酔古堂剣掃 / 集醒・舞衣は暗に動くの兵戈
明識紅樓為無塚之邱壟,迷來認作捨生岩;直知舞衣為暗動之兵戈,快去暫同試劍石。
新字:明識紅楼為無塚之邱壟,迷来認作捨生岩;直知舞衣為暗動之兵戈,快去暫同試剣石。
書き下し
明らかに紅樓の塚無きの邱壟為るを識るも、迷ひ來りては認めて捨生の岩と作す。直ちに舞衣の暗に動くの兵戈為るを知らば、快く去りて暫く試劍石に同じうせよ。
現代語訳
色町の紅い楼閣が、墓標のない墓の塚であることははっきりわかっていても、迷いが生じると、そこを命を投げ捨てる崖と思い定めてしまいます。舞姫の衣が、ひそかに動く武器であることをまっすぐに知ったなら、思い切りよく立ち去って、剣で試し切りされた石のようにすっぱりと断ち切りなさい。
解説
色欲の危うさを、墓と武器にたとえて強く戒めた対句です。紅楼は美しく飾られた楼閣で、ここでは遊里を指します。そこは墓標こそないものの、人を葬る墓の塚のようなものだと言います。頭ではわかっていても、心が迷うと、そこで身を滅ぼすことをかえって本望と思い込んでしまいます。舞衣は舞姫の衣装で、それが人を傷つける兵戈、つまり武器だというのです。試剣石は、剣の切れ味を試して真っ二つに割られた石のことで、きっぱりと断ち切るたとえです。知っていることと、実際に断ち切れることの間には大きな隔たりがあります。誘惑に対しては、分かった時点で迷わず身を引くことが、身を守る唯一の方法なのでしょう。
この章句が説くこと
節制誘惑色欲戒め決断
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