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中朝事実 / 賞罰章・資を賜う・姓を賜う・尊号

天神欲令撥平葦原中國之邪鬼。賜天國玉之子天稚彥天鹿兒弓及天羽羽矢。以遣之。 謹按。是資其臣之始也。蓋樹其風聲。以異人之耳目。鼓舞其勸勤之意。興動其善忠之實者。人君治平之要道也。故賞以厚之。待以深之。而後所其任甚重。所其責能通。天神賞此神如此。而此神不忠誠。忽中還投之矢。隕命。其責速通可以見也。後世立將賜鉄鉞。異其器服。皆賢賢。所以崇獎有德。興起人心。造端於是。乃外朝之旌淑也。 皇孫勅天鈿女命。汝宜以所顯神名爲姓氏焉。因賜猿女君之號。故猿女君等男女皆呼爲君。此其緣也。 謹按。是因其功賜姓號之始也。神武帝東征之日。日臣命忠而且勇。加能有導之功。以賜道臣之名。蓋姓名之號者。所以流芳於百世。而鼓動其善心也。故賜姓命氏必有道。人臣不禀諸時君。則不得爲其氏。其分嚴哉。凡物部大伴之爲姓者。以其威武。〔饒速日命物部氏之遠祖也。物部者武夫之訓也。道臣命大伴氏之遠祖也。日本武尊以靱部賜武日。以爲大伴氏也。〕中臣忌部之爲姓者。因其中直而主祭祀。況藤橘菅江之分。源平紀淸之派。未嘗不以其勳業也。夫名者實之著也。無實而有名。則竟爲虛名。虛名而傳之後世者。遺臭於子孫也。其所賜。其所受。不愼乎。〔以上賜之義。〕 神武帝辛酉年春正月庚辰朔。天皇卽帝位於橿原宮。是歲爲天皇元年。故古語稱之曰。於畝傍之橿原也。太立宮柱於底磐之根。峻搏風於高天之原。而始馭天下之天皇。號曰神日本磐余彥火火出見天皇焉。 謹按。是人臣奉尊號之始也。神代旣有尊命之說也。凡善惡之應終不可掩。故臣有善惡則君糺之。君之善惡天必糺之。天不言而人代之。所謂尊號之善惡是也。至後世有諡之制。唯非人君賞黜於其臣。臣子亦議其君父。臣子非議焉。天下以議之。天下之議者。天之命也。君臣之道。可不愼乎。夫以一時之好惡。蒙百世之榮辱。未知其履歷。而一聞其號諡。則知其人。故所以勸化人心。興懲善惡者在此。然乃賞刑之實。本於人君。以流於天下。行之迹。功之表。出於己。成於人。是其終不可掩也。〔以上尊號之禮。〕

新字:天神欲令撥平葦原中国之邪鬼。賜天国玉之子天稚彦天鹿児弓及天羽羽矢。以遣之。 謹按。是資其臣之始也。蓋樹其風声。以異人之耳目。鼓舞其勧勤之意。興動其善忠之実者。人君治平之要道也。故賞以厚之。待以深之。而後所其任甚重。所其責能通。天神賞此神如此。而此神不忠誠。忽中還投之矢。隕命。其責速通可以見也。後世立将賜鉄鉞。異其器服。皆賢賢。所以崇獎有徳。興起人心。造端於是。乃外朝之旌淑也。 皇孫勅天鈿女命。汝宜以所顕神名為姓氏焉。因賜猿女君之号。故猿女君等男女皆呼為君。此其縁也。 謹按。是因其功賜姓号之始也。神武帝東征之日。日臣命忠而且勇。加能有導之功。以賜道臣之名。蓋姓名之号者。所以流芳於百世。而鼓動其善心也。故賜姓命氏必有道。人臣不禀諸時君。則不得為其氏。其分厳哉。凡物部大伴之為姓者。以其威武。〔饒速日命物部氏之遠祖也。物部者武夫之訓也。道臣命大伴氏之遠祖也。日本武尊以靱部賜武日。以為大伴氏也。〕中臣忌部之為姓者。因其中直而主祭祀。況藤橘菅江之分。源平紀清之派。未嘗不以其勲業也。夫名者実之著也。無実而有名。則竟為虚名。虚名而伝之後世者。遺臭於子孫也。其所賜。其所受。不慎乎。〔以上賜之義。〕 神武帝辛酉年春正月庚辰朔。天皇即帝位於橿原宮。是歳為天皇元年。故古語称之曰。於畝傍之橿原也。太立宮柱於底磐之根。峻搏風於高天之原。而始馭天下之天皇。号曰神日本磐余彦火火出見天皇焉。 謹按。是人臣奉尊号之始也。神代既有尊命之説也。凡善悪之応終不可掩。故臣有善悪則君糺之。君之善悪天必糺之。天不言而人代之。所謂尊号之善悪是也。至後世有諡之制。唯非人君賞黜於其臣。臣子亦議其君父。臣子非議焉。天下以議之。天下之議者。天之命也。君臣之道。可不慎乎。夫以一時之好悪。蒙百世之栄辱。未知其履歴。而一聞其号諡。則知其人。故所以勧化人心。興懲善悪者在此。然乃賞刑之実。本於人君。以流於天下。行之迹。功之表。出於己。成於人。是其終不可掩也。〔以上尊号之礼。〕

書き下し

天神、葦原中國の邪鬼を撥ひ平げしめんと欲し、天國玉の子天稚彥に天鹿兒弓及び天羽羽矢を賜ひ、以て遣はす。 謹んで按ずるに、是れ其の臣に資するの始めなり。蓋し其の風聲を樹て、以て人の耳目を異にし、其の勸勤の意を鼓舞し、其の善忠の實を興動する者は、人君治平の要道なり。故に賞して以て之を厚くし、待つに深きを以てして、而る後、其の任ずる所甚だ重く、其の責むる所能く通ず。天神、此の神を賞すること此くの如し。而して此の神、忠誠ならず、忽ちに中り還る投げ矢に、命を隕す。其の責の速やかに通ずること以て見るべきなり。後世、將を立つるに鉄鉞を賜ひ、其の器服を異にするは、皆賢を賢とする所以にして、有德を崇獎し、人心を興起す。端を是に造るは、乃ち外朝の旌淑なり。 皇孫、天鈿女命に勅す、汝、宜しく顯せる所の神名を以て姓氏と爲せ、と。因りて猿女君の號を賜ふ。故に猿女君等、男女皆呼びて君と爲す。此れ其の緣なり。 謹んで按ずるに、是れ其の功に因りて姓號を賜ふの始めなり。神武帝東征の日、日臣命は忠にして且つ勇、加ふるに導の功有り、以て道臣の名を賜ふ。蓋し姓名の號は、百世に流芳し、其の善心を鼓動する所以なり。故に姓を賜ひ氏を命ずるに必ず道有り。人臣、時君に禀けざれば、則ち其の氏と爲るを得ず。其の分、嚴なるかな。凡そ物部・大伴の姓と爲るは、其の威武を以てなり。〔饒速日命は物部氏の遠祖なり。物部とは武夫の訓なり。道臣命は大伴氏の遠祖なり。日本武尊、靱部を以て武日に賜ひ、以て大伴氏と爲す。〕中臣・忌部の姓と爲るは、其の中直にして祭祀を主るに因る。況んや藤・橘・菅・江の分、源・平・紀・淸の派、未だ嘗て其の勳業を以てせずんばあらず。夫れ名は實の著なり。實無くして名有れば、則ち竟に虛名と爲る。虛名にして之を後世に傳ふるは、臭を子孫に遺すなり。其の賜ふ所、其の受くる所、愼まざるべけんや。〔以上、賜の義。〕 神武帝辛酉年春正月庚辰朔、天皇、帝位に橿原宮に卽く。是の歲を天皇元年と爲す。故に古語に之を稱へて曰く、畝傍の橿原に、底磐の根に宮柱太立て、高天の原に搏風峻りて、始めて天下を馭す天皇、號して神日本磐余彥火火出見天皇と曰ふ、と。 謹んで按ずるに、是れ人臣の尊號を奉るの始めなり。神代にも旣に尊・命の說有るなり。凡そ善惡の應は終に掩ふべからず。故に臣に善惡有れば君之を糺し、君の善惡は天必ず之を糺す。天言はずして人之に代はる。所謂尊號の善惡是れなり。後世に諡の制有るに至り、唯だ人君の其の臣を賞黜するに非ず、臣子も亦た其の君父を議す。臣子議するを非とせば、天下以て之を議す。天下の議は、天の命なり。君臣の道、愼まざるべけんや。夫れ一時の好惡を以て、百世の榮辱を蒙る。未だ其の履歷を知らずして、一たび其の號諡を聞けば則ち其の人を知る。故に人心を勸化し、善惡を興懲する所以の者は此に在り。然れば乃ち賞刑の實は人君に本づき、以て天下に流る。行ひの迹、功の表は、己より出でて、人に成る。是れ其の終に掩ふべからざるなり。〔以上、尊號の禮。〕

現代語訳

天神は葦原中国の邪鬼を払い平らげさせようとして、天国玉の子の天稚彦に天鹿児弓と天羽羽矢を賜い、遣わした。 素行はこう考える。これは臣に資を賜う始めである。そもそも名声を樹て、人の耳目を一新し、励み勤める意を鼓舞し、善と忠の実を奮い起こすのは、君主が治め平らげる要の道である。だから賞して厚くし、深く待遇して、そのうえで任せるところを重くし、責めるところを徹底できる。天神はこの神をこのように賞した。ところがこの神は忠誠でなく、たちまち投げ返された矢に当たって命を落とした。責めが速やかに及んだことがここに見える。後世、将を立てるとき鉄鉞を賜い、その器や服を異にするのは、みな賢者を賢者として遇する所以であり、有徳の人を尊び励まし、人の心を奮い起こす。その端緒をここに造ったのは、外朝(中国)の旌淑(善を表彰すること)に当たる。 皇孫が天鈿女命に勅した。お前は顕した神の名を姓氏とせよ、と。そこで猿女君の号を賜った。そのため猿女君らは男女みな君と呼ぶ。これがその縁である。 素行はこう考える。これは功によって姓や号を賜う始めである。神武天皇が東征したとき、日臣命は忠で勇があり、さらに道案内の功があったので、道臣の名を賜った。姓名の号は百世に名を残し、善い心を鼓舞する所以である。だから姓を賜い氏を命じるには必ず道がある。臣下は時の君から受けなければ、その氏となることはできない。その分け目は厳しい。物部・大伴が姓となったのは、その威武によるものである。(饒速日命は物部氏の遠祖である。物部とは武夫の訓である。道臣命は大伴氏の遠祖である。日本武尊は靫部を武日に賜い、大伴氏とした。)中臣・忌部が姓となったのは、その中直で祭祀を主るためである。まして藤・橘・菅・江の分、源・平・紀・清の派は、いずれもその勲功によらないことはなかった。名は実の現れである。実がなくて名があれば、結局は虚名となる。虚名を後世に伝えるのは、悪臭を子孫に遺すことである。賜うところ、受けるところは、慎まなければならない。(以上、賜の義。) 神武天皇辛酉の年(元年)春正月一日、天皇は橿原宮で帝位に即いた。この年を天皇元年とする。そのため古語にこう称える。畝傍の橿原に、底つ磐根に宮柱を太く立て、高天原に千木を高くそびえさせて、初めて天下を治めた天皇、神日本磐余彦火火出見天皇と号する、と。 素行はこう考える。これは臣下が尊号を奉った始めである。神代にもすでに尊・命の説がある。およそ善悪の応報は最後には隠せない。だから臣に善悪があれば君がこれを糾し、君の善悪は天が必ずこれを糾す。天は言わず、人がこれに代わる。いわゆる尊号の善悪がこれである。後世に諡の制度ができ、君がその臣を賞し退けるだけでなく、臣下や子もその君や父を議するようになる。臣下や子の議を非とすれば、天下がこれを議する。天下の議は天の命である。君臣の道は慎まないでいられようか。一時の好悪によって、百世の栄辱を受ける。その履歴を知らなくても、一たびその号や諡を聞けばその人を知る。だから人心を励まし教化し、善悪を奨励し懲らす所以はここにある。そうであれば賞刑の実は君に基づき、天下に流れる。行いの跡、功の表れは、己から出て、人によって成る。これが最後には隠せない所以である。(以上、尊号の礼。)

解説

任務に見合う資と処遇を与え、功に応じて姓や号を賜い、没後には諡で善悪を定めるという、賞の三つの形が並びます。素行は、名は実の現れで、実のない名は子孫に悪臭を遺すと戒め、諡については天下の議が天の命だと述べます。名を与える側も受ける側も慎重であるべきという主張です。現代の組織でも、肩書きや表彰は実績と釣り合ってこそ人心を励まします。名ばかりの役職を重ねていないかを問い直す材料になります。
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この章句が説くこと

資を賜う姓号名と実尊号諡天稚彦

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