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価原 / 『価原』生を厚くしてこそ廉恥の風が立つ

然レバ人主ヲ始トシテコレニ羽翼タル輩自身ヲ責ザルコトヲ得ンヤ此故ニ政ハ生ヲ厚フスルニ在リ生ヲ厚フスルガ爲ニ用ヲ利ス生薄ケレバ貪ラザルコトヲ得ズ生厚ケレバ貪ル心ウスログタトヘバ溺ヲ救フガ如シ自水ニ溺ル時ハ子溺ルルトイヘドモ顧ズ自舟中ニ安ンズレバ猫犬ノ溺ルルモ見テ打過ル人ハナシ唯勢ノ足ルト足ラザルトノアイダナリ故ニ民生厚フシテ然シテ後禮讓廉恥ノ風唱フベシ民生厚シトイヘドモ禮讓廉恥ノ風興ラザレバ華奢放恣ニ赴ク華奢放恣ナレバ用足ラズ用足ラザレバ又貪ル故ニ賄賂爭奪興ルナリ夫君ハ臣ノ表也臣ハ君ノ影也表正シケレバ影直シ表傾ケバ影斜也君ニシテ身正シカラザレバ令ストイヘドモ行ハレズ

新字:然レバ人主ヲ始トシテコレニ羽翼タル輩自身ヲ責ザルコトヲ得ンヤ此故ニ政ハ生ヲ厚フスルニ在リ生ヲ厚フスルガ為ニ用ヲ利ス生薄ケレバ貪ラザルコトヲ得ズ生厚ケレバ貪ル心ウスログタトヘバ溺ヲ救フガ如シ自水ニ溺ル時ハ子溺ルルトイヘドモ顧ズ自舟中ニ安ンズレバ猫犬ノ溺ルルモ見テ打過ル人ハナシ唯勢ノ足ルト足ラザルトノアイダナリ故ニ民生厚フシテ然シテ後礼譲廉恥ノ風唱フベシ民生厚シトイヘドモ礼譲廉恥ノ風興ラザレバ華奢放恣ニ赴ク華奢放恣ナレバ用足ラズ用足ラザレバ又貪ル故ニ賄賂争奪興ルナリ夫君ハ臣ノ表也臣ハ君ノ影也表正シケレバ影直シ表傾ケバ影斜也君ニシテ身正シカラザレバ令ストイヘドモ行ハレズ

書き下し

然れば人主を始めとし、これに羽翼たる輩、自身を責めざることを得んや。この故に政は生を厚うするに在り。生を厚うするがために用を利す。生薄ければ貪らざることを得ず。生厚ければ貪る心薄らぐ。たとえば溺れを救うがごとし。自ら水に溺るる時は、子溺るるといえども顧みず。自ら舟中に安んずれば、猫犬の溺るるも見て打ち過ぐる人はなし。唯だ勢いの足ると足らざるとの間なり。故に民生厚うして、然して後、礼譲廉恥の風唱うべし。民生厚しといえども、礼譲廉恥の風興らざれば、華奢放恣に赴く。華奢放恣なれば用足らず。用足らざれば、また貪る。故に賄賂争奪興るなり。夫れ君は臣の表なり。臣は君の影なり。表正しければ影直し。表傾けば影斜めなり。君にして身正しからざれば、令すといえども行われず。

現代語訳

そうであれば、君主をはじめとし、これを助ける者たちは、自分自身を責めないでいられようか。このゆえに、政治は民の暮らしを厚くすることにある。暮らしを厚くするために、用いるものを役立てる。暮らしが薄ければ、貪らずにはいられない。暮らしが厚ければ、貪る心は薄らぐ。たとえば溺れた者を救うようなものである。自分が水に溺れているときは、わが子が溺れていても顧みない。自分が舟の中に安らかにいるなら、猫や犬が溺れているのも、見て通り過ぎる人はいない。ただ余力が足りているか、足りないかの違いである。だから、民の暮らしを厚くして、その後に、礼譲廉恥の風を唱えるべきである。民の暮らしが厚くなっても、礼譲廉恥の風が興らなければ、華美と放縦に向かう。華美と放縦になれば、費えが足りなくなる。費えが足りなければ、また貪る。そのために賄賂や奪い合いが起こるのである。そもそも君主は臣下の表であり、臣下は君主の影である。表が正しければ影も真っすぐで、表が傾けば影は斜めになる。君主として自分の身が正しくなければ、命令しても行われない。

解説

梅園は、人の貪る心は暮らしの薄さから生まれ、暮らしが厚くなれば自然に薄らぐと言います。溺れる者の譬えで、自分が危ないときは我が子さえ顧みられず、安全な舟の中なら犬猫を見捨てる人もいない、と余力の有無で人の振る舞いが変わることを示しました。同時に、暮らしが厚くなっても礼譲廉恥がなければ、華美放縦に流れて再び貪ることになるとも述べます。そして上に立つ者は表であり、下は影だとして、まず自分を正す責任を説きます。余裕がある時こそ礼を整える、という順番は、利益が出た時の会社の習慣づくりにも通じます。
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この章句が説くこと

生を厚くする貪る礼譲廉恥華奢放恣君は臣の表賄賂

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