海国兵談抄録 / 第一巻 水戦・怠るなの戒めと操練、文武学校の趣意
後世、必唐山韃靼の地より日本を侵掠する企を爲す者起るべし、怠る事なかれ、怠る事なかれ、是開闢より三千年の後、今日に至て、小子始て發言する所なり、竊に憶へば、此說話、小子が度に過たり、若くは鹽竈大神の詫宣にもある歟、初發より玆に至ては小子が千古獨見にして、日本武備の綱領斯に在と、竊に誇る所也、然と云ども文面而已を悅て、器械を不具は、善の善にあらず、又器械を見ても、操練なきは、亦善の善にあらず、文面を能會得し、器械を備、操練を善して、而後、始て善の善と云べき也、都て軍事は陸戰たりとも、操練なき人數は、やたら戰に成事多し、況や水戰は、船の懸引も、一身の進退も、不自由至極なるものなれば、是非に操練なくて不叶事也、然る故に水戰の操練は、操練中の又大切なる操練なりと知べし、必ゆるかせにする事勿れ、然と云ども、一向に操練而已に泥めば、亦血戰に鈍くなる事あり、能彼是の交を呑込て、操練血戰、二ッながら全きを妙と爲べし、扨既に海國水戰の義を述し上は、亦略陸戰の事をも話べし、因て第二卷より十六卷迄を書記して、以て大小戰鬪の大較を示す、讀者忽に爲事勿れ、左に圖する文武學校は、初より段々云る如く、まづ五六十萬石の國の形勢を以て圖する所也、然と云ども是は定式の無ものなれば、損益廣狹は心の儘に致さる〻事也、只其趣意さへ失はざれば、一二萬石の國と云ども建立せらるべし、況や其上なるをや、只返す〳〵も一圖に泥む事勿れ、附此意を推及して一家の內、子弟を敎る事も、亦此趣意を以てすべし、斯の如くならば、上、大將より、下、士庶に至る迄、皆文武兼備の趣を呑込て、其國柄、其人柄、當世に十倍して、目出度事此上もなき事なるべし、
新字:後世、必唐山韃靼の地より日本を侵掠する企を為す者起るべし、怠る事なかれ、怠る事なかれ、是開闢より三千年の後、今日に至て、小子始て発言する所なり、窃に憶へば、此説話、小子が度に過たり、若くは塩竈大神の詫宣にもある歟、初発より玆に至ては小子が千古独見にして、日本武備の綱領斯に在と、窃に誇る所也、然と云ども文面而已を悦て、器械を不具は、善の善にあらず、又器械を見ても、操練なきは、亦善の善にあらず、文面を能会得し、器械を備、操練を善して、而後、始て善の善と云べき也、都て軍事は陸戦たりとも、操練なき人数は、やたら戦に成事多し、況や水戦は、船の懸引も、一身の進退も、不自由至極なるものなれば、是非に操練なくて不叶事也、然る故に水戦の操練は、操練中の又大切なる操練なりと知べし、必ゆるかせにする事勿れ、然と云ども、一向に操練而已に泥めば、亦血戦に鈍くなる事あり、能彼是の交を呑込て、操練血戦、二ッながら全きを妙と為べし、扨既に海国水戦の義を述し上は、亦略陸戦の事をも話べし、因て第二巻より十六巻迄を書記して、以て大小戦闘の大較を示す、読者忽に為事勿れ、左に図する文武学校は、初より段々云る如く、まづ五六十万石の国の形勢を以て図する所也、然と云ども是は定式の無ものなれば、損益広狭は心の儘に致さる〻事也、只其趣意さへ失はざれば、一二万石の国と云ども建立せらるべし、況や其上なるをや、只返す〳〵も一図に泥む事勿れ、附此意を推及して一家の内、子弟を教る事も、亦此趣意を以てすべし、斯の如くならば、上、大将より、下、士庶に至る迄、皆文武兼備の趣を呑込て、其国柄、其人柄、当世に十倍して、目出度事此上もなき事なるべし、
書き下し
後世、必唐山韃靼の地より日本を侵掠する企を爲す者起るべし、怠る事なかれ、怠る事なかれ、是開闢より三千年の後、今日に至て、小子始て發言する所なり、竊に憶へば、此說話、小子が度に過たり、若くは鹽竈大神の詫宣にもある歟、初發より玆に至ては小子が千古獨見にして、日本武備の綱領斯に在と、竊に誇る所也、然と云ども文面而已を悅て、器械を不具は、善の善にあらず、又器械を見ても、操練なきは、亦善の善にあらず、文面を能會得し、器械を備、操練を善して、而後、始て善の善と云べき也、都て軍事は陸戰たりとも、操練なき人數は、やたら戰に成事多し、況や水戰は、船の懸引も、一身の進退も、不自由至極なるものなれば、是非に操練なくて不叶事也、然る故に水戰の操練は、操練中の又大切なる操練なりと知べし、必ゆるかせにする事勿れ、然と云ども、一向に操練而已に泥めば、亦血戰に鈍くなる事あり、能彼是の交を呑込て、操練血戰、二ッながら全きを妙と爲べし、扨既に海國水戰の義を述し上は、亦略陸戰の事をも話べし、因て第二卷より十六卷迄を書記して、以て大小戰鬪の大較を示す、讀者忽に爲事勿れ、左に圖する文武學校は、初より段々云る如く、まづ五六十萬石の國の形勢を以て圖する所也、然と云ども是は定式の無ものなれば、損益廣狹は心の儘に致さる〻事也、只其趣意さへ失はざれば、一二萬石の國と云ども建立せらるべし、況や其上なるをや、只返す〳〵も一圖に泥む事勿れ、附此意を推及して一家の內、子弟を敎る事も、亦此趣意を以てすべし、斯の如くならば、上、大將より、下、士庶に至る迄、皆文武兼備の趣を呑込て、其國柄、其人柄、當世に十倍して、目出度事此上もなき事なるべし、
現代語訳
後世、きっと中国や韃靼の地から日本を侵略する企てをする者が現れるでしょう。怠ってはなりません、怠ってはなりません。これは開闢から三千年の後、今日になって、私が初めて発言することです。ひそかに思うに、この説は私の度を過ぎているかもしれません。あるいは塩竈大神(陸奥の塩竈神社の神)のお告げでもあるのでしょうか。最初からここに至るまで、私一人の千古の独自の見解であり、日本の武備の綱領はここにあると、ひそかに誇るところです。しかし、文面だけを喜んで器械(武器)を備えないのは、善の善ではありません。また器械を備えても、操練がなければ、同じく善の善ではありません。文面をよく会得し、器械を備え、操練を十分にして、その後で初めて善の善と言えるのです。総じて軍事は、陸戦でも、操練のない人数は、むやみな戦いになることが多いものです。ましてや水戦は、船の駆け引きも、自分の身の動きも、不自由きわまりないので、ぜひとも操練がなくてはなりません。だから水戦の操練は、操練の中でも特に大切な操練だと知ってください。決しておろそかにしてはなりません。とはいえ、ひたすら操練ばかりにこだわれば、血戦に鈍くなることがあります。あれこれの交わりをよく飲み込んで、操練と血戦の二つを全うするのを妙とすべきです。さて、すでに海国の水戦の義を述べたからには、陸戦のことも略して話しておきます。そこで第二巻から第十六巻までを書き記し、大小の戦闘のあらましを示します。読む者は、おろそかにしてはなりません。左に図示する文武学校は、最初から順に述べているとおり、まず五、六十万石の国の形勢で図したものです。しかし、これは定式のあるものではないので、損益や広さ狭さは思いのままにしてください。ただその趣意さえ失わなければ、一、二万石の国でも建立できます。ましてそれより大きな国ならなおさらです。ただ、くれぐれも一つの図にこだわってはなりません。この趣意を推し広めて、一家の中で子弟を教えることも、この趣意でするとよいでしょう。そのようにすれば、上は大将から下は士庶に至るまで、皆が文武兼備の趣旨を飲み込んで、その国柄、その人柄が当世の十倍にもなり、めでたいことこの上ないでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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孟子・告子章句上孟季子、公都子に問いて曰く、「何を以て義は內と謂うや。」曰く、「吾が敬を行う。故に之を內と謂うなり。」「鄉人、伯兄より長ずること一歲ならば、則ち誰をか敬せん。」曰く、「兄を敬せん。」「酌まば則ち誰をか先にせん。」曰く、「先づ鄉人に酌まん。」「敬する所は此に在り、長ずる所は彼に在り。果して外に在り。内に由るに非ざるなり。」公都子、答うること能わず。以て孟子に告ぐ。孟子曰く、「叔父を敬せんか、弟を敬せんか、ととえ。彼將に曰んとす、『叔父を敬せん。』曰え、『弟、尸為らば、則ち誰をか敬せん。』彼將に曰んとす、『弟を敬せん。』子曰え、『惡にか在る其の叔父を敬するや。』彼將に曰んとす、『位に在るの故なり。』子亦た曰え、『位に在るの故ならば、庸の敬は兄に在り、斯須の敬は鄉人に在り。』」季子之を聞きて曰く、「叔父を敬すべければ則ち敬し、弟を敬すべければ則ち敬す。果して外に在り。内に由るに非ざるなり。」公都子曰く、「冬日は則ち湯を飲み、夏日は則ち水を飲む。然らば則ち飲食も亦た外に在るか。」
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老子・第43章天下の至柔は、天下の至堅を馳騁す。有る無きものは間無きに入る。吾れ是を以て無為の益有るを知る。不言の教え、無為の益は、天下之に及ぶこと希なり。
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尚書・呂刑刑罰は世々に輕く世々に重し。
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老子・第22章曲なれば則ち全く、枉なれば則ち直く、窪なれば則ち盈ち、敝るれば則ち新たに、少なければ則ち得、多ければ則ち惑う。是を以て聖人は一を抱きて天下の式と為る。自ら見わさず、故に明らかなり。自ら是とせず、故に彰る。自ら伐らず、故に功有り。自ら矜らず、故に長し。夫れ唯だ争わず、故に天下能く之と争う莫し。古の所謂る曲なれば則ち全しとは、豈に虚言ならんや。誠に全くして之に帰す。
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老子・第45章大成は欠くるが若く、其の用は弊れず。大盈は沖しきが若く、其の用は窮まらず。大直は屈するが若く、大巧は拙なるが若く、大弁は訥なるが若し。躁は寒に勝ち、静は熱に勝つ。清静は天下の正と為る。
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老子・第76章人の生くるや柔弱、其の死するや堅強なり。万物草木の生くるや柔脆、其の死するや枯槁たり。故に堅強なる者は死の徒、柔弱なる者は生の徒なり。是を以て兵強ければ則ち勝たず、木強ければ則ち兵らる。強大は下に処り、柔弱は上に処る。

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