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神皇正統記 / 巻二 第一代 神武天皇

人皇第一代、神日本磐余彦天皇と申。後に神武となづけたてまつる。地神鸕鶿草葺不合の尊の第四の子。御母玉依姫、海神小童第二[の]女也。伊弉諾尊には六世、大日孁の尊には五世の天孫にまします。神日本磐余彦と申は神代よりのやまとことばなり。神武は中古となりて、もろこしの詞によりてさだめたてまつる御名也。又此御代より代ごとに宮所をうつされしかば、其所を名づけて御名とす。此天皇をば橿原の宮と申、是也。又神代より至て尊を尊と云、其次を命と云ふ。人の代となりては天皇とも号したてまつる。臣下にも朝臣・宿禰・臣などと、いふ号いできにけり。神武の御時よりはじまれる事なり。上古には尊とも命とも兼て称けるとみえたり。世くだりては天皇を尊と申こともみえず、臣を命と云事もなし。古語の耳なれずなれるゆゑにや。此天皇御年十五にて太子に立、五十一にて父神にかはりて皇位にはつかしめ給。ことし辛酉なり。筑紫日向の宮崎の宮におはしましけるが、兄の神達および皇子群臣に勅して、東征のことあり。

新字:人皇第一代、神日本磐余彦天皇と申。後に神武となづけたてまつる。地神鸕鶿草葺不合の尊の第四の子。御母玉依姫、海神小童第二[の]女也。伊弉諾尊には六世、大日孁の尊には五世の天孫にまします。神日本磐余彦と申は神代よりのやまとことばなり。神武は中古となりて、もろこしの詞によりてさだめたてまつる御名也。又此御代より代ごとに宮所をうつされしかば、其所を名づけて御名とす。此天皇をば橿原の宮と申、是也。又神代より至て尊を尊と云、其次を命と云ふ。人の代となりては天皇とも号したてまつる。臣下にも朝臣・宿祢・臣などと、いふ号いできにけり。神武の御時よりはじまれる事なり。上古には尊とも命とも兼て称けるとみえたり。世くだりては天皇を尊と申こともみえず、臣を命と云事もなし。古語の耳なれずなれるゆゑにや。此天皇御年十五にて太子に立、五十一にて父神にかはりて皇位にはつかしめ給。ことし辛酉なり。筑紫日向の宮崎の宮におはしましけるが、兄の神達および皇子群臣に勅して、東征のことあり。

書き下し

人皇第一代、神日本磐余彦天皇と申。後に神武となづけたてまつる。地神鸕鶿草葺不合の尊の第四の子。御母玉依姫、海神小童第二の女也。伊弉諾尊には六世、大日孁の尊には五世の天孫にまします。神日本磐余彦と申は神代よりのやまとことばなり。神武は中古となりて、もろこしの詞によりてさだめたてまつる御名也。又此御代より代ごとに宮所をうつされしかば、其所を名づけて御名とす。此天皇をば橿原の宮と申、是也。又神代より至て尊を尊と云、其次を命と云ふ。人の代となりては天皇とも号したてまつる。臣下にも朝臣・宿禰・臣などと、いふ号いできにけり。神武の御時よりはじまれる事なり。上古には尊とも命とも兼て称けるとみえたり。世くだりては天皇を尊と申こともみえず、臣を命と云事もなし。古語の耳なれずなれるゆゑにや。此天皇御年十五にて太子に立、五十一にて父神にかはりて皇位にはつかしめ給。ことし辛酉なり。筑紫日向の宮崎の宮におはしましけるが、兄の神達および皇子群臣に勅して、東征のことあり。

現代語訳

人皇の第一代は神日本磐余彦天皇と申しあげる。後に神武とお名づけ申しあげた。地神の鸕鶿草葺不合尊の第四の子である。御母は玉依姫で、海神の小童(わたつみ)の第二の娘である。伊弉諾尊からは六世、大日孁尊からは五世の天孫でいらっしゃる。神日本磐余彦と申すのは、神代からの大和言葉である。神武というのは中古になって、中国の言葉によって定め申しあげた御名である。またこの御代から代ごとに宮所を移されたので、その所の名を御名とする。この天皇を橿原の宮と申すのがこれである。また神代には、最も尊い方を尊(みこと)といい、その次を命(みこと)という。人の代となってからは天皇ともお呼び申しあげる。臣下にも朝臣・宿禰・臣などという号ができた。神武の御時から始まったことである。上古には尊とも命とも兼ねて称したと見える。世が下っては、天皇を尊と申すことも見えず、臣を命ということもない。古語が耳慣れなくなったためであろうか。この天皇は御年十五で太子に立ち、五十一で父神に代わって皇位におつきになった。この年は辛酉である。筑紫の日向の宮崎の宮においでになったが、兄の神々および皇子・群臣に勅して、東征のことがあった。

解説

巻二に入り、人の代の最初の天皇、神武天皇の段である。親房はまず名前の整理から始める。神日本磐余彦は神代からの大和言葉、神武は後に中国風に定めた名である。漢風の諡号は奈良時代の後半にまとめて定められたもので、親房もそれが後から付いた名であることを踏まえている。また宮の名で天皇を呼ぶ習い、尊と命の使い分け、臣下の称号の始まりにも触れ、古い言葉が耳慣れなくなって使われなくなったと述べる。制度や呼び名の由来を一つずつ確かめる姿勢が、ここでも一貫している。系譜を伊弉諾尊から六世、天照大神から五世と「世」で数えていることにも注意したい。この書は、父から子へ正統が伝わった数を「世」として、位についた順番の「代」と分けて数えていく。人の代の書き出しで、その数え方がすでに示されているのである。

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