神皇正統記 / 巻一 地神第三代 瓊々杵尊
かくてもろ〳〵の悪神をばつみなへ、まつろへるをばほめて、天上にのぼりて返こと申給。大物主の神事代主の神、相共に八十万の神をひきゐて、天にまうづ。太神ことにほめ給き。「宜八十万の神を領て皇孫をまぼりまつれ。」とて、先かへしくだし給けり。其後、天照太神、高皇産霊尊相計て皇孫をくだし給。八百万の神、勅を承て御供につかうまつる。諸神の上首三十二神あり。其中に五部神と云は、天児屋命天太玉命天鈿女命石凝姥命玉屋命也。此中にも中臣・忌部の二神はむねと神勅をうけて皇孫をたすけまぼり給。又三種の神宝をさづけまします。先あらかじめ、皇孫に勅して曰、「葦原千五百秋之瑞穂国是吾子孫可主之地也[なり]。宜爾皇孫就而治焉。行給矣。宝祚之隆当与天壌無窮者矣。」又太神御手に宝鏡をもち給、皇孫にさづけ祝て、「吾児視此宝鏡当猶視吾。可与同床共殿以為斎鏡。」との給。八坂瓊の曲玉・天の叢雲の剣をくはへて三種とす。又「此鏡の如に分明なるをもて、天下に照臨給へ。八坂瓊のひろがれるが如く曲妙をもて天下をしろしめせ。
書き下し
かくてもろもろの悪神をばつみなへ、まつろへるをばほめて、天上にのぼりて返こと申給。大物主の神事代主の神、相共に八十万の神をひきゐて、天にまうづ。太神ことにほめ給き。「宜八十万の神を領て皇孫をまぼりまつれ。」とて、先かへしくだし給けり。其後、天照太神、高皇産霊尊相計て皇孫をくだし給。八百万の神、勅を承て御供につかうまつる。諸神の上首三十二神あり。其中に五部神と云は、天児屋命天太玉命天鈿女命石凝姥命玉屋命也。此中にも中臣・忌部の二神はむねと神勅をうけて皇孫をたすけまぼり給。又三種の神宝をさづけまします。先あらかじめ、皇孫に勅して曰、「葦原千五百秋之瑞穂国是吾子孫可主之地也なり。宜爾皇孫就而治焉。行給矣。宝祚之隆当与天壌無窮者矣。」又太神御手に宝鏡をもち給、皇孫にさづけ祝て、「吾児視此宝鏡当猶視吾。可与同床共殿以為斎鏡。」との給。八坂瓊の曲玉・天の叢雲の剣をくはへて三種とす。又「此鏡の如に分明なるをもて、天下に照臨給へ。八坂瓊のひろがれるが如く曲妙をもて天下をしろしめせ。
現代語訳
こうして諸々の悪神を罰し、従った者は褒めて、天上に上って復命された。大物主神と事代主神はともに八十万の神を率いて天に参った。大神はとくにお褒めになった。「八十万の神を率いて皇孫をお守り申しあげよ」と言って、まず地上へ帰し降された。その後、天照大神と高皇産霊尊が相談して皇孫を降された。八百万の神が勅を受けてお供に仕えた。諸神の筆頭は三十二神である。そのうち五部神というのは、天児屋命・天太玉命・天鈿女命・石凝姥命・玉屋命である。この中でも中臣・忌部の二神はとくに神勅を受けて皇孫を助け守られた。また三種の神宝をお授けになった。まずあらかじめ皇孫に勅しておっしゃるには、「葦原の千五百秋の瑞穂の国は、わが子孫が君主となるべき地である。なんじ皇孫よ、行って治めよ。さあ行くがよい。皇位の栄えることは、天地とともに窮まりがないであろう」。また大神は御手に宝鏡を持たれ、皇孫に授けて祝い、「わが子がこの宝鏡を見るのは、まさに私を見るのと同じようにせよ。床を同じくし殿をともにして、斎(いわい)の鏡とせよ」とおっしゃった。八坂瓊の曲玉と天の叢雲の剣を加えて三種とする。また「この鏡のように明らかな心で天下に照臨せよ。八坂瓊が広がっているように、たくみな心で天下を治めよ。
解説
関連する章句
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『神皇正統記』巻一 地神第二代 天忍穂耳尊第二代、正哉吾勝々の速日天忍穂耳尊。高皇産霊の尊の女栲幡千々姫の命にあひて、饒速日尊・瓊々杵尊をうましめ給て、吾勝尊葦原中州にくだりますべかりしを、御子うみ給しかば、「かれを下すべし。」と申給て、天上にとゞまります。まづ、饒速日の尊をくだし給し時、外祖高皇産霊尊、十種の瑞宝を授給。瀛都鏡一、辺津鏡一、八握剣一、生玉一、死反玉一、足玉一、道反玉一、蛇比礼一、蜂比礼一、品の物比礼一、これなり。此みことはやく神さり給にけり。凡国の主とてはくだし給はざりしにや。吾勝尊くだり給べかりし時、天照太神三種の神器を伝へ給。のちに又瓊々杵尊にも授ましまししに、饒速日尊はこれをえ給はず。しかれば日嗣の神にはましまさぬなるべし。天照太神・吾勝尊は天上に止り給へど、地神の第一、二にかぞへたてまつる。其始天下の主たるべしとてうまれ給しゆゑにや。
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『神皇正統記』巻一 地神第三代 瓊々杵尊神剣をひきさげては不順るものをたひらげ給。」と勅ましましけるとぞ。 此国の神霊として、皇統一種たゞしくまします事、まことにこれらの勅にみえたり。
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『神皇正統記』巻一 地神第一代 天照太神又天の明玉の神をして、八坂瓊の玉をつくらしめ、天の日鷲の神をして、青幣白幣をつくらしめ、手置帆負・彦狭知の二神をして、大峡小峡の材をきりて瑞の殿をつくらしむ。其物すでにそなはりにしかば、天の香山の五百箇の真賢木をねこじにして、上枝には八坂瓊の玉をとりかけ、中枝には八咫の鏡をとりかけ、下枝には青和幣・白和幣をとりかけ、天の太玉の命をしてさゝげもたらしむ。天の児屋の命をして祈祷せしむ。天の鈿目の命、真辟の葛をかづらにし、蘿葛を手襁にし、竹の葉、飫憇木の葉を手草にし、差鐸の矛をもちて、石窟の前にして俳優をして、相ともにうたひまふ。又庭燎をあきらかにし、常世の長鳴鳥をつどへて、たがひにながなきせしむ。天照太神きこしめして、われこのごろ石窟にかくれをり。葦原の中国はとこやみならん。いかんぞ、天の鈿女の命かくゑらぐするやとおぼして、御手をもてほそめにあけてみ給。この時に、天手力雄の命と云神磐戸のわきに立給しが、其戸をひきあけて新殿にうつしたてまつる。
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『神皇正統記』巻一 地神第三代 瓊々杵尊第三代、天津彦々火瓊々杵尊。天孫とも皇孫とも申。皇祖天照太神・高皇産霊尊いつきめぐみましましき。葦原の中州の主として天降給はんとす。こゝに其国邪神あれてたやすく下給ことかたかりければ、天稚彦と云神をくだしてみせしめ給しに、大汝の神の女、下照姫にとつぎて、返こと申さず。みとせになりぬ。よりて名なし雉をつかはしてみせられしを、天稚彦いころしつ。其矢天上にのぼりて太神の御まへにあり。血にぬれたりければ、あやめ給て、なげくだされしに、天稚彦新嘗てふせりけるむねにあたりて死す。世に返し矢をいむは此故也。さらに又くださるべき神をえらばれし時、経津主の命武甕槌の神みことのりをうけてくだりましけり。出雲国にいたり、はかせる剣をぬきて、地につきたて、其上にゐて、大汝の神に太神の勅をつげしらしむ。その子都波八重事代主神あひともに従申。又次の子健御名方刀美の神したがはずして、にげ給しを、すはの湖までおひてせめられしかば、又したがひぬ。
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『神皇正統記』巻一 地神第一代 天照太神此吾勝尊をば太神めぐしとおぼして、つねに御わきもとにすゑ給しかば、腋子と云ふ。今の世にをさなき子をわかこと云はひが事也。かくて、すさのをの尊なほ天上にましけるが、さまざまのとがをゝかし給き。天照太神いかりて、天の石窟にこもり給。国のうちとこやみになりて、昼夜のわきまへなかりき。もろもろの神達うれへなげき給。其時諸神の上首にて高皇産霊尊と云ふ神ましましき。昔、天御中主の尊、みはしらの御子おはします。長を高皇産霊とも云、次をば神皇産霊、次を津速産霊と云とみえたり。陰陽二神こそはじめて諸神を生じ給しに、直に天御中主の御子と云ことおぼつかなし。。此神、天のやすかはのほとりにして、八百万の神をつどへて相議し給。其御子に思兼と云神のたばかりにより、石凝姥と云神をして日神の御形の鏡を鋳せしむ。そのはじめなりたりし鏡、諸神の心にあはず。次に鋳給へる鏡うるはしくましましければ、諸神悦あがめ給。
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『古語拾遺』天津神籬と斎庭の穂仍りて天児屋命・太玉命・天鈿女命を以て配侍せしむ。因りて又勅して曰く、「吾は則ち天津神籬及び天津磐境を起こし樹てて、当に吾が孫の為に斎い奉るべし。汝天児屋命・太玉命の二神は、宜しく天津神籬を持ちて葦原中国に降り、亦吾が孫の為に斎い奉るべし。惟れ爾二神、共に殿の内に侍いて、能く防護を為せ。宜しく吾が高天原に御す所の斎庭の穂を以て、亦当に吾が児に御せしむべし。宜しく太玉命、諸部の神を率いて、其の職に供奉すること天上の儀の如くすべし」と。仍りて諸神をして亦与に陪従せしむ。復た大物主神に勅すらく、「宜しく八十万神を領いて、永く皇孫の為に護り奉るべし」と。仍りて大伴の遠祖天忍日命をして、来目部の遠祖天槵津大来目を帥いて、仗を帯びて前駈せしむ。既にして且に降らんとする間に、先駆還りて白す。
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