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価原 / 『価原』赤子を保すように民を治める

ソレ民ヲ治ルノ道ハ赤子ヲ保スルガ如シト云ヘリ君上ハ父母ニシテ民ハ則子ナリ子ハ甘旨膏膩ノ病ヲ釀スヲモ泥土雨露ノ衣服ヲ損フヲモ知ラズ有ルニマカセテ用ヒ仕マフ者ナリ民モソノ如クチト耕シテ餘資有レバ色色ノコトヲ思ヒ出シテ企テ僧巫ノ徒縁ヲ募リ游技ノ輩間ヲ覘ヒ工人結構ヲナシ國ノ富ム方ニ心ノツク者ニアラズ故ニ何程ノ仁政ヲ行ハレテモ湯ヲ以テ雪ニ沃グガ如ク財貨ハトドマル者ニアラズ故ニ子ノ爲ニ甘旨膏膩ヲヒカエ雨露泥土ニ衣服ノヌレザル樣ニ節制ヲ加エザレバ給スル者ハ暇ナク用ユル者ハ災ヲナス災ヲ身ニ受クトイヘドモ節制ヲ加ユル日ハ父母ヲ怨ミ泣キ號ブナリ細民ハ己一身當前ノコトノミヲ見テ大勢ヲ見ザル者ナレバ或ハ一己ニ不便利或ハ情慾ニ伸ビザレバ嬰兒ノ父母ヲ怨ムル如ク左ヤ右興ジテ人心ヲ動搖サスル者ナリ小利ヲ謂テ大利ヲ害スル者ナリ

新字:ソレ民ヲ治ルノ道ハ赤子ヲ保スルガ如シト云ヘリ君上ハ父母ニシテ民ハ則子ナリ子ハ甘旨膏膩ノ病ヲ醸スヲモ泥土雨露ノ衣服ヲ損フヲモ知ラズ有ルニマカセテ用ヒ仕マフ者ナリ民モソノ如クチト耕シテ余資有レバ色色ノコトヲ思ヒ出シテ企テ僧巫ノ徒縁ヲ募リ游技ノ輩間ヲ覘ヒ工人結構ヲナシ国ノ富ム方ニ心ノツク者ニアラズ故ニ何程ノ仁政ヲ行ハレテモ湯ヲ以テ雪ニ沃グガ如ク財貨ハトドマル者ニアラズ故ニ子ノ為ニ甘旨膏膩ヲヒカエ雨露泥土ニ衣服ノヌレザル様ニ節制ヲ加エザレバ給スル者ハ暇ナク用ユル者ハ災ヲナス災ヲ身ニ受クトイヘドモ節制ヲ加ユル日ハ父母ヲ怨ミ泣キ号ブナリ細民ハ己一身当前ノコトノミヲ見テ大勢ヲ見ザル者ナレバ或ハ一己ニ不便利或ハ情慾ニ伸ビザレバ嬰児ノ父母ヲ怨ムル如ク左ヤ右興ジテ人心ヲ動揺サスル者ナリ小利ヲ謂テ大利ヲ害スル者ナリ

書き下し

それ民を治むるの道は、赤子を保するがごとしと言えり。君上は父母にして民はすなわち子なり。子は甘旨膏膩の病を醸すをも、泥土雨露の衣服を損なうをも知らず、有るにまかせて用い仕舞う者なり。民もその如く、ちと耕して余資あれば、色々のことを思い出して企て、僧巫の徒は縁を募り、游技の輩は間を覘い、工人は結構をなし、国の富む方に心の付く者にあらず。ゆえに何ほどの仁政を行われても、湯をもって雪に沃ぐがごとく、財貨はとどまる者にあらず。ゆえに子のために甘旨膏膩を控え、雨露泥土に衣服の濡れざる様に節制を加えざれば、給する者は暇なく、用ゆる者は災いをなす。災いを身に受くといえども、節制を加うる日は父母を怨み泣き叫ぶなり。細民は己が一身当前のことのみを見て、大勢を見ざる者なれば、あるいは一己に不便利、あるいは情欲に伸びざれば、嬰児の父母を怨むがごとく、左や右やと興じて人心を動揺さする者なり。小利を謂いて大利を害する者なり。

現代語訳

そもそも民を治める道は、赤子を守り育てるようなものだと言われる。君主は父母であり、民は子である。子は、うまい物や脂っこい物が病を招くことも、泥や雨露が衣服を傷めることも知らず、あるにまかせて使い果たすものである。民もそれと同じで、少し耕して余りの資があれば、あれこれと思いついて企て、僧や巫女の類は縁を募り、芸で遊ぶ者たちは隙をうかがい、職人は凝った造りをしたがり、国が富む方へ心が向く者ではない。だから、どれほどの仁政を行っても、熱い湯を雪に注ぐように、財貨はとどまらない。そこで、子のために甘い物や脂っこい物を控えさせ、雨露や泥で衣服が濡れないよう節制を加えなければ、与える者は休む間もなく、使う者は災いを招く。災いを身に受けても、節制を加える日には父母を怨んで泣き叫ぶのである。庶民は自分一身の目前のことだけを見て大勢を見ないので、自分に不便であったり、情欲が満たされなかったりすれば、赤子が父母を怨むように、あれこれと騒いで人心を揺るがすものである。小さな利を言い立てて、大きな利を損なう者である。

解説

梅園は、民を治めるのは赤子を養うのに似ていると言い、当時の為政者を父母に、民を子にたとえます。子は目の前の欲しいものに心が向き、節制を加えられると親を怨む。同じように、余りが出た民は思い思いの楽しみに財を使い、どれほど仁政を行ってもたまらず流れていくと見ていました。当時の身分観に基づく見方ですが、論点は、節度が長い目では本人を守るという点です。現代の職場でも、短期の不便の先に大きな利があるルールを、丁寧に伝えることの大切さが読み取れます。
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この章句が説くこと

赤子を保す節制細民小利と大利仁政君上と民

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