重職心得箇条 / 第四条
先格古例に二つあり、家法の例格あり、仕癖の例格あり、先づ今此の事を処するに、斯様斯様あるべしと自案を付け、時宜を考へて然る後例格を検し、今日に引き合わすべし。仕癖の例格にても、其の通りにて能(よ)き事は其の通りにし、時宜に叶はざる事は拘泥すべからず。自案と云ふもの無しに、先づ例格より入るは、当今役人の通病(つうへい)なるべし。
書き下し
先格古例に二つあり、家法の例格あり、仕癖の例格あり、先づ今此の事を処するに、斯様斯様あるべしと自案を付け、時宜を考へて然る後例格を検し、今日に引き合わすべし。仕癖の例格にても、其の通りにて能(よ)き事は其の通りにし、時宜に叶はざる事は拘泥すべからず。自案と云ふもの無しに、先づ例格より入るは、当今役人の通病(つうへい)なるべし。
現代語訳
先例や古い決まりには二種類ある。家法としての例と、癖としての例である。まず、いま目の前のこの件をどう処理するか、こうあるべきだと自分の案を立て、時宜を考えたうえで、そのあとに先例を調べ、今日の状況に照らし合わせるべきだ。癖としての先例であっても、そのままでよいことはそのままにし、時宜に合わないことにこだわってはならない。自分の案というものを持たないまま、まず先例から入るのは、いまの役人に共通した病である。
解説
先例には、家法としての例と、癖としての例の二種類があると一斎は分けます。そのうえで、物事に当たるときはまず「こうあるべきだ」と自分の案を立て、時宜を考えてから先例を調べ、今日の状況に照らして合わせよと勧めます。逆に、自案を持たずに先例から入るのは、当時の役人に共通した病だと断じます。前例踏襲が目的化しやすい現代の職場でも、通じる指摘です。前例は答えそのものではなく、自分の案を磨く材料として使う。その順序を守ることが、判断力を鍛えます。
この章句が説くこと
先例自案時宜前例踏襲判断重職心得箇条
関連する章句
-
『政談』遊女河原者の種姓の分事並に乞食の締りの事御先々前御代のとき美濃守が知行所川越に一人の百姓の田地屋敷もなくなりたる故、渡世すへきやうもなくて妻をは四五日先きに暇を出たし、己は頭を剃り道入と名を付け一人の母を連れて所をさまよひ出たるか、熊谷か鴻の巣のへんにて母わつらひたるをすて置き、その身は江戸へ来る、所の者その母に尋ね問ひて川越へをくりかへし、夫より右の道入親棄と云ふことになりたり、美濃守親棄の刑をいかゝ行ふことなるそ、和漢の先例を考へ差出すへしと儒者ともに申し付たるそのとき、某美濃守方へ参りて未だ新参のときなり、何れも考へて親棄の刑は明律にも見えす書籍にもなし、このものゝ始末は畢竟非人なり、母を連れて乞食したるか行きわかれたると云ふ者なり、親棄とは名付かたし、妻をは四五日まへに暇を出たしたれは、乞食するまても母をは伴ひたるところ非人の上には奇篤なり、己は妻と同しく家に居て母を他所へ棄たらは親棄なりと、儒者とも一同に申したれとも、如何様のものにても親を弃つるには忍ひさるはづのことなりとて美濃守合点せす、
-
『墨子』貴義子墨子曰く、凡そ言、凡そ動、天鬼百姓に利ある者は之を為し、凡そ言、凡そ動、天鬼百姓に害ある者は之を舍く。凡そ言、凡そ動、三代の聖王堯・舜・禹・湯・文・武に合う者は之を為し、凡そ言、凡そ動、三代の暴王桀・紂・幽・厲に合う者は之を舍く。
-
『碧巌録』第七十七則垂示に云く、向上に転じ去れば、以て天下の人の鼻孔を穿つべし、鶻の鳩を捉ふるに似たり。向下に転じ去れば、自己の鼻孔、別人の手裏に在り、亀の殻に蔵るるが如し。箇中に忽ち箇有つて出で来たつて道はん、「本来向上向下無し、転ずることを用ゐて什麼か作ん」と。只だ伊に向かつて道はん、「我も也た爾が鬼窟裏に向かつて活計を作すことを知る」と。且く道へ、作麼生か箇の緇素を辨ぜん。良久して云く、条有らば条に攀ぢ、条無くんば例に攀づ。試みに挙し看よ。
-
尚書・周官古に學びて官に入り、事を議するに制を以てすれば、政乃ち迷わず。
-
尚書・君牙嗚呼(ああ)!丕いに顕らかなるかな、文王の謨。丕いに承くるかな、武王の烈。我が後人を啓き佑け、咸く正を以てして欠くる罔し。爾惟れ敬みて乃の訓を明らかにし、用て先王に奉じ若へ。文・武の光命に対揚し、前人に追配せよ。』王若のごとく曰く、『君牙よ、乃惟れ先正に由り、旧典時れ式れ、民の治乱は茲に在り。乃の祖考の行ふ攸に率ひ、乃の辟の乂むる有るを昭らかにせよ。』
-
『春秋左氏伝』昭公十三年 奥主有り、外援無し善に下りて齊肅、賄を藏せず、欲に從はず、施舍して倦まず、善を求めて厭かず。是を以って國を有つ、亦た宜ならずや。我が先君文公は、狐季姬の子なり。獻に寵有り。學を好みて貳はず。生まれて十七年、士五人有り。先大夫子餘・子犯有りて、以って腹心と為す。魏犨・賈佗有りて、以って股肱と為す。齊・宋・秦・楚有りて、以って外主と為す。欒・郤・狐・先有りて、以って内主と為す。亡ぐること十九年、志を守ること彌々篤し。惠・懷民を棄て、民從ひて之に與す。獻に異親無く、民に異望無し。天方に晉を相く。將た何を以ってか文に代へん。此の二君は、子干に異なり。共には寵子有り、國には奧主有り。民に施す無く、外に援無し。晉を去れども送らず、楚に歸れども逆へず。何を以ってか國を冀はん」と。晉虒祁を成す。諸侯の朝して歸る者、皆貳心有り。郠を取るが為の故に、晉將に諸侯を以って來り討たんとす。叔向曰く、「諸侯以って威を示さざる可からず」と。乃ち並びに會を徵して吳に告ぐ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る