価原 / 『価原』大積りで考える天下の足り
先大勢ヲ治メンニハ大積リヲ知ルベキコトナリ蓋十人ノ耕スヲ一人ニテ食シ盡シ十人ノ織ルヲ一人ニテ著盡サバ九人ハ饑寒ヲ免レザルベシ此故ニ一夫耕シ耘ツテ其妻子ヲ養フベク一婦蠶シ繰ツテ夫子ニ衣スベシ飮食コレヨリ美ニスギ衣服コレヨリ麗ニ過レバ其人ニハ贏アレドモ天下ニ通ジテハ足ラザルベシ有力ノ人ハ匹夫ト同ジカルベキニハアラザレドモ細民ノ爲ニ慮ルニ於テハ察セズンバ有ルベカラズ爽日ハ數金ヲ盡スニアラザレバ一饗ニ供スルニ足ラズ美服ハ數月ノ力ヲ用ユルニアラザレバ一衣トナスニ足ラズモシ齊民ノ風俗自然ト此積リノ外ニ出デバ爭カ饑寒ニ免レン
新字:先大勢ヲ治メンニハ大積リヲ知ルベキコトナリ蓋十人ノ耕スヲ一人ニテ食シ尽シ十人ノ織ルヲ一人ニテ著尽サバ九人ハ饑寒ヲ免レザルベシ此故ニ一夫耕シ耘ツテ其妻子ヲ養フベク一婦蠶シ繰ツテ夫子ニ衣スベシ飲食コレヨリ美ニスギ衣服コレヨリ麗ニ過レバ其人ニハ贏アレドモ天下ニ通ジテハ足ラザルベシ有力ノ人ハ匹夫ト同ジカルベキニハアラザレドモ細民ノ為ニ慮ルニ於テハ察セズンバ有ルベカラズ爽日ハ数金ヲ尽スニアラザレバ一饗ニ供スルニ足ラズ美服ハ数月ノ力ヲ用ユルニアラザレバ一衣トナスニ足ラズモシ斉民ノ風俗自然ト此積リノ外ニ出デバ争カ饑寒ニ免レン
書き下し
まず大勢を治めんには大積りを知るべきことなり。けだし十人の耕すを一人にて食い尽くし、十人の織るを一人にて着尽くさば、九人は饑寒を免れざるべし。この故に一夫耕し耘って、その妻子を養うべく、一婦蚕し繰って夫子に衣すべし。飲食これより美に過ぎ、衣服これより麗に過ぐれば、その人には贏あれども、天下に通じては足らざるべし。有力の人は匹夫と同じかるべきにはあらざれども、細民のために慮るにおいては、察せずんばあるべからず。爽日は数金を尽くすにあらざれば一饗に供するに足らず。美服は数月の力を用ゆるにあらざれば一衣となすに足らず。もし斉民の風俗自然とこの積りの外に出でば、いかでか饑寒に免れん。
現代語訳
そもそも大勢の人々を治めるには、大づかみな見積もりを知らなければならない。思うに、十人が耕したものを一人で食べ尽くし、十人が織ったものを一人で着尽くしたなら、残る九人は飢えと寒さを免れないであろう。このため、一人の男は耕して草を取り、妻子を養うのがよく、一人の女は蚕を飼い糸を繰って、夫と子に着せるのがよい。飲食がこれより贅沢になり、衣服がこれより華美になれば、その人には余りがあっても、天下全体では不足するであろう。力のある人が一庶民と同じであるべきとは言わないが、庶民のために考える上では、察しなければならない。晴れやかな宴は、数金を費やさなければ一度の饗応に足りず、美しい衣は、数か月の労力をかけなければ一着にならない。もし民の風俗が自然とこの見積もりの外へ出てしまえば、どうして飢えと寒さを免れられようか。
解説

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