秘本玉くしげ / 下 手抜きと賄
それゆゑに下なる者もそこを計りて、爲べき事をば多く手ぬきをして、賄をつかひて其事のすむやうにし、又法度にそむきたる事をする者も、賄をつかへば見ぬふりをして是を咎めざる故に、賄を行ふて惡事をなす者も世に多し。猶此外も此すぢに付ては、種種さまざまの正しからざる事多くして、ことごとくは擧るにいとまあらず。餘はおしはかりて知るべき也。
新字:それゆゑに下なる者もそこを計りて、為べき事をば多く手ぬきをして、賄をつかひて其事のすむやうにし、又法度にそむきたる事をする者も、賄をつかへば見ぬふりをして是を咎めざる故に、賄を行ふて悪事をなす者も世に多し。猶此外も此すぢに付ては、種種さまざまの正しからざる事多くして、ことごとくは挙るにいとまあらず。余はおしはかりて知るべき也。
書き下し
それゆゑに下なる者もそこを計りて、為べき事をば多く手ぬきをして、賄をつかひて其事のすむやうにし、又法度にそむきたる事をする者も、賄をつかへば見ぬふりをして是を咎めざる故に、賄を行ふて悪事をなす者も世に多し。猶此外も此すぢに付ては、種々さまざまの正しからざる事多くして、ことごとくは挙るにいとまあらず。余はおしはかりて知るべき也。
現代語訳
それゆえに下の者もそこを見計らって、すべき事を多く手抜きして、賄を使ってその事が済むようにし、また法度に背いた事をする者も、賄を使えば見ぬふりをしてこれを咎めないので、賄を行って悪事をなす者も世に多い。なおこのほかにも、この筋については種々さまざまの正しくない事が多くて、ことごとく挙げる暇がない。その他は推し量って知るべきである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『不動智神妙録』諫言 其四 身を正す取ると捨つるとは義を以てすると云へり、唯今寵臣たるにより、諸大名より賄を厚くし、欲に義を忘れ候事、努々不可有候、貴殿乱舞を好み、自身の能に奢り、諸大名衆へ押て参られ、能を勧められ候事、偏に病と存じ候なり、上の唱は猿楽の様に申し候由、また挨拶のよき大名衆をば、御前に於てもつよく御取成しなさるゝ由、重ねて能く能く御思案可然歟、歌に「心こそ心迷はす心なれ心に心心ゆるすな」
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『都鄙問答』卷之二・或學者、商人ノ學問ヲ譏ノ段曰く、其の詫人より礼銀を受けとり、事を取り持つは、商人ばかりにて候や。商人の外にも、此の類あるべきことなり。答ふ、商人多くは道を聞かざる故、かやうの類有り。又道を知りて、事を取り捌く者は、左様の不義はせざることなり。仮令御領家領の庄屋年寄にても、上の正しき御政道を受けて、事を取り持つ身として、小百姓より、礼銀などを請け取ること有るべきに非ず。元来士と云はるる身が、下々より密々に、礼銀などを請くることあらば、定めて贔屓の沙汰に至るべし。下々と並んで、何ごとにても取り持つ人を、士と云ふべきか。其は盗人と云ふ者にて、士にはあらず。上にたつ人、下より賂などを受けて、政道たつべきや。仮令当分は知れずとも、天知る地知る我知る人知るなれば、終にはあらはれて、天の罰を受くべし。天罰を知らざる者、天下静謐の世に有るべからず。然れ共売人は士にあらざれば、かやうなる不義有るなり。毫釐ほども道に志あらば、なすべきことに非ず。
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『甲陽軍鑑』品第四十一国の仕置武士までの事にいろはせ給へば、其家老必らず賄賂にふけり、礼物をもつて諸役者に諸奉公人共なるにより、彼役者どもの存分我立身したることわざをば、死するまでもよきことと存ずるに付、いはんや存生さかんの時、我に音信つかふ人をば善悪の弁もなく、これはよき人と存じ、御大将へ出頭よく取成て、礼物つかふ人ばかり立身して本のよき者はおし付られ、心いさむ事なく、さながら其大将へ無沙汰申し、ゆく〳〵用にも立まじきと思ふなり、
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『秘本玉くしげ』下 使う者を罰すこれを止る法は、まづ賄を取者を禁むるのみならず、これをつかふ者をきびしくいましめて、何事によらずいささかにても賄をつかふ者相しるるに於ては、急度曲事に申付べしとの旨をつねづねふれおかれて、もし犯す者あらんには、一人二人きびしく咎められなどせば、つかふ者は勿論にて、とる人もおのづからきみわろかるべし。上の制禁ならんには、これをつかはぬを怒ることも得せじ。そもそも賄は、つかふ者にはとがなくして、罪は取者にある事なれ共、取者をのみ制しては止がたければ、つかふ者をいましむるも一つの権道なるべきにや。
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『秘本玉くしげ』下 賄賂の損得すべて世中に此筋盛んなるゆゑに、おのづから国政正しくは行はれがたく、又上に損失ある事おびただしく、下にも損害甚多し。たとへば、金千両入べきところをも、役人へ三百両賄すれば五百両にてすむゆゑに、下にも二百両の得あれども、上には五百両だけの所の損あり。或は五百両にてすむべき事も、賄をせざれば七百両も八百両も入りて、其二百両三百両は脇道へぬけ行やうの事も有て、上にも利なく、下には大損ありて、あまつさへ上を恨み奉ること甚し。されば、国政の大害、下民の大害、此賄に過たるはなし。
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『秘本玉くしげ』下 賄賂は人情惣じて物を得ることを願ふは、千人万人まぬがれがたき人情のつねにて、本より然るべき理也。それに付ては、物を人のくるるを悦ぶも又人情なる故に、物を人に贈りて志のほどをあらはすも、本より然あるべき道理、古今いづれの国とても皆同じ事也。されば万の事に、その相手の人を悦ばせて其事を成就せんとはかるに、賄賂といふ物をつかふ事のあるも、おのづから然るべきいきほひ也。さて物を得るを悦ぶは本より人情なれば、その賄を受るもさのみ咎ともいひがたし。殊更此事、世中のなべてのならひと成ぬる事なれば、其人を深くとがむべき事にもあらず。然れ共、此賄の筋は甚国政の害となる事故に、古より深くこれをいましむる事なれども、とにかくに止がたきものにして、次第に増長し、近来は殊に甚しき事共あり。
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