碧巌録 / 第七十七則
垂示云。向上轉去。可以穿天下人鼻孔。似鶻捉鳩。向下轉去。自己鼻孔在別人手裏。如龜藏殼。箇中忽有箇出來道。本來無向上向下。用轉作什麼。只向伊道。我也知爾向鬼窟裏作活計。且道作麼生。辨箇緇素。良久云。有條攀條無條攀例。試舉看。
新字:垂示云。向上転去。可以穿天下人鼻孔。似鶻捉鳩。向下転去。自己鼻孔在別人手裏。如亀蔵殼。箇中忽有箇出来道。本来無向上向下。用転作什麼。只向伊道。我也知爾向鬼窟裏作活計。且道作麼生。弁箇緇素。良久云。有条攀条無条攀例。試舉看。
書き下し
垂示に云く、向上に転じ去れば、以て天下の人の鼻孔を穿つべし、鶻の鳩を捉ふるに似たり。向下に転じ去れば、自己の鼻孔、別人の手裏に在り、亀の殻に蔵るるが如し。箇中に忽ち箇有つて出で来たつて道はん、「本来向上向下無し、転ずることを用ゐて什麼か作ん」と。只だ伊に向かつて道はん、「我も也た爾が鬼窟裏に向かつて活計を作すことを知る」と。且く道へ、作麼生か箇の緇素を辨ぜん。良久して云く、条有らば条に攀ぢ、条無くんば例に攀づ。試みに挙し看よ。
現代語訳
垂示に言う。上に向かって転じて行けば、天下の人の鼻に縄を通すことができ、隼が鳩を捕らえるようである。下に向かって転じて行けば、自分の鼻が他人の手の中にあり、亀が甲羅に隠れるようである。そこへ突然誰かが出て来て「もともと上も下もない、転じて何になるのか」と言うかもしれない。その者にはただ「わしもおまえが鬼の洞窟の中で暮らしを立てていることは知っている」と言ってやろう。さて言ってみよ、どうやって黒白を見分けるか。しばらく黙ってから言った。条文があれば条文に拠り、条文がなければ先例に拠る。試みに取り上げてみよ。
解説
圜悟の垂示である。上へ転じれば隼が鳩を捕らえるように人の鼻づらを取り、下へ転じれば亀が甲羅に隠れるように自分の鼻づらを人に取られる、とまず言う。そこへ「もともと上も下もない」と悟ったようなことを言う者が出れば、それは鬼の洞窟で暮らすような空理だと退ける。では黒白をどう見分けるかと問い、しばらく黙ってから「条文があれば条文に、なければ先例に拠る」と言う。高尚な理屈ではなく、目の前の具体的な手がかりに拠って判断せよということである。本則の「超仏越祖の談」に対する雲門の「餬餅」は、その最も具体的な答えになっている。抽象論に逃げず、手がかりに即して判断する姿勢を教える一節である。
この章句が説くこと
向上向下緇素先例判断公案主導権
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