中朝事実 / 皇統章・不肖の子の疑いと天孫降臨
二神之聖何生此二不肖乎。愚謂。噫是何言乎。二氣五行之變。未嘗無過不及。天地之大。其精爲日月星辰。爲名山大川。其粗爲風雲雷雨。爲橫汙丘陵。精粗相因。而後萬物遂。天共覆之。地共載之。是其至大也。至公也。人物在天地亦然。故明暗曲直。柔剛弱强並行。各盡其性。是神聖賛其化也。二神者是天地也。生此明暗柔猛。以主萬物。萬物各盡其性。其道不亦偉乎。因子之說。則取上而遺下。貴桑麻而棄菅蒯也。生此四神。而天下始安。萬民得所。 二神所共議。無俗學可以疑焉。〔以上定本朝之主。〕 天照太神之子。正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊。娶高皇產靈尊之女栲幡千千姬。生天津彥火瓊瓊杵尊。故皇祖高皇產靈尊遂欲立皇孫。以爲葦原中國之主。召集八十諸神而問之曰。吾欲令撥平葦原中國之邪鬼。當遣誰者宜也。惟爾諸神勿隱所知。僉曰。天穗日命是神之傑也。可不試歟。於是俯順衆言。卽以天穗日命往平之。然此神侫媚於大巳貴神。比及三年尙不報聞。是後高皇產靈尊更會諸神。選當遣於葦原中國者。經津主神·武甕槌神。誅諸不順鬼神等。果以復命。干時高皇產靈尊。以眞床追衾覆於皇孫使降之。天降日向襲之高千穗峯矣。到於吾田長屋笠狹之碕矣。 一書云。天照太神。乃賜天津彥火瓊瓊杵尊八坂瓊曲玉及八咫鏡·草薙劒三種寶物。又以中臣上祖天兒屋命。忌部上祖太玉命。猿女上祖天鈿女命。鏡作上祖石凝姥命。玉作上祖玉屋命。凡五部神。使配侍焉。因勅皇孫曰。葦原千五百秋之瑞穗國。是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫就者治焉。行矣。寶祚之隆。當與天壤無窮者矣。
新字:二神之聖何生此二不肖乎。愚謂。噫是何言乎。二気五行之変。未嘗無過不及。天地之大。其精為日月星辰。為名山大川。其粗為風雲雷雨。為横汚丘陵。精粗相因。而後万物遂。天共覆之。地共載之。是其至大也。至公也。人物在天地亦然。故明暗曲直。柔剛弱強並行。各尽其性。是神聖賛其化也。二神者是天地也。生此明暗柔猛。以主万物。万物各尽其性。其道不亦偉乎。因子之説。則取上而遺下。貴桑麻而棄菅蒯也。生此四神。而天下始安。万民得所。 二神所共議。無俗学可以疑焉。〔以上定本朝之主。〕 天照太神之子。正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊。娶高皇産霊尊之女栲幡千千姫。生天津彦火瓊瓊杵尊。故皇祖高皇産霊尊遂欲立皇孫。以為葦原中国之主。召集八十諸神而問之曰。吾欲令撥平葦原中国之邪鬼。当遣誰者宜也。惟爾諸神勿隠所知。僉曰。天穂日命是神之傑也。可不試歟。於是俯順衆言。即以天穂日命往平之。然此神侫媚於大巳貴神。比及三年尚不報聞。是後高皇産霊尊更会諸神。選当遣於葦原中国者。経津主神·武甕槌神。誅諸不順鬼神等。果以復命。干時高皇産霊尊。以真床追衾覆於皇孫使降之。天降日向襲之高千穂峯矣。到於吾田長屋笠狭之碕矣。 一書云。天照太神。乃賜天津彦火瓊瓊杵尊八坂瓊曲玉及八咫鏡·草薙劒三種宝物。又以中臣上祖天児屋命。忌部上祖太玉命。猿女上祖天鈿女命。鏡作上祖石凝姥命。玉作上祖玉屋命。凡五部神。使配侍焉。因勅皇孫曰。葦原千五百秋之瑞穂国。是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫就者治焉。行矣。宝祚之隆。当与天壤無窮者矣。
書き下し
二神の聖、何ぞ此の二の不肖を生まんや、と。愚謂えらく、噫、是れ何の言ぞや。二気五行の変は、未だ嘗て過不及無くんばあらず。天地の大、其の精は日月星辰と為り、名山大川と為り、其の粗は風雲雷雨と為り、横汙丘陵と為る。精粗相因りて、而して後に万物遂ぐ。天は共に之を覆い、地は共に之を載す。是れ其の至大なり、至公なり。人物の天地に在る亦た然り。故に明暗・曲直・柔剛・弱強並び行われ、各おの其の性を尽くす。是れ神聖の其の化を賛くるなり。二神とは是れ天地なり。此の明暗柔猛を生みて、以て万物に主たらしむ。万物各おの其の性を尽くす。其の道、亦た偉ならずや。子に因るの説に因れば、則ち上を取りて下を遺し、桑麻を貴びて菅蒯を棄つるなり。此の四神を生みて、天下始めて安く、万民所を得たり。 二神の共に議る所、俗学の以て疑うべき無し。〔以上、本朝の主を定む。〕 天照太神の子、正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊、高皇産霊尊の女栲幡千千姫を娶り、天津彦火瓊瓊杵尊を生む。故に皇祖高皇産霊尊、遂に皇孫を立てて、以て葦原中国の主と為さんと欲す。八十諸神を召集して問いて曰く、吾、葦原中国の邪鬼を撥い平げしめんと欲す。当に誰を遣わすべきか。惟れ爾ら諸神、知る所を隠すこと勿れ、と。僉曰く、天穂日命は是れ神の傑なり。試みざるべけんや、と。是に於いて衆言に俯順い、即ち天穂日命を以て往きて平げしむ。然れども此の神、大己貴神に侫媚し、三年に比ぶまで尚お報聞せず。是の後、高皇産霊尊、更めて諸神を会し、当に葦原中国に遣わすべき者を選ぶ。経津主神・武甕槌神、諸の不順鬼神等を誅し、果たして以て復命す。時に高皇産霊尊、真床追衾を以て皇孫に覆いて降らしむ。天降りて日向の襲の高千穂峯に至る。吾田の長屋の笠狭の碕に到る。 一書に云う、天照太神、乃ち天津彦火瓊瓊杵尊に八坂瓊曲玉及び八咫鏡・草薙剣の三種の宝物を賜う。又た中臣の上祖天児屋命・忌部の上祖太玉命・猿女の上祖天鈿女命・鏡作の上祖石凝姥命・玉作の上祖玉屋命、凡そ五部の神を以て、配え侍らしむ。因りて皇孫に勅して曰く、葦原千五百秋の瑞穂国は、是れ吾が子孫の王たるべき地なり。宜しく爾皇孫就きて治せ。行きませ。宝祚の隆えまさんこと、当に天壌と窮まり無かるべし、と。
現代語訳
二神のような聖が、どうしてこの二人の不肖の子を生んだのか、とある人が疑う。私(素行)は言う。ああ、これは何という言葉か。二気五行の変化には、過不足が全くなかったことはない。天地の大きさの中で、その精は日月星辰となり、名山大川となり、その粗は風雲雷雨となり、低地や丘陵となる。精と粗が互いに寄りあって、はじめて万物が成り立つ。天はこれをみな覆い、地はこれをみな載せる。これが至大であり至公であることである。人や物が天地にあるのもまた同じである。だから明暗・曲直・柔剛・強弱がともに行われ、それぞれがその性を尽くす。これが神聖がその化を助けるということである。二神は天地そのものである。この明暗・柔猛を生んで、万物の主とした。万物はそれぞれその性を尽くす。その道はなんと偉大ではないか。子についての説(優れた子だけを取る説)に従えば、上を取って下を捨て、桑や麻を貴んで菅や蒯を棄てることになる。この四神を生んではじめて天下は安らかになり、万民は所を得たのである。 二神が共に相談したことは、俗学の見方で疑うべきものではない。(以上、本朝の主を定めた。) 天照太神の子の正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊は、高皇産霊尊の娘の栲幡千千姫を娶り、天津彦火瓊瓊杵尊を生んだ。そこで皇祖の高皇産霊尊は、ついに皇孫を立てて葦原中国の主にしようと考えた。八十の諸神を召集して問うた。私は葦原中国の邪鬼を払い平らげさせたい。誰を遣わすのがよいだろうか。お前たち諸神は知っていることを隠すな、と。みな言った。天穂日命は神の中の傑物です。試してみるべきです、と。そこで衆言に従い、天穂日命を遣わして平らげさせた。しかしこの神は大己貴神に媚びへつらい、三年経っても報告しなかった。その後、高皇産霊尊はあらためて諸神を集め、葦原中国に遣わすべき者を選んだ。経津主神・武甕槌神が、従わない鬼神らを誅し、果たして復命した。時に高皇産霊尊は、真床追衾を皇孫に覆って降らせた。天から降りて日向の襲の高千穂峯に至った。吾田の長屋の笠狭の碕に到った。 一書に言う。天照太神は、天津彦火瓊瓊杵尊に八坂瓊曲玉および八咫鏡・草薙剣の三種の宝物を授けた。また中臣の上祖の天児屋命、忌部の上祖の太玉命、猿女の上祖の天鈿女命、鏡作の上祖の石凝姥命、玉作の上祖の玉屋命、合わせて五部の神を付き従わせた。そして皇孫に勅して言った。葦原千五百秋の瑞穂国は、わが子孫が王となるべき地である。お前、皇孫は赴いて治めなさい。行きなさい。皇位の栄えることは、天地とともに窮まりがないであろう、と。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『中朝事実』皇統章・同床共殿の勅と天孫降臨の意義一書に曰く、天児屋命・太玉命、天忍穂耳尊に陪従して以て降る。是の時、天照太神、手に宝鏡を持ちて天忍穂耳尊に授けて祝ぎて曰く、吾が児、此の宝鏡を視ること当に猶お吾を視るがごとくすべし。与に床を同じくし殿を共にして、以て斎鏡と為すべし、と。復た天児屋命・太玉命に勅す、惟れ爾二神も亦た同じく殿内に侍いて、善く防護を為せ、と。又た勅して曰く、吾が高天原に御す所の斎庭の穂を以て、亦た当に吾が児に御すべし、と。則ち高皇産霊尊の女、万幡姫と号するを以て、天忍穂耳尊に配せて妃と為し、降らしむ。故に時に虚天に居て児を生む。天津彦火瓊瓊杵尊と号す。因りて此の皇孫を以て親に代えて降らしめんと欲す。故に天児屋命・太玉命及び諸部の神等を以て、悉く皆な相授く。且つ服御の物は一に前の授くるに依る。然る後に天忍穂耳尊は復た天に還る。故に天津彦火瓊瓊杵尊、降りて日向の槵日の高千穂の峯に到る。 一書に曰く、天祖天照太神・高皇産霊尊、乃ち相語りて曰く、夫れ葦原瑞穂国は、吾が子孫の王たるべき地なり、と。即ち八咫鏡及び草薙剣の二種の神宝を以て、皇孫に授け賜い、永く天璽と為す。〔所謂る神璽・剣・鏡。〕 謹んで按ずるに、是れ天孫降臨の始めなり。一書に云う、大国主神は亦た大物主神と名づく。亦た国作大己貴命と号す。亦た葦原醜男と曰う。亦た八千戈神と曰う。亦た大国玉神と曰う。亦た顕国玉神と曰う。其の子凡そ一百八十一神有り、と。夫れ大己貴命と少彦名命と、力を戮せ心を一にして天下を経営す。蓋し二神寂然として長く隠れて後、大己貴命〔素戔鳴尊の子。〕・少彦名命〔高皇産霊尊の子。〕、此の国を平げ、大造の績を建つ。大己貴命・其の子事代主神、及び八十万神を天の高市に合わせ、帥いて以て天に昇り、其の誠款の至りを陳ぶ。而して後に天孫此の国に天降りたまう。凡そ天神とは生知の聖神にして、事毎に之を問う。衆言に俯順う、其の兼容の量、噫、至れるかな。配侍せしむる五神は、共に大功を此の国に有する者なり。宝祚の隆えまさんこと、当に天壌と窮まり無かるべし、の十字は、天孫の永祚を祝す、天地の徳に合うなり。真床追衾とは、覆うて外無きの義を表し、沢を蒼生に蒙らしむるの名なり。三種の宝物とは、乃ち天神の霊器、伝国の表物にして、其の寄せ甚だ重し。〔神武帝、饒速日命に詔して曰く、是れ実に天神の子ならば、必ず正に表物有らん。相示すべし、と。蓋し伝国の表物を言う。〕天照太神、手に宝鏡を持ちて之を祝す。神勅至れり尽くせり。聖主万万世の厳鑑なり。此の時未だ教学授受の名有らずと雖も、謹んで此の一章を読み、以て其の義を詳らかにすれば、則ち帝者為治の学は、唯だ力を此に用うるに在るか。異域の堯・舜・禹の受授の説も、亦た豈に此に外ならんや。〔以上、天孫降臨。〕
-
『中朝事実』神知章・葦原中国平定の人選と登庸の慎み皇祖高皇産霊尊、皇孫を立てて葦原中国の主と為さんと欲す。然るに彼の地に多く螢火の光く神、及び蠅声す邪しき神有り。復た草木咸く能く言語す。故に高皇産霊尊、八十諸神を召し集へて之に問ひて曰く、吾れ葦原中国の邪鬼を撥ひ平らげしめんと欲す。当に誰者を遣はすべき、宜しきや。惟だ爾諸神、知る所を隠すこと勿れ、と。僉曰く、天穂日命は是れ神の傑なり。試みざるべけんや、と。是に衆言に俯順し、即ち天穂日命を以て往きて之を平らげしむ。然るに此の神、大己貴神に佞媚し、三年に及ぶまで尚ほ報聞せず。故に高皇産霊尊、更に諸神を会へて当に遣はすべき者を問ふ。僉曰く、天国玉の子天稚彦は是れ壮士なり。宜しく試みるべし、と。是に高皇産霊尊、天稚彦に天鹿児弓及び天羽羽矢を賜ひて以て遣はす。此の神も亦忠誠ならず。是の後、高皇産霊尊、更に諸神を会へて、当に葦原中国に遣はすべき者を選ぶ。僉曰く、磐裂根裂神の子磐筒男・磐筒女の生める子、経津主神、是れ将の佳き者なり、と。時に天石窟に住める神有り、稜威雄走神の子甕速日神、甕速日神の子熯速日神、熯速日神の子武甕槌神なり。此の神進みて曰く、豈に唯だ経津主神のみ独り丈夫なりや。而も吾れ丈夫に非ざる者かや、と。其の辞気慷慨なり。故に以て経津主神に配し、葦原中国を平らげしむ。二神是に出雲国の五十田狭の小汀に降り到り、諸の不順鬼神等を誅す。果して以て復命す。 謹んで按ずるに、是れ天神の人に登庸するの慎みなり。天神の霊、日の天に中するが如く、万象畢く照らし、片言乃ち通ず。此れ其の神たる所以にして、衆議を尽くし、俯して其の言に順ふは、挙錯を重んずるなり。夫れ人の質、美才有りと雖も、以て之を用ふべし。徳を崇び惑ひを弁ぜざれば、則ち富貴威武声色の場に卓立する能はず。二子の或いは大己貴に媚び、或いは下照姫を娶るは是れなり。経津主神・武甕槌神は、特に確乎として抜くべからざるの量有り。故に大業を建てて以て復命し、尚ほ東方に退きて以て皇孫を防護す。〔経津主神は又云ふ、斎主神。又斎之大人と号す。香取神是れなり。健雷神は鹿島神是れなり。〕其の王が愾むる所に敵し、天下の功を忘れざるは、大なるかな。凡そ時、天造草昧に在り、険の中に動けば、大いに亨りて貞しき者は、大丈夫に非ざれば得ず。人才の難き、人を知るの難き、後世豈に忽せにせんや。外朝の先儒曰く、人を知るは難し、堯舜も以て病と為す、と。孔子も亦聴言観行の戒め有り。然れば乃ち人を知るは、中外之を重んず。宜なるかな。〔以上、登庸の議を詳らかにす。〕 天照太神、天津彦彦火瓊瓊杵尊に、八坂瓊曲玉及び八咫鏡・草薙剣の三種の宝物を賜ふに及び、又中臣上祖天児屋命、忌部上祖太玉命、猿女上祖天鈿女命、鏡作上祖石凝姥命、玉作上祖玉屋命、凡そ五部の神を以て、配侍らしむ。
-
『中朝事実』皇統章・日神の誕生と天下の主を定める二神の議伊弉諾尊・伊弉冊尊、共に議りて曰く、吾已に大八洲国及び山川草木を生めり。何ぞ天下の主たる者を生まざらんや、と。是に於いて日神を生む。大日孁貴と号す。〔大日孁貴、此れを於保比屢咩能武智と云う。孁は音力丁の反。一書に天照大神と云う。一書に天照大日孁尊と云う。〕此の子、光華明彩、六合の内を照徹す。故に二神喜びて曰く、吾が息は多しと雖も、未だ此の若き霊異の児有らず。宜しく久しく此の国に留むべからず。自ら当に早く天に送りて、授くるに天上の事を以てすべし、と。是の時、天地相去ること未だ遠からず。故に天柱を以て天上に挙ぐ。次に月神を生む。〔一書に云う、月弓尊・月夜見尊・月読尊と。〕其の光彩は日に亜ぐ。以て日に配して治むべし。故に亦た之を天に送る。次に蛭児を生む。已に三歳なりと雖も脚猶お立たず。故に天磐櫲樟船に載せて、風に順いて放ち棄つ。次に素戔鳴尊を生む。〔一書に云う、神素戔鳴尊・速素戔鳴尊と。〕此の神は勇悍にして以て安忍す。且つ常に哭泣するを以て行いと為す。故に国内の人民をして多く夭折せしめ、復た青山をして枯に変ぜしむ。故に其の父母二神、素戔鳴尊に勅す、汝は甚だ無道なり。以て宇宙に君臨すべからず。固に当に遠く根国に適くべし、と。遂に逐う。 一書に曰く、伊弉諾尊曰く、吾、御宙の珍の子を生まんと欲す、と。乃ち左の手を以て白銅鏡を持ちたまうときに、則ち化生る神有り。是れを大日孁尊と謂う。右の手に白銅鏡を持ちたまうときに、則ち化生る神有り。是れを月弓尊と謂う。又た首を廻らして顧眄みたまう間に、則ち化る神有り。是れを素戔鳴尊と謂う。即ち大日孁尊及び月弓尊は、並びに是れ質性明麗なり。故に天地を照臨せしむ。素戔鳴尊は、是れ性残害を好む。故に下りて根国を治めしむ、と。 謹んで按ずるに、是れ中国の主を定むるの始めなり。大日孁〔字書に曰く、郎丁の反、女なり。〕貴とは、即ち日神なり。伊勢州の大神宮に鎮坐す。宗廟の厳神、本朝の元祖なり。月弓尊とは月神なり。是れ又た伊勢の別宮と為る。〔倭姫命世記に云う、月夜見命二座。一書に曰く、御形は馬に乗る男、太刀を帯ぶ、と。〕蛭児とは、摂津州の西宮の社、夷三郎是れなり。素戔鳴尊とは、出雲州の大社是れなり。〔或いは曰く、大社は、天神、大己貴の為に造りて供うるなり。素戔鳴は根国に行く。故に中国に降迹無し。後世大己貴を祭り、故に素戔鳴を合祭するなり、と。〕世に一女三男と号す、是れなり。凡そ気聚まり形生ずれば、則ち必ず其の精有り。之を心と謂い、之を性と謂う。是れ其の主なり。天地相成りて、陰陽の精、縣象著明なる、之を日月と謂う。日月とは天地の主なり。四時の運行、寒暑の去来、一日と云い、一月と云い、一歳と云うも、皆な日月を以て綱紀と為す。天地の気候正しからざれば、則ち縣象も又た著明ならず。人民の君長有ること亦た然り。人民の精、以て之に主たるべし。其の精を以てせざれば、則ち人物其の性を尽くす能わざるなり。蓋し二神共に議るとは、其の事を容易にせざるなり。神鏡を以てするとは、明らかにして倚らざるなり。天神の霊と雖も、天下の主を生まんと欲して、惟れ精惟れ一、以て之を見るべし。故に生む所、日と為り月と為りて天地玆に位す。蛭児と為り、素戔嗚と為り、河海の猛悪も亦た其の長有り。夫れ共に生む所は、皆な天神の子にして、其の量に因りて其の分を命ず。噫、神の徳の大なるかな、公なるかな。竊かに按ずるに、天神、天下の主を生まんと欲して、日神以て生ず。故に日神を以て地神の太祖、朝廷宗廟の第一と為す。然れば乃ち歴代の聖主、二神の精一にして縣象著明なるを致すの実を守らざれば、則ち豈に神明の統を承けんや。或ひと疑う、
-
『中朝事実』神敎章・諸神に問い人を選ぶ問学と古の神勅高祖高皇産霊尊、皇孫を葦原中国の主と為さんと欲す。故に高皇産霊尊、八十諸神を召し集へて之に問ひて曰く、吾れ葦原中国の邪鬼を撥ひ平らげしめんと欲す。当に誰者を遣はすべき、宜しきや。惟だ爾諸神、知る所を隠すこと勿れ、と。僉曰く、天穂日命は是れ神の傑なり。試みざるべけんや、と。是に衆言に俯順し、即ち天穂日命を以て往きて之を平らげしむ。然るに此の神、大己貴神に佞媚し、三年に及ぶまで尚ほ報聞せず。故に高皇産霊尊、更に諸神を会へて当に遣はすべき者を問ふ。僉曰く、天国玉の子天稚彦は是れ壮士なり。宜しく試みるべし、と。是に高皇産霊尊、天稚彦に天鹿児弓及び天羽羽矢を賜ひて以て遣はす。此の神も亦忠誠ならず。是の後、高皇産霊尊、更に諸神を会へて、当に葦原中国に遣はすべき者を選ぶ。僉曰く、経津主神は是れ将の佳き者なり、と。遂に武甕槌神を以て経津主神に配し、葦原中国を平らげしむ。 一書に曰く、天稚彦、以て命に報ふる無し。故に天照太神乃ち思兼神を召し、其の来らざるの状を問ふ。 謹んで按ずるに、是れ天神問学の義なり。人必ず長有り短有り。問ひて以て其の情を尽くし、各々其の至善に止まらしむれば、則ち天下の美帰す。若し己に従ひて欲を縦にし、短を護りて言を塞ぎ、或いは問ひて其の両端を尽くさざれば、唯だ虚しく問ふのみ。好問の道、大なるかな。夫れ乾神の霊を以てして問ふを好み、遂に大功を成すを得たり。其の問ふの審らかなる、其の衆言に俯順するは、後の聖主の諫を求め直言を納るるの戒め、至れり。蓋し人君は九重の深きに位し、億兆の上に立つ。特に雷霆の威のみに非ず、特に万鈞の勢のみに非ず。前に龍喉の鱗有り、後に鼎鑊の責有り。言はず威せざるも、人民先づ懼れ栗く。況んや短を護り諫を拒み、嚴肅威猛を以てすれば、言路何ぞ通ぜんや。抑も冕旒の目を蔽ひ、黈纊の耳を塞ぎ、出でては警し入りては蹕するをや。故に人に顔色を仮して其の諫を導き、己を虐げて之を採納し、其の言を待ち、獎進激勧して、天下の善を来たす者は、人君の徳なり。外朝の聖主も亦此に従事す。帝堯の咨若、帝舜の好問にして、四目を明らかにし四聡を達す。禹は昌言を拝し、湯は坐して旦を待つ。周の思兼三王にして、善く万化を経綸す。並び按ずべし。凡そ草昧の始め、軍機の要は、君臣詳議すと雖も、思慮の失、挙措の間、未だ嘗て其の過ち無くんばあらず。天神既に然り。後世豈に之を容易にせんや。遺す所の戒めを示す、又明らかならずや。〔以上、天神問学の義。〕 天照太神、手に宝鏡を持ち天忍穂耳尊に授けて祝ぎて曰く、吾が児、此の宝鏡を視ること、当に猶ほ吾を視るがごとくすべし。与に床を同じくし殿を共にし、以て斎鏡と為すべし、と。 先人曰く、往古の神勅なり、と。〔北畠准后記。〕 謹んで按ずるに、是れ往古の神勅なり。当猶視吾の四字は、乃ち天祖皇孫伝授の天勅、千万世皇統の謹み守る願命なり。其の言簡にして其の旨遠し。堯舜禹の十六字と雖も、豈に此に外れんや。蓋し人の子、恒に在すが如きの敬を存すれば、則ち怠惰の気、終に張るべからず。或いは始めを克くして其の終りを保たず、或いは此に敬して彼に慢るは、日々に遠ざかりて之を忘れ、欲に従ひて慎まざるなり。其の祖を祖とする者は其の下を下とす。未だ其の祖を遺てて其の民に親しむ者有らず。後の聖人、三年父の道を改むる無きを以て孝と為す、亦可ならずや。凡そ其の人を思へば猶ほ其の樹を愛し、其の人を愛すれば鳥にも及ぶ。況んや杯圏をや、況んや其の書をや、況んや此の宝鏡をや。向かひて其の形を視れば、則ち明正無窮の象有り。切に其の道を修むれば、則ち日々彊めて息まざるの誠有り。況んや日月と其の光を合はせ、天地と其の道を明らかにするをや。況んや大神は乃ち是れ宝鏡なるをや。蓋し鏡の物たる、秋金の剛精を採り、銀錫の淬磨を力め、遂に光彩の明を来たす。是れ三徳惟れ成るに非ずや。己を虚しくして以て物を容れ、未だ来らざるを迎へず、既に往くを将らず、掩へば則ち蔵し、用ふれば則ち見る。之を照らして蔵する無く、之を明らかにして私ならず、磨すれども磷がず、涅すれども緇まず、精錬にして悠久なり。之を用ふるに道有り、数々弄すれば則ち明察に過ぎ、久しく襲めば則ち銹渋を生ず。出づるに時有り、入るに節有り、日々新たにして息まず。大いに明鏡の実を得べし。凡そ天下の鏡は皆然り。故に以て人君の存養、学者の省察と為すに足る。外朝の黄帝神鏡を鋳、武王鏡銘を作り、太宗三鑑の戒めを存し、玄宗水心の鏡を異とするは、以て按ずべし。而るに大神の宝鏡は、豈に此等の属ならんや。聖主善く慎みて以て神勅を護り、霊鏡の徳を宗とすれば、則ち洋洋乎として、神は恒に在し、徳は日々に新たなり。唯だ天威顔を違へざるに非ず、坐に食に羹墻に見るのみ。〔以上、往古の神勅。〕
-
『中朝事実』中國章・中国の称と神武帝の東征・都の選び方皇祖高皇産霊尊、遂に皇孫天津彦彦火瓊瓊杵尊を立てて、以て葦原中国の主と為さんと欲す。 謹んで按ずるに、是れ本朝を以て中国と為すの謂なり。是より先、天照太神、天上に在して曰く、葦原中国に保食神有りと聞く、と。然れば則ち中国の称は、往古より既に此れ有るなり。凡そ人物の生成は、一日として未だ曾て水土を襲わずんばあらず。故に平易の土に生成すれば、平易の気を禀けて、性情自ら平易なり。険難の土に生成すれば、険難の気を禀けて、性情危険に堪う。豈に唯だ人のみならんや。鳥獣草木も亦た然り。是れ五方の民、皆な性有りて其の俗を異にする所以なり。蓋し中に、天の中有り、地の中有り、水土人物の中有り、時宜の中有り。故に外〔羅か〕朝に土中に服するの説有り、迦維に天地の中なりとの言有り、南人も亦た天の中を得たりと曰う。愚按ずるに、天地の運る所、四時の交わる所、其の中を得れば、則ち風雨寒暑の会偏らず、故に水土沃にして人物精なり。是れ乃ち中国と称すべし。万邦の衆、唯だ本朝及び外朝のみ其の中を得たり。而して本朝は神代に既に天御中主尊有り、二神国中の柱を建つ。則ち本朝の中国たること、天地自然の勢いなり。神神相生まれ、聖皇連綿として、文武事物の精秀、実に以て相応ず。是れ豈に誣称ならんや。 神武帝、神代の迹を継ぎ、日向国の宮崎宮に都す。曰く、東に美地有り、青山四周せり。彼の地は必ず以て天業を恢弘し、天下に光宅するに足るべし。蓋し六合の中心か、と。遂に東征して初めて中州を平らげ、大倭国の畝傍山の東南、橿原の地を観て、帝宅を経始す。 謹んで按ずるに、運は鴻荒に属し、時は草昧に鍾る。蚰龍鳥虫は処を得、異人は疆を分かちて陵躒す。唯だ此の西辺のみ以て治むべし。故に天孫先ず此に降り、多くの年を歴て、以て正を養う。神武帝に逮び、王沢既に霑い、当に天業を恢弘し天下に光宅するに足るべし。故に此の東征有り、始めて中州の実を拡ぐ。蓋し西は金、東は木なり。西より東に及ぶは、征伐の相剋なり。東より西に及ぶは、化育の相生なり。左旋右行は、乃ち天地日月五行の道、至誠息む無きなり。聖皇の征治は、乾坤以て法るべし。或ひと疑う、二神磤馭廬島を以て国中の柱と為し、廼ち大日本を生む。然れば乃ち天孫の降、何ぞ西偏に在るや、と。愚竊かに謂えらく、是れ末季の俗意を以て、上古の霊神を量るなり。甚だ意見臆説に渉るなり。神聖の道は悠久にして、其の功成る。先ず其の易きに因りて其の極を建て、其の過化を考えて其の業を洪にす。故に其の成るや久しく、其の根本や固し。実に万世不抜の大基なり。博厚は地に配し、高明は天に配し、悠久にして疆り無し。二神の国中の柱と為すは、大日本の中州と為すべき所以の言なり。二神の聖、既に万世に鑑みて、此の洲を以て中国と為し、天孫を以て此の洲に主たらしむ。其の天鑑の巍巍たるかな。
-
『神皇正統記』巻一 地神第三代 瓊々杵尊かくてもろもろの悪神をばつみなへ、まつろへるをばほめて、天上にのぼりて返こと申給。大物主の神事代主の神、相共に八十万の神をひきゐて、天にまうづ。太神ことにほめ給き。「宜八十万の神を領て皇孫をまぼりまつれ。」とて、先かへしくだし給けり。其後、天照太神、高皇産霊尊相計て皇孫をくだし給。八百万の神、勅を承て御供につかうまつる。諸神の上首三十二神あり。其中に五部神と云は、天児屋命天太玉命天鈿女命石凝姥命玉屋命也。此中にも中臣・忌部の二神はむねと神勅をうけて皇孫をたすけまぼり給。又三種の神宝をさづけまします。先あらかじめ、皇孫に勅して曰、「葦原千五百秋之瑞穂国是吾子孫可主之地也なり。宜爾皇孫就而治焉。行給矣。宝祚之隆当与天壌無窮者矣。」又太神御手に宝鏡をもち給、皇孫にさづけ祝て、「吾児視此宝鏡当猶視吾。可与同床共殿以為斎鏡。」との給。八坂瓊の曲玉・天の叢雲の剣をくはへて三種とす。又「此鏡の如に分明なるをもて、天下に照臨給へ。八坂瓊のひろがれるが如く曲妙をもて天下をしろしめせ。