十八史略 / 『十八史略』唐・太宗・民を削れば君も倒れる
上嘗曰君依於國國依於民刻民以奉君猶割肉以充腹腹飽而身斃君富而國亡矣又嘗謂侍臣曰聞西域賈胡得美珠剖身而藏之有諸曰有之曰吏受賊抵法與帝王狥奢欲而亡國者何以異此胡之可笑邪魏徵曰昔魯哀公謂孔子曰人有好忘者徙宅而忘其妻孔子曰又有甚者桀紂乃忘其身亦猶是也
新字:上嘗曰君依於国国依於民刻民以奉君猶割肉以充腹腹飽而身斃君富而国亡矣又嘗謂侍臣曰聞西域賈胡得美珠剖身而蔵之有諸曰有之曰吏受賊抵法与帝王狥奢欲而亡国者何以異此胡之可笑邪魏徴曰昔魯哀公謂孔子曰人有好忘者徙宅而忘其妻孔子曰又有甚者桀紂乃忘其身亦猶是也
書き下し
上嘗て曰く、君は国に依り、国は民に依る。民を刻して以て君に奉ずるは、猶お肉を割きて以て腹を充たすがごとし。腹飽きて身斃る。君富みて国亡ぶ、と。又嘗て侍臣に謂いて曰く、聞く、西域の賈胡、美珠を得れば、身を剖きて之を蔵すと。諸れ有りや、と。曰く、之れ有り、と。曰く、吏、賄賂を受けて法に抵る。帝王の奢欲に徇いて国を亡ぼす者と、何を以て此に異ならん。胡の笑うべきや、と。魏徴曰く、昔、魯の哀公、孔子に謂いて曰く、人に忘るることを好む者有り、宅を徙して其の妻を忘る、と。孔子曰く、又甚しき者有り。桀・紂は乃ち其の身を忘る、と。亦猶お是のごときなり。
現代語訳
太宗はあるとき言いました。「君主は国に支えられ、国は民に支えられている。民から削り取って君主に尽くさせるのは、自分の肉を割いて腹を満たすようなものだ。腹がふくれたときには体が倒れている。君主が富んで国が滅びるのだ」。また、側近にこう尋ねたことがあります。「聞くところでは、西域の商人は美しい珠を手に入れると、自分の体を切り開いてその中に隠すそうだ。本当か」。側近は「本当です」と答えました。太宗は言いました。「役人が賄賂を受けて法に問われるのも、帝王が奢りの欲に従って国を滅ぼすのも、これと何が違うだろう。あの商人を笑えるだろうか」。魏徴は言いました。「昔、魯の哀公が孔子に、物忘れのひどい者が、引っ越しのとき妻を忘れたと話しました。孔子は、もっとひどい者がいます、桀や紂は自分の身を忘れました、と答えました。これもそれと同じことです」。
解説

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貞観政要・君道貞観の初め、太宗侍臣に謂いて曰く、「君為(た)るの道は、必ず須(すべか)らく先ず百姓を存すべし。若し百姓を損じて以て其の身に奉ぜば、猶お股を割きて以て腹に啖(くら)わすがごとし。腹飽きて身斃(たお)る。若し天下を安んぜんとせば、必ず須らく先ず其の身を正すべし。未だ身正しくして影曲がり、上治まりて下乱るる者は有らず。朕は毎(つね)に思う、其の身を傷(そこな)う者は外物に在らず、皆な嗜欲に由りて以て其の禍を成す、と。若し滋味に躭嗜(たんし)し、声色に玩悦(がんえつ)せば、欲する所既に多く、損ずる所も亦た大なり。既に政事を妨げ、又た生民を擾(みだ)す。且つ復た一の非理の言を出ださば、万姓之が為に解体し、怨讟(えんとく)既に作(おこ)り、離叛も亦た興らん。朕は毎に此を思い、敢えて縦逸せず」と。諫議大夫魏徴対えて曰く、「古者(いにしえ)聖哲の主は、皆な亦た近く諸(これ)を身に取る。故に能く遠く諸を物に体す。昔、楚は詹何(せんか)を聘し、其の国を理むるの要を問う。詹何は対うるに修身の術を以てす。楚王又た問う、国を理むること何如、と。詹何曰く、『未だ身理まりて国乱るる者を聞かず』と。陛下の明らかにする所、実に古義に同じ」と。
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貞観政要・倹約貞観四年、太宗侍臣に謂いて曰く、「宮宇を崇飾し、池台に遊賞するは、帝王の欲する所、百姓の欲せざる所なり。帝王の欲する所の者は放逸、百姓の欲せざる所の者は労弊なり。孔子云う、『一言にして以て終身之を行うべき者有るか。其れ恕か。己の欲せざる所、人に施す勿かれ』と。労弊の事は、誠に百姓に施すべからず。朕は尊きこと帝王と為り、富は四海を有す。事毎に己に由る。誠に能く自ら節せん。若し百姓の欲せずんば、必ず能く其の情に順わん」と。魏徴曰く、「陛下は本と百姓を憐れみ、毎に己を節して以て人に順う。臣聞く、『欲を以て人に従う者は昌え、人を以て己を楽しましむる者は亡ぶ』と。隋の煬帝は志は無厭に在り、惟だ奢侈を好む。所司、供奉営造有る毎に、小しく意に称(かな)わずんば、則ち峻罰厳刑有り。上の好む所は、下必ず甚だしき有り。競いて無限を為し、遂に滅亡に至る。此れ書籍の伝うる所に非ず。亦た陛下の目に親しく見る所なり。其の無道なるが為に、故に天は陛下に命じて之に代わらしむ。陛下若し以て足れりと為さば、今日啻(ただ)に足るのみならず。若し以て足らずと為さば、更に万倍此に過ぐるも、亦た足らず」と。太宗曰く、「公の奏対する所は甚だ善し。公に非ずんば、朕安くんぞ此の言を聞くを得んや」と。
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貞観政要・政体貞観六年、太宗侍臣に謂いて曰く、「古の帝王を看るに、興有り衰有り。猶お朝の暮有るがごとし。皆な其の耳目を蔽われ、時政の得失を知らざるが為なり。忠正なる者は言わず、邪諂(じゃてん)なる者は日に進む。既に過ちを見ず。所以に滅亡に至る。朕は既に九重に在り、尽くは天下の事を見る能わず。故に之を卿等に布(し)き、以て朕の耳目と為す。天下に事無く、四海安寧なるを以て、便ち意を存せざる莫かれ。愛すべきは君に非ずや、畏るべきは民に非ずや。天子なる者は、道有れば則ち人推して主と為し、道無ければ則ち人棄てて用いず。誠に畏るべきなり」と。魏徴対えて曰く、「古より国を失うの主は、皆な安きに居りて危うきを忘れ、理に処りて乱を忘るるが為なり。所以に長久なる能わず。今、陛下は四海を富有し、内外清晏なり。能く治道に心を留め、常に深きに臨み薄きを履むがごとくす。国家の暦数、自然に霊長ならん。臣又た聞く、古語に云く、『君は、舟なり。人は、水なり。水は能く舟を載せ、亦た能く舟を覆す』と。陛下、以て畏るべしと為す。誠に聖旨の如し」と。
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貞観政要・君臣鑑戒貞観六年、太宗侍臣に謂いて曰く、「朕聞く、周・秦の初めて天下を得るや、其の事は異ならず。然れども周は則ち惟だ善を是れ務め、功を積み徳を累ぬ。八百の基を保つ能う所以なり。秦は乃ち其の奢淫を恣にし、好んで刑罰を行い、二世に過ぎずして滅ぶ。豈に善を為す者は福祚延長し、悪を為す者は降年永からざるに非ずや。朕又た聞く、桀・紂は帝王なり。匹夫を以て之に比すれば、則ち以て辱と為す。顔・閔は匹夫なり。帝王を以て之に比すれば、則ち以て栄と為す、と。此れ亦た帝王の深き恥なり。朕は毎に此の事を将(もっ)て以て鑒戒と為す。常に逮ばずして、人の笑う所と為らんことを恐る」と。魏徴対えて曰く、「臣聞く、魯の哀公、孔子に謂いて曰く、『人有り、忘るるを好む者、宅を移して乃ち其の妻を忘る』と。孔子曰く、『又た忘るるを好むこと此より甚だしき者有り。丘は桀・紂の君の乃ち其の身を忘るるを見たり』と。願わくは陛下、毎に此を以て慮と為さば、庶(ちか)くは後人の笑いを免れんのみ」と。
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貞観政要・政体貞観八年、太宗侍臣に謂いて曰く、「隋の時、百姓は縦(たと)い財物有るも、豈に此を保つを得んや。朕天下を有ちてより已来、心を存して撫養し、科差する所有る無し。人人皆な生を営むを得、其の資財を守る。即ち朕の賜う所なり。向(さき)に朕をして科喚(かかん)して已まざらしめば、数(しばしば)資賞賜すと雖も、亦た得ざるに如かず」と。魏徴対えて曰く、「堯・舜上に在り、百姓も亦た『田を耕して食らい、井を鑿(うが)ちて飲む』と云う。哺(ほ)を含み腹を鼓し、而して『帝何の力か』其の間に有らんと云えり。今、陛下は此の如く含養す。百姓は日に用いて知らずと謂うべし」と。又た奏して称す、「晋の文公出でて田(かり)し、獣を碭(とう)に逐い、大沢に入り、迷いて出づる所を知らず。其の中に漁者有り。文公之に謂いて曰く、『我は、若(なんじ)の君なり。道は将に安(いず)くにか出でん。我且つ厚く若に賜わん』と。漁者曰く、『臣は献ずること有らんことを願う』と。文公曰く、『沢を出でて之を受けん』と。是に於いて送りて沢を出づ。文公曰く、『今、子の寡人に教えんと欲する所の者は、何ぞや。願わくは之を受けん』と。漁者曰く、『鴻鵠(こうこく)は河海に保(よ)る。厭(あ)きて之を小沢に徙(うつ)せば、則ち矰丸(そうがん)の憂い有り。黿鼉(げんだ)は深淵に保る。厭きて之を浅渚に出ださば、必ず釣射の憂い有り。今、君は獣を碭に逐い、入りて此に至る。何ぞ行くことの太(はなは)だ遠きや』と。文公曰く、『善いかな』と。従者に謂いて漁者の名を記さしむ。漁者曰く、『君何ぞ名を以てせん。君の天を尊び地に事え、社稷を敬し、四国を保ち、万民を慈愛し、賦斂を薄くし、租税を軽くせんが為なれば、臣も亦た焉(ここ)に与(あずか)らん。君、天を尊ばず、地に事えず、社稷を敬せず、四海を固くせず、外は礼を諸侯に失い、内は民心に逆らわば、一国流亡せん。漁者は厚賜有りと雖も、保つを得ざるなり』と。遂に辞して受けず」と。太宗曰く、「卿の言は是なり」と。
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貞観政要・辨興亡貞観二年、太宗黄門侍郎王珪に謂いて曰く、「隋の開皇十四年、大旱にして、人は多く饑乏す。是の時、倉庫は盈溢す。竟に賑給を許さず。乃ち百姓をして糧を逐わしむ。隋文は百姓を憐れまずして倉庫を惜しむ。末年に至るに比し、天下の儲積を計るに、五六十年に供するを得たり。煬帝は此の富饒を恃む。奢華無道なる所以なり。遂に滅亡を致す。煬帝の国を失うも、亦た此に由る。凡そ国を理むる者は、務めて人に積む。其の倉庫を盈たすに在らず。古人云う、『百姓足らずんば、君孰(たれ)と与に足らんや』と。但だ倉庫をして凶年に備うべからしめば、此の外、何ぞ儲蓄を煩わさんや。後嗣若し賢ならば、自ら能く其の天下を保たん。如し其れ不肖ならば、多く倉庫に積むは、徒らに其の奢侈を益すのみ。危亡の本なり」と。