、酔ひて臥す。恭王復た戦はんと欲して事を謀らんとし、人をして子反を召さしむ。子反辞するに心疾を以てす。恭王駕して往きて之を視、幄中に入り、酒の臭ひを聞きて還りて曰く、「今日の戦ひ、寡人目親ら傷つく。恃む所の者は司馬なり。司馬又此くの如し。是れ荊国の社稷を亡ぼして吾が衆を恤れまざるなり。

現代語訳

財が乏しくなっても民が賞を期待するようになれば、民は力を尽くさなくなる。だから賞を度を越して用いる者は民を失い、刑を度を越して用いる者は民に恐れられなくなる。賞があっても励ますに足りず、刑があっても禁じるに足りなければ、国は大きくても必ず危うい。だから、小さな知恵の者に事を謀らせてはならず、小さな忠義の者に法を司らせてはならない、と言うのである。荊(楚)の恭王が晋の厲公と鄢陵で戦ったとき、荊の軍は敗れ、恭王は負傷した。激しい戦いのさなか、司馬(軍の長官)の子反が喉が渇いて飲み物を求めた。その友人の豎穀陽が、杯の酒を捧げて差し出した。子反が「下げてくれ、これは酒だ」と言うと、豎穀陽は「違います」と言った。子反は受け取って飲んだ。子反は生まれつき酒好きで、うまいと思うと口から離すことができず、酔って寝てしまった。恭王はもう一度戦おうとして作戦を練ろうと、使いをやって子反を呼んだ。子反は胸の病だと言って断った。恭王が車で出向いて見舞い、幕舎の中に入ると、酒の臭いがしたので引き返して言った。「今日の戦いで、わしは自ら目に傷を負った。頼りにしているのは司馬だ。その司馬がこのありさまだ。これは荊の国家を滅ぼし、わが兵たちを顧みないということだ。

解説

「飾邪」篇で、賞罰の乱用を戒め、「小忠」の害を説話で示す一節です。賞を与えすぎれば民は賞に慣れて働かず、罰を与えすぎれば民は罰を恐れなくなる。そして韓非は、小さな知恵の者に計画を任せず、小さな忠義の者に法を任せるなと説きます。その例が、紀元前575年の鄢陵の戦いでの子反と豎穀陽の話です。豎穀陽は友人の渇きを思って酒を差し出しましたが、その小さな思いやりが、軍の長官を酔い潰し、楚の敗戦を決定づけました。この後、恭王は子反を処刑します。目の前の相手を喜ばせる小さな親切が、組織全体を損なうことがあるという教訓です。

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